坂の上から

安和


国道から道をそれて、車がようやっと一台ばあ通れる。ゆるい坂道を上ってくいがぜよ。ここ、ここ。今は安和小学校になっちゅうけんど、ワシの小さい頃には修身塾いう広い道場があったにゃあ。大きい玄関脇にはちょっとした池があって、友達と飛び込んだにゃあ。紅白模様の大きい鯉の尻尾をわしづかみにして、全身ビショビショになったことを覚えちゅう。つい、この間のことみたいぜよ。


庭には大きなクルミの木があったちや。そう、そう。よう実を拾いに行った、行った。競争して形のきれいなクルミの実を集めてから、半分に割って中を綺麗に洗うてから、電気のスイッチヒモの先にしたにゃあ。やさしいお母さんが笑うてくれた。懐かしいぜよ。


坂の上にあがったら、曾じいさんの頃には、この浜から大阪向けて虎竹が運ばれよった言う。波うつ安和の海岸が広がっちゃある。ガキ大将になって、棒きれ振り回して登ってきたあの日と、昔と何ちゃあ変わらんちや。静かで、のどかで、あたたかい。きれいで、安らかで、まっこと元気になる。この狭い谷間にしか育だたん虎竹。昔と何ちゃあ変わらんように、守りたいだけぜよ。


コメントする