キンマの思い出

竹虎四代目キンマの思い出


友人宅の庭で、いつものように遊びよりましたらどうも今日は様子が違うがです。忙しそうにお米を洗っている友人のお母さん、山から早めに帰って来たお父さん、一番上のお姉さんは居間の掃除をはじめよって、奥のほうから丸テーブルを出してきましたちや。まだ外は明るいですけんど、ここの家ではお父さんと、もう一人の大人の方がグツグツ黒い鉄鍋を囲んですき焼きです。こりゃあ、一体どうした事やろうか?そう思うて見よったら、そこのお母さんが教えてくれたがです。注がれた瓶ビールをキューと空ける大人の方はキンマ作りの大工さんやったです。


ええっ?「キンマ」をご存じないですろうか?まあ、木製のソリのようなものです。昔はこのキンマに虎竹をのせて山から運び出しよりました大事な大事な仕事の道具やったがです。だから、キンマが古くなったら、こうやってわざわざ遠くから専門の職人さんに来てもらいよったがぞね。田舎の事、ホテルがあるワケでもない時代です。そのお宅に、そのまま数日住み込んだり、あるいは、隣町に宿を取ったりして何日か通いでやって来て一台のキンマを作りよったがです。


そして、実は今日はそのキンマが完成した日やった。そう言うたら納屋には、真っ白いピカピカのキンマがあるやいか。特別何があるワケでもないけんど、妙にハレの日のようなワクワクした気分になったものです。時代が変わってキンマは姿を消し、エンジン付きのキャタピラーになったけんど、ここで、こうやって話しをするたびにあの日の真新しいキンマを思い出すがです。薄暗い納屋に、けんど堂々と誇らしく見えたちや。


そう言うたら、あれから息をきらして急いで家に帰った。「お母さん、今日のご飯なに?」玄関に靴を脱ぎ飛ばしたあの頃に帰りたいような気分ぜよ。


コメントする