古老の片口ざる

片口ざる


学校を出るとすぐに父親について修行して、この道一筋に生きて来られた古老の竹職人が作る片口ざるは縦の長さが60数センチもある大型ぞね。磨かれた竹ヒゴが飴色に変わり始めちょりますので、こんなサイズでも持ってみると意外なほどに軽やかで、丁寧に巻かれた縁巻きの感触が手に優しく、一度持ったら最後、時間が許す限り、いつまでも握っていたくなるがぜよ。


片口ざるは、他の容器に笊の中身を移しやすいように片方に口を付けた竹笊の事ながです。毎日の生活の中でも、農作業にも広く使われてきただけあって、全国各地に色々な形であったり、様々な作りの片口笊がありますけんど、どこの竹笊にも引けを取らない出来映えの古老の笊の素晴らしさは、やはり、一番大切な片口部分ではないかと思うのです。


ズラリと並んだ竹片はすべて厚みのある節部分が使われちょります。横からみるとL字型になるように削られた竹片を竹編みに差し込む事により、これ以上は深く入り込まないように、しっかりと固定されるのです。表部分は竹節も表皮も薄く削り滑りやすく加工して使う方が少しでも扱いやすいような工夫がされちょります。


かって、このような竹籠は竹職人がそれぞれのご家庭を周り、そこに暮らす方の使い方や、要望によりそれぞれ作りを違えていたという、いわばセミオーダーのような時代があったがです。作り手と、使い手が今では考えられないくらい近くにあったので、お互いが高めあう良い関係ができ、竹細工の技はずっと磨かれ続けてきたがです。古老の片口ざるは、そんな日本の竹の歩みを話してくれゆうようですちや。膝に置いて竹を撫でながら、そんな良き竹の時代に耳を傾けるたび、日本の竹細工の素晴らしさを、つくづく思うがです。


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