とにかく田舎者なので海外に行くと目が回る(笑)。日頃なら考えられない事をしてしまう場合もある、ジャカルタのスカルノハッタ国際空港がそうだった。あまりの空港の広さに驚いた、乗り換える飛行機にどうやって行けば良いのか皆目分からない。一番最初に作ったプロトタイプの虎竹パスポートケースを手に迷ってしまい、締め忘れたジッパーからパスポートはじめチケットやら何やら全てをロビーに落としていた!
自分でも、そんな事するのか?と今でも思うけれど、実際に落としていたのだから仕方ない。親切な現地の方に声を掛けてもらって紛失は免れたが、知らない土地では平常心を失ってしまう事があるのだなあと、しみじみと感じた。ちなみに、その後も親切な現地の方に出会ってシャトルバスに乗る事ができ、さらに親切な方に降りるターミナルで「ここだよ」と教えてもらい乗り継ぎの飛行機に間に合った。
帰国してからパスポートケースは、ジッパーが開いていても中身が落ちないように革仕切りを工夫した。海外では大事な相棒、少し重くて硬い本体だが作務衣の内ポケットにスッポリ収まる虎竹を一生使うだろうと思っている。
先日、自分にはあまり似合わないお洒落なカフェに入って財布を取り出したら、「ああっ!あの竹ですね!」と店員さんが口を大きく開けて驚いてくれた。そこまでビックリしないだろうと思いながらも、嬉しい。一日ハッピーな気持ちで過ごす事ができた。そんな虎竹シリーズで一番人気は、やはり虎竹名刺入れだ。
そして、これが虎竹名刺入れの原版と呼んでいる加工前の部材である。精密に切断された虎竹を丁寧に生地に貼り付けてあり、これから革細工の工程に進んでいく。それにしても数十単位で作られたものを並べてみたのだけれど、すでにこの段階で美しい。
横から見ていただくと、竹ヒゴがカマボコ状になっていて、手触りが良い事がお分かりいただける。模様のように見えているボツボツは維管束と言う竹の繊維で、表皮に近いほど密になっていて強度が高い。つまり、虎竹名刺入れは使い手に優しく、竹本来の堅牢さを持っているという事だ。
竹は松竹梅の中にあって縁起がよく、何より神秘的な成長力から古来大事にされてきた素材。そして、虎は千里行って千里帰ると言うほどの勢いがあるたとえなので、バイタリティあふれる方にはピッタリだと思う。「世に生を得るは事を成すにあり」土佐高知の英雄、坂本龍馬のような事を話すあなたが持たないで、どうする。
お客様から竹ブローチ(結び)への嬉しいおハガキをいただいた。小学校の頃にお母様からプレゼントされて60年愛用されているなんて、涙が出る。
今回、お届けさせていただいた結びの竹アクセサリーは、あの頃とデザインも作りも全く変わらないそのままだ。
お客様もまだ小さくて、もしかしたら覚えておられないかも知れないが、実はあの頃には竹で編まれたアクセサリーはブローチだけでなくイヤリングやネックレスなど、色とりどりで本当に何でもあるかのように思えるほどだった。
竹編みや色合いまで上手に描がいて頂いた絵を拝見するだけで、小さな竹細工への思いの深さが伝わってくる。本当に竹の仕事は素晴らしい、楽しいと思える瞬間でもある。
この物差しを50年以上手元に置いて使っている。竹は真っ直ぐで、安定性抜群、軽くて手触りが最高、さらに竹肌の色合いが飴色に深まり何とも言えない、惚れ惚れしてしまう。
持ち物には名前を書きなさいと教わっていた、素直なので言われた通りに名前を書いている。一生懸命に出来るだけ丁寧に書いたのが文字から伝わってくる、あの純朴な少年は一体どこに行ったのだろうか?
裏にマグネットが付いていて、黒板に貼り付けられるようになった大型の物差しを教室で見た事があると思う。これも竹で作られている。
竹の物差しは、一般のご家庭はもちろん、職人の現場で使われている事も多い。当たり前だけれど、竹職人の仕事場には様々な竹の物差しがある、そしてそれぞれが独特の存在感を放っている。物差しがないと始まらいからだ。細い丸竹で20本もの差しを使っている職人がいたが、長短ある一本一本が格好良かった事を思い出す。
この30年で茶華道をされる方はかなり減ったのではないかと思う。何を隠そうお茶は続けられなかったが、華道は好きだったので数年間知り合いの先生の所に通っていた。その当時は、どちらも生徒さんも多く、結構厳しかったし熱心に取り組まれている方ばかりだったと記憶している。
そもそも茶華道と竹とは深い関係があって、竹は多用される。竹虎の本店でも茶道、華道で使用する道具は手頃な物から作家の創作した高価な物まで沢山取り扱わせてもらっていた。
茶杓は虎竹はもちろん、今くらいの時期に湯抜きして天日に晒した白竹でも作っていた。虎竹をガスバーナーで油抜きする事を乾式と呼んでいる、この仕事の時の香りも素晴らしいけれど、湿式と言う白竹の湯抜きで竹が放つ香りも好きだった。
虎竹茶杓は全て漆で仕上げる事にした。自然の虎模様に深みが増すのが気に入っている。