東京新聞 2016年11月7日

新聞掲載
東京新聞のこちら特報部のコーナーで竹虎が紹介されました。日本人の生活から竹が忘れられつつあり、竹害が問題化する現代。竹虎では様々な竹製品を通じて、「竹のある暮らし」の提案や竹の魅力の情報発信に取り組んでおります。


竹害深刻
あふれる竹 どう対処


薩摩半島南端から南南西約四十キロの東シナ海に浮かぶ鹿児島県三島村の竹島は、その名の通り、島全体が竹に覆われている。豊富な竹林から採れるタケノコが名物だが、過疎化のあおりで人の手が入らず、竹の増殖が止まらない。実は今、全国各地の住宅地で「竹害」が深刻化している。かつて竹は日本人の生活に深く根付いていた。竹を邪魔者扱いするのではなく、いま一度、その良さを見直し、資源として活用する必要があるのではないか。(沢田千秋)

植えて放置、各地で問題化
増殖力 生活脅かす


鹿児島市の鹿児島港を出てから三時間後、約一、二〇〇トンの「フェリーみしま」が小さな竹島港にゆっくりと入港した。約八十人の島では村営フェリーの往来が生活の支えだ。

三島村は竹島のほか、硫黄島、黒島で構成される。東西約五キロ、南北約一・五キロの竹島には細いリュウキュウチクが生い茂る。人口のピークは一九五〇年代の約三百人。硫黄島鉱山の閉山や高齢化による人口減と比例するように「竹害」が猛威を振るい始めた。

「竹の中に人が住んでる」と話すのは、タケノコ採りの名人の日高タケ子さん(七八)だ。「耕す人がいなくなった畑に竹がどんどん増えている。島ではみんなナタを持って歩く。東京じゃ考えられないでしょ」

村特産品のタケノコ「大名筍」の旬は五、六月の二カ月間と短い。タケ子さんは「嵐でも毎日山に入る、赤色がメスで、オスは青か黄色。生はメスのほうがおいしい」とほほ笑む。だが、収穫時期に山に入る島民は一日十数人しかいない。

竹島は台風の通り道でもある。今年も16号に直撃され、最大瞬間風速六十メートルを記録。島の道路に竹が倒れ込み、車体にバシバシと激突する。頼みの綱の村役場は三島のいずれでもなく、鹿児島市内にある。竹島の地区長を務める日高忠一さん(六二)は「役場に予算を組んでもらわないと、竹の伐採ができない」と頭を悩ませる。役場の依頼で教員住宅の竹垣を作っていた忠一さん。「旬のタケノコは一晩で十五cmも伸びる。ただ生やしていたら、そのうち生活を脅かす。丈夫で長持ちするこの竹の使い道が他にもあればいいが...」

若手の間では、竹を生かす試みも始まっている。竹島には高校がなく、鹿児島市内で進学、就職したまま、島に戻らない若者が多いが、山崎晋作さん(三三)は市内で就職後、「島で子供を育てたい」と二〇一四年に帰島した。島外で暮らし、大名筍の美味しさを痛感した。「よそのタケノコは味がしない。大名筍はアク抜きの必要がないため、歯応えがあり、とても甘い。刺身で食べると、ナシのような味がする」。竹害を前に「今のままでは一歳の息子が大人になるころ、島に住めなくなる」と危機感を募らせた山崎さんは大名筍に懸けた。

一五年にNPO法人を立ち上げると、大名筍を「キセキのタケノコ」としてブランド化。クラウドファンディングで資金を調達し、ロゴの作成や、収穫に携わる島民の資金アップ、都市部での販路拡大に力を入れた。鹿児島市や大阪市の高級料理店からも注文が入った。山崎さんは「今後は加工技術も考えないといけない」と模索を続ける。





「資源」着目 収入に

「竹害」は竹島だけではない。林野庁によると、日本の竹林は、一九八一年の十四万四千ヘクタールが二〇一二年には十六万一千ヘクタールに増えた。放置された竹林は、やぶ蚊の発生や不法投棄を助長したり、道路の視界をふさいだり、他の木々の成長を妨げたりする。九〇年代半ばから問題視され、メディアが「竹害」との言葉で伝えるようになった。

愛知県東海市の伐採行「ツリーワークハッピーグル―」の松永清貴社長は「竹伐採の相談件数は年々増えているが、できれば引き受けたくない」と明かす。他の樹木より硬い竹は粉砕機の刃をもろくするため、伐採しても引き取る処理業者が少ないという。処理費用は高騰し、現在は一キログラム三十円前後。処理費用だけで一平方メートル当たり一万円近くかかる。

松永社長は「運搬費用と人件費が加わるので敷地全体の伐採費用は十万円を超える。依頼者は『なぜ高いのか』となかなか理解してくれない。大半は近所からの苦情で処理を依頼するため、依頼者が納得いかないままのスタートとなり、喜んでもらえる仕事ができづらい」と嘆く。

日本人は古来、竹と付き合ってきた。日本庭園では竹が好まれ、首相官邸の庭にも竹が植えられている。にもかかわらず、なぜ竹害が起きているのか。

京都大の柴田昌三教授(竹林生態学)は「日本人の生活が変わり、竹をコントロールする術を失ったからだ」と説く。「竹害と呼ばれるのはほとんどが、タケノコが好まれるモウソウチクで、江戸時代初期に中国から日本に入った。タケノコ目当てに街の周辺に植えたが、今になって『勝手に生える』と迷惑がっている。日本人が竹の管理や活用に怠慢になった結果、竹害という言葉が生まれた」

昔はどの集落にも竹細工店があった。タケノコだけでなく、竹自身もザルや生け垣、建築資材に使ってきた。柴田教授は「今のタケノコは大半が中国産。竹製品もプラスチック製に取って代わられた。より安価な物を求め、自ら汗を流すことを嫌い、目の前の資源を邪魔者扱いしている。自らの怠惰を棚に上げ、竹のせいにする感覚に危機感を覚える」と指摘した上で、竹の有用性を強調する。「竹は他の林業に比べ成長が早く、効率のよい資源。賢く使えば毎年の収入も期待できる。近年は竹をチップに加工し、バイオマス燃料として活用したり、紙製品を作るなどの取り組みも始まってる。

「魅力に目覚める時 また来る」

高知県須崎市の「竹虎」は日本で唯一、竹製品のために竹林を管理している。取り扱う製品は四千点にも及び、財布やバッグ、システム手帳など、竹とは縁のなさそうな商品もそろえる。山岸義浩社長は「管理しているのは竹林、放置しているのは竹やぶ」と区別する。「竹林は根が深く縦横無尽に伸びており、土台は丈夫で天然の鉄筋コンクリートといわれる。地震の時は竹林に逃げろと教わった。ところが、竹やぶは根が浅く立ち枯れも多いので、土台がもろく土砂崩れが起きやすくなる。

山岸社長は「日本人が値段だけで判断せず、竹の魅力に目覚める日がまた来る」と信じる。「手入れによって竹林は人の味方になる。それを伝えきれていない僕ら竹を扱う『竹人』にも責任があるが、日本人のDNAに竹は組み込まれている。今は良さを忘れているだけではないか」

デスクメモ

地方が直面する問題はやがて都市部にも及ぶ。右肩下がりの日本では、早いか遅いかの違いでしかない。例えば、空き家問題は、都市部ではマンションのスラム化などの形で顕在化した。北東地方でクマに襲われる事故が頻発する中、首都圏でも目撃情報が相次ぐ、竹害もしかりである。(圭)

下 竹虎が販売する竹製システム手帳(山岸義浩さん提供)


(新聞「東京新聞 2016年11月7日」より転載)

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