鋸の思い出

弦架鋸


弦架鋸(つるかけのこぎり)とも呼ばれる弓鋸ですぞね。竹工場には小さい頃からこのような形の鋸ばかりやったですので、鋸と言えば、一般的な大工さんが太い柱を切るような長柄のノコギリではなく、まずこの竹鋸鋸しか思いうかばんかったがです。


けんど、この鋸を見かける度に思い出しますちや。あのリズミカルな「目打ち」の音と動作、虎竹は表皮の虎模様が一番大切なので、竹枝を取り除く時にこの表皮が剥がれないように目打ちをしていくがです。目打ちは、目払いと違うて手間がかかる作業ぞね。昔はこの仕事専門のおばちゃんがおって座布団に座り、切り込みの入った木の道具に竹をのせてはジッージッーと二回切り込みを入れたらトントンッと、弓になった鋸の背中で叩いて竹節をはじき飛ばしていくがぜよ。本当に小さな竹の節の根元部分だけを取りのぞきますけんど、丸一日やりよったら、あたり一面が節だらけ。


「ボクは、こんどから学校やねえ」
「楽しみやねえ」


おばちゃんの話し声は今でも聞こえて来そうやちや。


竹工場に夕方のサイレンが鳴り響く頃、使い込んで先の短くなった竹箒で集められた竹節の根元部分は小山のよう、これを集めてから明日の朝一番に捨てに行くリヤカーに積まれるがぜよ。ザザーーーーーーーッ!小柄な、おばちゃんが手箕で運んでいく量の多さに今日もこじゃんと頑張ったがやにゃあと子供心に思いよった。隣で祖父の愛犬アトマが、ちょこんと座ってハーハー言いよったがです。


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