忘れられたミカン籠(竹編み盛り籠)

鉄鉢竹籠


昭和の時代、家族の集まる居間には必ずと言っていいほどコタツがあって、その上には決まって竹編みの盛り籠があった。おじいさん、おばあさんから、お孫さんまでが揃ってミカンを剥きながらテレビを観ると言うのが冬の定番だったからミカン籠とも呼ばれたりしていたが、「ミカン籠って何ですか?」と声が上がる。


竹職人


果樹園を経営する友人が、当時と比べて今や柑橘類をはじめとした果物の消費量は半分になっていると話す。なるほど、コタツは無くなる、テレビは無くなりスマホでそれぞれが部屋で楽しむ、そして果物は食べないとなれば、ミカンを入れる盛り籠は知らなくて当然かも知れない。


ミカン籠


しかし、そんな時代の流れの中でも細々ながらも生き続けている、かつてのミカン籠の代表選手のような鉄鉢籠。修行僧が托鉢の時に用い鉄の容器に形が似ているから名付けられた竹籠で、当時は何種類もサイズがあり沢山編まれていた中から、今では一番手頃な大きさを作っている。


虎竹盛り籠


先日、たまたま手の平サイズの小振りな竹籠の別注があって、職人が久しぶりだと楽しそうに編み出した。実は籠は小さいものが手間がかかり難しいが、ちょっとした小物入れに最適なカワイイ虎竹鉄鉢が完成した。





特大サイズのレアな横編み竹籠

特大竹籠


竹虎で普通に販売させてもらっている深竹ざるなどと比べても、圧倒的な大きさと緻密な編み込みで全く異なる竹細工なので横編み竹籠と呼んでいる。少し楕円形になっているので、直径は67センチ×深さ18.5センチ×奥行き63センチという特大サイズだ。


深編竹ざる


深竹ざるも縁巻を籐で二重にしたりした丈夫な作りで、このような50センチサイズの大きさを編み込む職人は激減している。非常に巧みに編まれたザルではあるものの、このレアな横編み竹籠と比べるとどうだろうか?


深編竹ざる


縦に通している竹ヒゴの幅にご注目いただきたい。この竹幅の違いに、思わずアッと驚きの声を上げた方はいませんか?これだけ違う。そして横編みの竹ヒゴの繊細さ、こうして比べてみると日頃は竹細工など手にされてない多くの方でも一目瞭然だと思う。


特大竹籠


現在の日本では恐らく真似できる職人はいない。この見た目の繊細さは使う人の使いやすさや堅牢さ、耐久性となる。そして更にもうひとつ、誰も編めないと確信しているのは竹材にある。この竹籠は、あまりにも綺麗に見えるから真竹と言えば疑う人はいないだろう、しかし、実は孟宗竹で編まれている。あの硬く厚みのある竹材をここまで自由にあしらえるとは、まさにこの道一筋、土佐竹細工の伝統と受け継がれてきた技が生み出した逸品だと思っている。





クルミの手提げ籠バッグの持ち手修理について

クルミバッグ手直し


竹の少ない東北など寒い地域では、山葡萄と並んでクルミの樹皮を使った細工があって人気を博しているが、手提げ籠バッグの場合、持ち手が一番傷みやすいのは竹籠でも、クルミでも同じだ。特にクルミの場合は、堅牢な山葡萄素材に比べるとヒゴが割れやすかったりして耐久性は若干劣ってしまう。


胡桃手提げ籠バッグ修理


樹皮の表皮を剥いだヒゴで編まれているバッグ本体には、同じ素材で持ち手が取付られていたけれどヒゴ折れで使えなくなってしまっていた。持ち手をすっかりやり替えるのが一番との事で、職人は前とは違うクルミの樹皮部分を使って修理をすると言う。


くるみ手提げ籠バッグ


クルミの素朴な色合いを活かした持ち手が付くと、本体とのコントラストが良いのではないかと思っていた通り、出来あがった籠バッグは生まれ変わったように格好がいい。自然素材の素晴らしさを、つくづく感じる持ち手の修理だ。





魔除け?鬼門に置かれた六ツ目籠

虎竹ランドリーバスケット


前にも書かせてもらった事があるが、江戸時代の「用捨箱」という随筆には「昔より目籠は鬼の怖るるといい習わせり」と書かれてあって籠目には魔除けの効果があると信じられていた。古い民家の庭先に長い竹が立てられていて、その先端に六ツ目編みの籠が取付られている写真を見た事がある。籠目に代表される六ツ目編みが沢山の目に見立てられていて悪霊を追い払うと言われ、全国各地に残っている風習だそうだ。


虎竹ランドリーバスケットへのお客様のハガキ


虎竹六ツ目ランドリバスケットをご愛用いただくお客様から届いた葉書には、鬼門に置かれて重宝してくださっいるようで嬉しい。目に見えない力についてはさて置き、美しい竹籠が暮らしの中にひとつあるだけで気持ちが豊かになり、生活に潤いを感じるのは確かだと思うので、これからも末永くお使いいただきたいです。





青空の下で編む竹細工、昔ながらの手付き四ツ目籠

手付き四ツ目籠丸足付


四ツ目籠といえば竹籠の中でも定番の籠で、暮らしの中をはじめ、畑仕事や山仕事など様々なシーンでも使われてきた。それだけに、かつては竹職人のみならず農作業の片手間などに近くにある竹で編まれる事も多かった。


小さい頃、ヤマモモの季節になると近所の山の職人さんが、自分で編んだ四ツ目籠にシダの葉を敷き詰め、その中にワイン色に熟れたヤマモモをいっぱい詰めて届けてくれていた事を思いだす。そう言えばヤマモモだけでなく、大潮ともなれば、四ツ目籠には磯で採れるカラスの口ばしや亀の手と呼んでいた貝がギッシリ入れられていた。竹細工と生活は深く密着し、切っても切れない関係となっていたのだ。


思い起こしてみたら、当時の四ツ目籠には持ち手は付いていなかった。多くの場合、口巻部分にロープが通されていて肩に掛けられるようになっていたと思う。山でも海でも激しく動き回るにはその方が都合が良かったのだ。


野菜籠


今では誰も編む事がなくなり、国産としては、すっかり珍しい籠のひとつになってしまった四ツ目籠には、ご家庭で使いやすいように持ち手を付けている。割れにくい丈夫な細い丸竹の足も付けて、通気性も確保しているから野菜籠としても最適だ。


しかし、何より素晴らしいのは、昔の竹細工の原点のような庭先の青空の下で編み上げる職人の姿である。外で風を感じ、小鳥の遊ぶ声を聞きながら編み進める竹仕事は、たまらなく格好がいい。





あけびの角籠

アケビ角籠


竹籠同様に、アケビ細工も昔から職人さんとの関係があり手提げ籠などを沢山製作してもらってきた。真竹や淡竹など大型の竹材があまり豊富でない寒い地域では、篠竹、スズ竹、根曲竹などの小型の竹をはじめ、こうしたアケビや山葡萄などの蔓を利用した籠文化がある。竹とは又違った魅力があり、つくづく日本の自然の豊かさや、奥深さをいつも感じる。


アケビの角籠を編んでもらいたいと思ってお願いしていた。小振りな籠もいいけれど、少し大型なものを編んでいただく、底面が44センチ×34センチあって深さも30センチある籠は、口部分が萎んだ台形になっている。あのお婆ちゃんが、納屋の二階に干している材料を持ってきて、雪の中で少しづつ手づくりしてくれたのかと思うと嬉しくなる。



虎竹魚籠に取り付けた革ショルダー

虎竹二段角魚籠


虎竹魚籠には良く似た形と大きさの二種類がある。どちらも限定に近いけれど、角型で魚籠としてだけでなく普段使いにもできないかと思って製作してもらった。上蓋を深くしてしっかり固定できるようになっているので、革ベルトを取り付けて仕上げてみた。


虎竹ショルダー、竹虎四代目(山岸義浩)


虎竹ショルダー


こんな感じだが、調節穴を多めにしたので長さは結構お好みで変えられるのではないかと思っている。


虎竹二段角魚籠、竹虎四代目(山岸義浩)


もう一つの魚籠は、職人さんが編めなくなった籠を虎竹で復刻したくて製作してみた。元々は、確かどちら様からか持ち込まれた籠だったと言うから、こうして継承されていく竹もある。


虎竹二段角魚籠


形はできるだけ同じようにしても、やはり細かい所はそれぞれの職人の得手不得手もあって違ってくる。もしかしたら伝言ゲームように、何世代か伝えていくうちに大きくもっと変わっていくのかも知れない。



茶碗籠や脱衣籠に使える、超レアなシダ編み籠

シダ編み籠、竹虎四代目(山岸義浩)


シダ編み籠をご存知だろうか?この30年ブログ「竹虎四代目がゆく!」では何度かご紹介しているので、ご存知の方も多いかと思うが、自然素材の中では最強とも言える防湿性、耐水性のある素材なので昔から台所や、お風呂場などの水回りで使われる籠に多用されてきた。


虎竹の里はシダの里


実は虎竹の里は、虎竹ばかではなく良質のシダの成育する地域でもあり、かつてシダ編み籠が日常使いされている時代には、沢山のシダが伐り出されていたそうだ。なにせ、お隣の久礼の漁師町に、シダ屋さんが2軒もあって集荷していたと言うから凄い時代もあったものだ。




さて、そんなシダ編み籠の職人の仕事を動画にているので、ご覧いただきたい。竹のように自分でヒゴを作るという事はせず、自然にあるままのシダを使用するから、長さや太さによって籠のサイズを決めている。


シダ編み籠


だから、このような二重編みになった大型の籠は、作りたくとも何時でも製作できるという事ではなく、どんなシダ材が取れるかによって制約が出来てしまうから厄介なのだ。


シダ編み籠


メゴ笹洗濯籠にも用いられる編み方が一般的で、それぞれのサイズ感により茶碗籠や脱衣籠などに使わている。


シダ籠


最初に防湿性、耐水性が高いと言ったけれど、まるで天然のプラスチックのような質感で水気を寄せ付けない。使うほどに色合いが濃くなり、昔の籠は真っ黒くなっていたりする物もあって、これが又魅力があるのだ。





コタツ、みかん、鉄鉢と言う名の虎竹盛籠

虎竹盛りかご(鉄鉢)


虎竹の里は果物の里でもあるので、今の季節は国道沿いに農家さんが色鮮やかなポンカンを並べて販売されている。当たり前の光景ではあるが、いつも楽しみにしていて車を停めては何袋か分けいただく。全国的には温州ミカンが多いと思うけれど、こうした柑橘類をコタツの上に置かれた竹籠に入れて、テレビを観るのが日本の冬の定番だった。


虎竹盛りかご(鉄鉢)製造


コタツを使うご家庭が少なくなっているので、随分と古い「日本の冬」かも知れない(笑)。しかし、その当時にはミカンを入れるためのミカン籠は沢山編まれていて、そのひとつが虎竹盛りかごだ。僧が托鉢時に食物を受けるための鉄の容器に形が似ているから鉄鉢(てっぱち)とも呼ばれている。


虎竹盛りかご(鉄鉢)


輪弧編みと呼ばれる編み込みに、網代編みの底を組み合わせて作られる虎竹盛かごは、昔ながらのオーソドックスな形に根強い人気がある。


ミカン籠


元々は白竹で編むことが多かったが、近年は虎竹でも製作させてもらう事が多い。


鉄鉢製作


コタツ、みかん、そして竹籠が過去の物になってしまっても、お使いの皆様が新しい用途を見つけてお使い頂けるように、自分達は作り続けていく。





行商のおばちゃん愛用の背負い籠

角背負い籠、YOSHIHIRO YAMAGISHI


少し前、皆様に復刻しますとお話ししていた背負い籠が遂に出来あがった。真竹の旬がよくなり、竹質がようやく満足できるようになったので、この竹ならと思い編んでもらう事にした。


角背負い籠


この背負い籠の作りは、六ツ目編みの背負い籠とは違い基本的に御用籠と呼ばれていた竹籠と全く同じだ。御用籠は、現在農家さん等で多用されているプラスチックコンテナが出来る前までは、何でも入れて運べる便利で丈夫な角籠として沢山製造されていた。


御用籠の背負い籠


それこそ全国各地で作られていたものが、プラスチックの登場で一気になくなり今ではこのよな背負い籠も、レアな竹細工の逸品と言わさせるをえない。


しょいこ、しょいご


それにしても何年ぶりだろうか?この角籠を背負うのは。硬くしっかりとした感触が何とも心地いい。前にもお話しした事があると思うが、自分が小さい頃に自宅に来られていた行商のおばちゃんは、いつもこの角籠を背負っていた。もっと細かい編み込みの籠で、内側は二段か三段になっていて物入れになっていたように思う。


背負籠


その角籠を焦げ茶色の大きな風呂敷につつんでいて、その風呂敷を広げた瞬間に玄関先に香ばしい鰹節の匂いが広がってお腹が空くのだ(笑)。一日中、お客様の家を目指してアチラコチラと歩いて行くおばちゃん達にとって、この角籠は頼りがいのある無くてはならない大事な仕事道具でありパートナーだったろう。


角背負い籠、竹虎四代目(山岸義浩)


ズッシリ重たい商品を入れる背負い籠が途中で壊れたりしたら大変だ、安心して商売に集中できる竹に大きな信頼を置いていたと思う。そんな事考えていると嬉しくなって、今日の空みたいな晴れやかな気持ちになる。