虎竹の里の木馬

木馬


木馬(もくば)と聞くと「えっ......ガンダム......?」機動戦士ガンダムは、かれこれ30数年から放映され続けちょりますので、今では結構いい年齢になられた方の中にももしかしたら、主人公達の乗るホワイトベース(通称:木馬)を思い出される方もいるかも知れません。


けんど、この虎竹の里の木馬は、びっくと違いますぞね。木馬と書いて「きんま」と読むがです。まあ、かっては日本中どこででも使われていた。木製のソリの事ながですが、自分の小さい頃には山仕事には普通にこのキンマが使われよりました。伐採したばかりの重たい虎竹を満載して山を下ってきますので、丈夫な木材を使用して頑丈に作られたキンマは当時、子供やった自分たちでは、なかなか持ち上げられないような重さやったです。大人達、山の職人達は、こんな重たいキンマを肩に背負い、細く急な山道を一歩、また一歩、流れる汗をふくこともなく登っていきよりました。「あの木馬(キンマ)に竹を載せて下ろしてくるがや」小学校の頃は、虎竹の里の道路脇に小山のように積み上げられた虎竹を見るにつけキンマを担ぐひたむきな大人の顔を少し憧れのような気持ちで思い出したものです。


今ではエンジンの着いた便利な機械ができて、木馬の姿を虎竹の里で見ることは出来ませんけんど、目を閉じたら浮かんでくる一つの光景があるがです。それは、グツグツと音をたてて湯気の立ちゆう、すき焼きの宴の光景。日頃あまり見ないような豪華な飯台、お肉もある、野菜もある、お酒もコップに注がれちゅう。山の職人さんと奥さん、嬉しそうにお手伝いする娘さんそして、木馬を作った大工さん、みんなあの笑顔の光景。


当時は、木工をされる大工さんが、それぞれのご自宅にやって来られて納屋等を借りちょいて、数日間かけて木馬を作ることも珍しい事ではなかったがです。そして、木馬ができあがった夜は完成を祝い、木工職人さんの労をねぎらうためにせめてもの心づくしの手料理でもてなしていたのです。


美味しい物が何でもある時代、欲しいモノは何でも手にはいる時代。けんど、あんなに豊かさに満ちあふれた温かい笑顔で囲む食卓はあったろうか?目を閉じたら今でもハッキリと思い浮かぶちや。山の職人さん宅の土間から見た、あの夜。裸電球ひとつの下に家族が、人が寄り添うて明るく光輝きよったぜよ。暗くなりかけたあぜ道を急いで家まで帰った、大好きなお母さんの「お帰りなさい!」いう優しい声。大きな背中のお父さんの、どっしりした姿。何じゃろうか思い出しよったらまっこと(本当に)涙がとまらんがです。


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