2026年10月26日の投稿

竹が、なぜここまで丸くなるのか?黒竹曲げ細工に見る、昔の竹人の心意気と受け継がれるDNA

虎竹縁台


高知県特産の黒竹

黒竹(くろちく)と聞いて、皆さんはどんな姿を思い浮かべられるでしょうか。30ブログ「竹虎四代目がゆく!」を、いつもご購読いただく皆様でしたらお馴染みのように、文字通り稈(かん=竹の幹の部分)が深みのある黒褐色に色づく、何とも言えない渋さと美しさを持った竹です。虎竹や孟宗竹、真竹のような太い竹とは違い、ボールペンから指先くらいの細身でしなやかな姿が特徴でもあります。


黒竹


黒竹の矯め直し

ボクたち虎斑竹専門店 竹虎では、この黒竹を一本一本、ガスバーナーの炎で熱して油を抜き、まっすぐに矯め直して使います。そうして仕立てるのが、夏の涼を呼ぶ虎竹縁台であったり、玄関先を品よく引き締める黒竹玄関すのこです。真っ直ぐに伸びた竹がピシッと並ぶ美しさは竹細工の基本であり、日本の住まいに寄り添ってきた伝統の形。職人が息を詰めて直線を揃えていく仕事には、いつ見ても惚れ惚れする魅力があります。


黒竹玄関すのこ


黒竹曲げ細工

けれど、黒竹の持つ魅力は真っすぐの直線美だけではありません。かつて日本には、この細くて硬い竹をまるで柔らかな飴細工でもあるかのように、自由自在に曲げて形づくる、とてつもない竹工芸が花開いていた時代がありました。今回は、昔の道具たちの中に息づく黒竹の曲げ細工の驚くべき世界と、そこに込められた昔の職人たちの遊び心についてお話ししてみたいと思います。




火と竹の対話が生み出す、信じられない曲線美

竹という植物は、中が空洞で繊維が縦にビッシリと通っています。普通に力をかけて曲げようとすれば、バキッ!と無残に割れてしまうか、折れ曲がってつぶれてしまうのが落ちです。それを、熱を加え、竹の中の油分の加減を見ながら、竹が割れないギリギリの力加減で見事な円や曲線へと導いていく、これが曲げの技術です。


煤竹衝立


家紋入り煤竹衝立

これは祖父が特注で製作したもので、山岸家の家紋である加賀梅鉢があしらわれた煤竹の衝立です。外側の滑らかなカーブはもちろん、衝立本体を彩り飾るハート型のような造形、波のようにあしらわれた曲線。これらは、すべて一本の竹を曲げて作られているのです。


加賀梅鉢の家紋入り煤竹衝立


職人技に感嘆のため息

竹の見事なアール、継ぎ目の自然さ。竹の節がある部分など、普通なら曲げることすら躊躇するような箇所まで、見事に美しい弧を描いています。長年、茅葺き屋根の天井で囲炉裏の煙に燻されて飴色になった煤竹は、ともすれば油分が抜けきって使えない竹材も多いのですが、そんな事を物ともせず、当時の職人さんが寸分の狂いもなく曲げ込み、家紋まで入れた逸品へと仕立て上げました。細かい部分には鳳尾竹という竹が使われていますが、今こうして眺めていても、「一体どうやって火を入れたらこんな形になるのだろう...」と、ただただ感嘆のため息が漏れてしまいます。


煤竹達磨


鳳尾竹達磨

そして、竹虎本店に展示されているのが、こちらの鳳尾竹の達磨です。鳳尾竹は元々は根曲竹なので非常に堅牢で粘りがあり簡単に曲がるものではありません。しかし、いかがでしょうか、この出来栄え、この迫力!鋭い眼光、風になびくかのような髭、力強い衣の重なり。これらすべてが、細い竹の曲げだけで表現されています。一本づつ異なる竹の特性を見抜いて、幾重にも重ねられた曲線は、鳳尾竹の性質を知り尽くしていなければ、到底辿り着けない領域です。この達磨を見るたび、昔の職人さんの凄まじい技術の高さと、竹でこんなものまで作ってやろう、という尽きることのない探求心に圧倒されます。


黒竹丸窓


もしかしたら、古い旅館や料亭、あるいは茶室などの丸窓で、こうした昔の匠の技を目にされた方もおられるかも知れません。


黒竹工芸の技


黒竹の超絶技

そんな丸窓を、よくご覧いただきますと、このような見事な黒竹の結びを見つけられます。竹をここまでしなやかに、まるで紐を結ぶかのように交差させ、美しい造形を作り出す、これぞ日本の竹細工が誇る究極の曲げの技です。障子越しに差し込む柔らかな光の中に浮かび上がるのを見ていると、あの硬く直線的な竹が、これほどまでに湾曲した表情を見せるものかと驚いてしまいます。まさに、丸窓に嵌め込まれた竹のアートです。


黒竹リング


黒竹で作られたリング

そういえば以前、店舗の奥の倉庫から黒竹をまるく輪っか状にした製品がいくつか出てきたことがありました。竹を丸めて綺麗な円形に留めただけの、非常にシンプルなものです。けれど、竹の弾性に逆らい、綺麗な真円を保ったまま仕上げるには、熟練の熱入れと手の感覚が不可欠です。


黒竹リング


失われた技

これは面白い、今の時代では手にする機会もいなものだとウェブサイトでご紹介したところ、ありがたいことにあっという間に完売してしまいました。お客様からは「また再入荷しませんか?」「もっと欲しいのですが」というお声をたくさん頂戴したのですが...残念ながら、もう二度と作ることができませんでした。その丸いリングを作れる職人さんが、すでにおられなかったのです。


黒竹花台


道具があり、素材があっても、それを作り出す手と技が途絶えてしまえば、二度と同じものは生まれません。かつては当たり前のように町や村にいた竹職人たちが、時代の移り変わりとともに一人、また一人と姿を消しています。


黒竹美人画


黒竹の美人画

以前は、黒竹の曲げを利用して髪の流れを竹で描き出す優美な美人画を創作される、粋で遊び心に満ちた竹人もおられたのです。実用性だけでなく、竹という素材を使ってどこまで面白い表現ができるか。暮らしの中に、ちょっとした驚きや楽しさを添えるゆとりが、当時の日本には豊かに息づいていました。その技の数々が時代の波に洗われ少なくなってしまった現実は、竹屋としても寂しい思いがします。


黒竹ビール運び


今に息づく黒竹曲げ細工のDNA

けれど、ボクたちは、ただ過去を懐かしみ失われた技を嘆いているワケにはいきません。先人たちが命を吹き込んできた竹を曲げるという素晴らしい技術のDNAは、形を変えながら、今も確実に現代の職人たちへと引き継がれています。たとえば、宴席や食卓を粋に演出する黒竹ビール運び。重い瓶ビールを何本も支える取っ手部分には、しっかりと火を入れて手になじむ美しいアーチ状に曲げられた竹が使われています。実用的な強度を保ちながら、持った時の心地よさと見た目の美しさを両立させる曲げの技です。


黒竹アフタフーンティー


黒竹アフタヌーンティーセット

また、黒竹を端正な曲線に曲げてフレームを組み、現代のティータイムにふさわしいモダンなスタンドへと仕立てた黒竹アフタヌーンティーセットもあります。


黒竹アフタフーンティー


漆黒の竹肌が描く優しいカーブには、ガラスや陶器の器をのせても美しく調和しますが、どうせならと思い黒竹にあわせて虎竹で皿も作りました。和風な午後のひとときを、ひときわ楽しく演出してくれそうなアイテムになっています。


黒竹ハンガー


黒竹ハンガー

さらに、新しくご紹介しているのが、この黒竹ハンガーです。肩のラインに優しく沿う緩やかなカーブ、そしてフック部分のきゅっと曲げられた小気味よい丸み。手のひらでその曲線を撫でてみると、竹特有の滑らかさと心地良さ。職人が火加減を見極めながら一瞬一瞬に込めた手の温もりが、じんわりと伝わってくるようです。


黒竹ハンガー

黒竹ハンガー


生き続ける名工の技

かつて衝立や達磨、丸窓を生み出した名工たちの曲げの技。それは決して博物館や資料館の中だけの歴史ではなく、現代の暮らしを彩る数々のの竹細工に確かなかたちで生き続けています。


黒竹ハンガー


これからもボクたちは、先人たちが残してくれた技術への敬意を胸に、現代の暮らしの中で役立ち愛される竹の良さを皆様にお届けしていきたいと思っています。





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竹虎四代目

竹虎四代目
YOSHIHIRO YAMAGISHI

創業明治27年の老舗竹虎の四代目。100年守り続けた日本唯一の竹林を次の100年に繋ぐ。日本で二人だけの世界竹大使。

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