再会した廣島一夫さんの魚籠とネパールの魚籠

廣島一夫さん、シタミ


ひょんな所で故・廣島一夫さんの鮎籠に出会った。廣島さんにお会いさせて頂いたのは一度きり、宮崎県の山深い日之影町を中心に集落を回りながら籠を編んできた昔ながらの竹職人だった。ご本人は「竹細工は道具」だと言われていたそうだけれど、遺された籠を見ていると全てが合理的で高い美意識を感じる。このシタミと呼ばれる丹精な作りをした魚籠はどうだろうか?


廣島一夫さん、鮎籠


鮎が飛び出さないように、突き出した口部分に巻かれた竹あしらいも素晴らしい。本体の緻密な編み込みに比べて肩部分の竹ヒゴは幅があり、あえて粗目にして空気を取り込みやすくしている。首に巻いたタガや胴体に見える補強のために縦に入れた竹ヒゴは廣島さんの工夫と言うから、伝統の竹細工はこうして少しづつ進化してきたのだ。


魚籠


旧知の職人さんが引退される時、最後だから手元に置いておきたかったという魚籠を譲り受けた。地元では腰テゴと呼ばれていた籠は、基本的な形はシタミと同じで、鹿児島と宮崎という隣同士の県で繋がりがあった事を感じさせる。


ネパールの魚籠


ところが、大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館に仕事でお伺いした時、驚くような魚籠を発見した。あの竹職人の祖父世代が編んだものだろうか?くらいに思っていたら何とネパールで使われていた物だと記載があったのだ。


廣島一夫さんの魚籠


竹細工は東南アジア一帯にあり、似たような籠やざるも多数あって、古から日本との結びつきの中で伝わった技があるように思う。そして、その竹編みが日本にある品質の高い竹材と、日本人特有の感性でアートと呼びたいくらいの高みに昇華した一つが廣島一夫さんの鮎魚籠だと言っていい。





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