不思議な竹の開花
それにしても不思議な竹の生態です。地下茎で伸びて毎年次々と新しい竹を生み出し、わずか3カ月で20数メートルの大きさに成長する神秘的な生命力。普通の樹木とは反対に、春に竹の秋とよばれる紅葉・落葉(すぐに若葉がでるので多くの方は気づかない)して、一年通して青々とした姿から日本では「松、竹、梅」とめでたい象徴にもなっているのだと思います。そして、今回、120年もの歳月を経て開く竹の花。
6、7年前になりますか、お隣の土佐市で当時最大級の孟宗竹部分開花を見つけた時、竹林の持ち主の方はじめ、地域の方でも竹の花だと知る人は一人もいませんでした。
300数十本もの開花で、竹林が異様な雰囲気になっていましたので、「一体どうしたんだろうか?」とは思っていたと言います。つまり、開花スパンが長いので誰も竹の開花になった竹林を見た事もないのです。
昭和の開花が招いた竹産業の衰退
実は、過去には竹の開花が、竹業界にも大きな影響を及ぼした事がありました。昭和40年代に真竹が一斉に開花した際には、国内の竹材が深刻な不足に陥り、海外からの竹材輸入が加速したといいます。当時は、今とは比べ物にならない程の竹材が使われていましたし、竹に関わって生活されていた方も多かったのです。しかし、これが一因となり日本の竹産業は衰退していきます。今回の開花は、淡竹だけで考えると元々流通量は多くありませんので、国内への深刻な影響を与えるような可能性は低いと思っています。
けれど、日本で唯一の虎竹を扱うボクたちにとりましては、この開花は大きな危機です。100年以上、この地で虎竹を守り続けてきたボクたちにとって、竹林が一時的にでも失われるかもしれないという現実は、言葉に尽くせない重みがあります。
今日も、昨日と何ら変わることなく、当たり前に凛とした姿で青々と繁っている虎竹、見渡す限り続く美しい竹林が、立ち枯れのようになるのは信じられません。
また、虎竹の里から車で数分のところにある黒竹の産地でも、数年前から開花が広がっているのは心配です。虎竹縁台や黒竹玄関すのこなど、細くて黒々とした色艶の黒竹は、なくてはならない竹材のひとつだからです。
竹林再生への長い道のり
花を咲かせた竹林は、枯れた後に種を落とし、新しい芽を出して再生していきます。一般的には、竹林が元の姿に戻るまでには10年から15年かかると聞いています。しかし、先日視察した、岩手県二戸郡のスズ竹林では、再生は5年前からほとんど進んでいないように見えました。もしかすると、竹林が完全に回復するまでには、さらに長い年月を要するのかも知れません。この不確かな未来は、竹虎にとってまさに大きな試練です。
次世代への芽吹き
とは言え、スズ竹の竹林には小さくとも確実に次の世代を担う若葉が芽吹いていました。人と竹の関わりの中で、竹開花の営みは遥か昔から繰り返された事だと思います。驚異的な成長力をみせる竹だから、もしかしたら、これからの再生スピードは上がってくるのかもと期待しています。いずれにせよ、時間はかかろうとも、竹は新しい次の120年に向けて伸びていくきます。