
思えば子供の頃から、山の恵みをいっぱい受けて育った世代だと思う。ビワやミカン、ヤマモモなどお腹いっぱい食べられたし、珍しいところではグイミなんて言う果実もあった。そんな中でもアケビは、少なくて森の中を結構探し回った覚えがある。山の職人さんから立派な山芋を頂いて、そんな事を思い出していたが、最近はあまり行かなくなったものの黄色く色づいた山芋の葉を見かける度に、ついつい蔓の行き先を探してしまうくらい、山芋堀りも楽しいものだ。

苦労して掘った大切な山芋を長いまま持ち帰るための背負い籠があれば、強靭な根曲竹で編まれた大振りの背負い籠もある。丈夫な竹材なので、この大きさの籠に芋でもカボチャでも中身の詰まった重たい野菜でも、しっかり詰め込んでも楽々運べてしまう。

今ではほとんど見かける事のない、二重編みになった背負い籠まであったから、活躍できていた当時は少しでも沢山の荷物を運びたいという思いだったに違いない。

今年はじめて見た対馬で編まれた背負い籠、シモゾウという真っ直ぐに伸びて丸く曲がる木材を使って口巻部分が作られている。縦ヒゴに矢竹、横編みに淡竹を使い編まれている。

六ツ目編みの玉入れ籠と同じサイズだけれど、背負い籠には縦に力竹を加えて強度を上げている。この籠と同じ形で、驚くほど大きなサイズの籠を製作させて頂いた事があった、一体何に使われるのか?と不思議に思って聞いてみたら、確か広い公園の管理か何かで枯れ葉を集めるのに使われるとの事だった。

さて、自転車籠とも呼ばれてプラスチックのコンテナが出回るまでは、全国各地で使われていた御用籠がある。何でも入れて運べる万能籠として大活躍していて、この籠を背負って毎週のように来られていた行商のおばちゃんが懐かしい。風呂敷をほどいて、使い込まれ手色艶の良くなった角籠が姿をみせると、玄関先がプ~ンと鰹節の香りに包まれたのは忘れられない。
だからだろうか?どうしても復活させたくて、年末か新年には背負い籠として皆様にご紹介できるように準備している。大事な商品を入れていく仕事道具として、最高に頼りになるパートナーだったろうと、今頃になって思っている。

割った孟宗竹が短くカットされて運ばれてきた。一体に何に使われるのかと思うけれど、新春用の竹飾りとして使われる竹材だ。そもそも竹は「松竹梅」と言われる縁起の良い植物なのだが、お正月には成長と強さの象徴として、家族の健康、繁栄のを願って多用されている。


竹といえば青々とした美しい色合いの竹を思い浮かべる方も多いかも知れないが、あのような真竹は極一部で高知などではほとんど見かけない。虎竹の里の虎竹は淡竹で、表皮は白っぽく粉がふいたように見えるし、孟宗竹にも真竹のような竹表皮の美しい色合いはない。ただ、暖かい日もあったりしてカビが生えてしまう管理の大変さはどんな竹でも同じだ。

ところが、今回竹材は熱と圧力をかけた炭化加工で仕上げるので全く問題ない。


炭化加工すると竹材が蒸し焼き状態となり高い防虫効果や防カビ効果が期待できる竹材となる。近年は、竹の虫の食害が増えているので、鬼おろしや蕎麦せいろ、蕎麦皿、竹二段重箱、竹首枕など炭化加工した竹材を使う製品は多い。

網代編みの竹ざるの裏面を六ツ目編みで補強した、ふたえばらと呼ばれる二重ざるがある。二枚並んだ竹ざるの色合いが異なるので、別の竹ざるかと思われる方もいるかも知れないが、青い竹ヒゴが時間の経過で変色したたけで全く同じ竹ざるだ。
竹ざるの底は、しっかり網代編みされているのに更に六ツ目編みする必要があるのか?不思議に思って、ずっと昔は見栄えなのかと考えていた事もあったけれど、この竹ざるを使う味噌作りを知ってからは必要不可欠な必然の細工だと知った。
梅干しざるとして多用いただいている、定番の網代編みの国産竹ざるをご覧いただいても六ツ目の補強は入れていない。2尺(約60センチ)サイズと大きくとも、梅干しや野菜を干したりする用途では耐久性に全く問題ないからだ。

ところが、もう一つだけ網代編みに六ツ目編みを入れる竹細工がある。それが、自分が手にする1.4尺(約42センチ)の寿司バラだ。二枚の竹ざるを持っているように見えるけれど、実は片方が蓋になっているので、これで1セット。

竹ざるで寿司飯を作るのも面白いけれど、乾燥を防ぐために蓋が付いているのも素晴らしい。大家族だった当時は、大量の寿司飯を作るので、もっと大きな寿司バラだったから、やはり耐久性から二重編みになったと思う。この辺りは味噌バラと同じ、しかし、ピタリとはまる蓋付きとは青物細工の中でも秀逸だ。

さらに、この竹細工が好きなのは網代編みに蓬莱竹が使用されている所。節間が長いので、この程度の大きさなら節を入れずに編まれているから使いやすい。

昨日の30年ブログで青竹踏みの孟宗竹を湯抜きする事に触れた。熱湯を使うのが湯抜きなら、ガスバーナーの炎を使って油抜きするのを火抜きと言う、虎竹に浮かび上がる虎模様は、この工程で竹表皮に鮮やかに現れる。

在庫が少なくなっていた五三竹も、ようやく旬がよくなってきた。大量に流通している竹材ではないので、昔から年に一度か二度の伐採しかしない貴重な竹でもある。こうして新竹が入ると、理由もなくワクワクするのは竹屋だからだろうか。

布袋様のお腹のように膨らんでいる所があるので、布袋竹と言うほうが地元では通りがいい。水戸黄門様が持つ杖のように、デコボコした部分が手に馴染みやすいので遍路杖の他、釣り竿などにも使われる。

油抜きしたばかりの竹の光沢をご覧いただきたい、何か塗装しているかのように輝いているけれど、これが天然の竹の油分なのだ。五三竹は乾燥するほどに硬く、丈夫になるという性質もあるから、まさに杖にはピッタリの素材。今度の加工の時には、油抜きの様子や曲がりを矯正する職人の技も動画でご覧いただけるようにしたいと思っています。

今年の最後の青竹踏みが出来あがり、現在天日干しさせた後に陰干しにして乾燥させている。たまにお客様から聞かれるの事もあるのだが、「青竹」と呼んでいるので竹そのままで製品加工しているように思われる孟宗竹や踏み王くんに使う真竹も、全て湯抜きと言われる加工をしている。

熱湯で竹を煮たてるようにして余分な油分を除去する、こうする事によって竹の耐久性を高めているのだ。お手元に届く竹をご覧になられているだけでは、少し想像しにくいかも知れないが、自然の竹なので当然汚れがついている事もある。

湯抜きは、人が湯船に浸かってから身体の汚れを落とすのと同じで、熱湯処理する事により汚れ落ちしやすくなった竹を高速回転のブラシで一本づつ磨いている。


この時に使うのが微粒子の白砂だ、研磨剤のような役割をしてくれて竹を綺麗に仕上げる事ができる。

ツヤツヤとした竹肌と美しい色合いの青竹踏み。半割しただけの何気ない竹製品のように思えても、自然素材に近い形でお届けするだけに実は手間暇をかけて製造されている。

インドネシアのプロダクトデザイナー、シンギー・カルトノ(Singgih.S.Kartono)さんの竹自転車で虎竹の里の峠道までやって来た。竹自転車など初めて耳にされる方も少ないないと思うけれど、実はフレームに竹を使った自転車は、十数年前から世界各国で作られるようになっている。それも思った以上に多くの国や地域にその動きはあって、竹の豊富な東南アジアをはじめアフリカや南アメリカ、オーストラリア、さらにはヨーロッパやアメリカの会社でも販売がされている。
竹自転車は恐らく海外の方が関心が高いと思うが、数十のブランドやメーカーがある中で、もし購入など考えられる方がおられたら日本でもアフリカのザンビア農村部の貧困地域に貢献するZAMBIKESは購入できる。また国内では、大阪のgerworksがオーダーメイドの竹自転車作りをされているようだし、京都のBamDoo Bikesなどは弓作りの技術をフレームに活かしたユニークな製品作りをされている。
「バンブーを通じてサステナブルな世界の在り方を知ってもらいたい」そう話すシンギーさんの理念には強く共感する。日本の竹は世界最高だと思うし、十分に活かされず忸怩(じくじ)たる思いに日々だ。しかし、昨日の30年ブログでも触れたように、日本の若い方が竹ザルや竹籠すら知らず、竹が遠い存在になっている時代に問いかけていくには、まず価格という大きな課題がある。

安和小学校の3年生、4年生が、地元にあるお店の地図を作ってくれた。表紙の絵がなかなか楽しいが、竹虎の他には社員も良くお世話になっているレストハウス琵琶湖、カレーの美味しい安和八州苑、昔から国道沿いにあるドライバー喫茶ぽえむ、ラーメン遊ゆう安和、小さい頃は良く通ったまるなか釣り具などが取り上げられ、それぞれの店舗に見学に行って書かれたレポートも知らない事もあって面白い。

虎竹の里で生まれ育った若い方が入社された事がある。彼女は、安和小学校時代に虎竹を使った竹細工教室にも参加した事があったのだが、竹虎に来てから白竹を見て驚いたと言っていた。竹といえば虎模様が付いているのが当り前だと思っていたとの事だった。

このように自分達の地域で普通にある竹で作ったが、やはり竹の自動車には子供達も興味を惹かれるようだ。

そう言えば、こんな話を聞いた。とある機会に高校生数名から、これからの竹活用のアイデアをいただく事があったそうだ。そしたら一生懸命に考えてくれた皆様から、「竹でザルや籠を作ってみたらどうでしょうか?」という提案があったそうだ。つまり、元々ザルや籠が竹だった事すら若い世代には知られていないという事だ。来社いただいた安和小学校の生徒さんからは「わたしは、ここで、はたらいてみたいなと思いました。」と感想を書いていただいた、是非お待ちしてます(笑)。

今月続いていた虎竹ヤタラ編みの壁面製作が、いよいよ終盤を迎える。伐採のはじまる特産の虎竹を使った編み込みは、やはり存在感が独特だ、こうして見ていても既に何やら不思議な雰囲気を醸し出している。

隅の方の仕上げに取り掛かっている、これが出来れば編み込みはほぼ完成する。

ヤタラ編みには、決まった編み方の手順というものがなく、職人の感性で作り上げていくから面白味もあるし、難しさもある。手提げ籠など小さな竹細工には前々から多用されていた技法だけれど、近年は虎竹やたらソファベンチや日本唯一の虎竹電気自動車「竹トラッカー」など大きな竹編みにも使われているのだ。

遂に外枠の位置が取り付けられた。こうすると、壁面飾られるイメージが少しだけ沸いてくる。


さて、編み込みが壁面に取り付けられると、一体どんな印象になるのだろうか?


二人で持ち上げて立てかけてみる、下にして編んでいた時には気づかない箇所が見えてくる。

そんな所を見つけては、元に戻して更に編む事を繰り返す。

こうして完成、これはどんなインテリアとなって訪れる方を出迎えてくれるのか、今から楽しみになってきた。

綺麗に仕上がってきた山葡萄の手提げ籠を見て、自分が長くトートバッグ代わりに愛用している棚編みの手提げ籠バッグも、いよいよ修理してもらう事にした。この籠は実は編まれてから100年程度経っているのではないかと言われる、農家さんで腰籠として使われていたものだ。

編み込みの歪みや、不揃いな葡萄ツルなど、最近の籠には見られない仕事道具としての迫力がたまらない魅力だ。大事に使って来たのだけれど、パソコンなど重たい荷物など入れた時にツルの折れやヒビが少しづつ気になっていた。

とうとう、底部分にはこのような大きな穴まで開いてしまっている。

底を付けて置く事は少ないけれど、底の四隅もこのような痛み具合だ。

よくよく見ていただくと、縦ツルを結ぶ横ツルも何本も切れている。

腰籠から手提げ籠にする際、取り付けてもらった持ち手も、この機会にもっと丈夫なものに替えたほうが良さそうだ。

さて、どんな風に手直しが完成するのか?今から待ち遠しいが、出来あがりはもちろん皆様にもご覧いただきたいです。乞うご期待(笑)。

竹細工の修理は、とにかく皆様が考えられる以上に手間がかかる。そもそも籠やザルの種類によって編み方だけでなく、竹素材も異なるので元通りに手直しする事が難しいから、自分の作った籠の修理に限定されている職人が多い。ところが、それぞれ持ち込まれる籠は使い手によって味わい深いものになっている事が多く、どうしても修理して差し上げたくなる。そう先日の「使い込まれたサクランボ籠の修理」に登場する籠など、その典型だ。

山葡萄の手提げ籠バッグなども、元々丈夫な素材とは言え、近年では海外素材の製品も含めて玉石混交なのだろうか?持ち手が切れてしまったと相談があった。

このように、ちぎれる様に切れた持ち手というのはあまり知らない。同じ編み方の持ち手の手提げ籠バックを2個使っているけれど、切ろうと思っても切れないくらいに山葡萄の繊維は強靭だ。バッグに何を入れるにせよ、その程度の重みではビクともしないのが普通だから、素材や作り手に問題があったのだろうと思う。

そこで、元々の籠は持ち手が本体に取り付けてられていたのだが、少しでも強度の高い口巻部分にしっかりと留めてもらった。

持ち手も少し太めになる定番に変更させてもらったので、今まで以上に使いやすくなると思う。

手提げ籠は持ち手が一番酷使されて傷みやすい、けれど、こうして修理が完了すればこの先10年、20年と活躍する新しい籠に生まれ変わる事ができるのだ。