2025年7月 8日の投稿

120年に一度の開花とスズ竹市場籠の燻煙加工

燻煙スズ竹市場籠


120年に一度のドラマ、スズ竹と向き合う


何度か申し上げていますように、120年に一度という長い長いサイクルの中で、竹の秘的な現象が進行しています。それは、人々の暮らしに古くから寄り添ってきたスズ竹の開花です。竹は通常、花を咲かせるとその一生を終え、枯れていきます。数年前から始まった開花によって、多くのスズ竹の林が枯れてしまっているのです。しかし、この一見寂しくも思える状況は、新たなスズ竹の技術を探るきっかけにもなっています。


スズ竹市場籠


枯渇してしまい、今までなら細工に適していないと見られていた、シミや模様のあるスズ竹素材をどうにか有効活用しようとされています。そのひとつが燻煙加工です、これは竹を煙でいぶすことで、まるで長年の歳月を経た煤竹のような風合いを人工的に生み出す技術です。この加工をする事により、竹ヒゴのシミを隠せるようになります。しかし、シミを隠すという事が果たして製品の価値を高める事になるのか?少し疑問にも感じました。


スズ竹市場籠


シミはマイナスか、それとも「景色」か

日本の伝統的な美意識には、「わび・さび」という概念があります。これは、不完全さや質素さの中に見出す美しさ、時間の経過によって生まれる味わいを尊ぶ心ではないかと思います。使い込まれた竹籠や竹ざるなど、経年変色やシミは単なる欠点ではなく、そのモノが生きてきた証であり、使われてきた歴史なので「景色」として愛されてきました。


スズ竹市場籠


スズ竹のシミも、まさにこの「景色」と捉えることができると思います。自然の中で育まれた竹が持つ、それぞれの個性があり、同じ竹であっても千差万別です。育つ竹林の環境、日差など含めた気候によって一本一本が全て異なる表情を見せます。なので、竹の表面にあるシミひとつとっても、他に二つとない独特の模様なのです。燻煙加工によって一律に古びた風合いを出すことは、このシミを隠し製品の均一性を保つことになるかも知れません。けれど、人工的に作られた古びた風合いと、自然の力と時間の流れによって育まれた風合いは、似て非なるものです。


250612009.jpg


竹の色の変化を楽しむ

スズ竹製品に限ったことではありませんが、竹細工は使い込むほどに色合いが変化し、風合いが増していきます。最初は真新しい青々とした色合いの竹も、長く使い続けるうちに少しづつ、ゆっくりと深みのある飴色へと変化していきます。この色の変化こそが、竹籠を育てる楽しみであり愛着が湧く理由の一つでもあります。この経年変色が、使い始めは目立っていたかも知れないシミを時間と共に周囲の色に溶け込ませ、やがては味わいと呼べるほどに馴染んでゆくのです。


スモークスズ竹市場籠


竹の開花により試作された燻煙加工は、少なくなった竹材を有効活用するための一つの手段として有効ではあります。けれど、色の良くない竹ヒゴを隠さず、自然で素朴なスズ竹本来の質感を活かすという方が、ボクはしっくりきます。竹は長い時間をかけて自分色に染められる事こそが魅力なのです。


スズ竹市場籠3個並べ


スズ竹製品をお求め頂きます皆様も、竹材のシミは天然の表情である事をご理解いただきたいと思います。そして、長く愛用することで時間の経過な中で少しづつ完成されていく竹の美しさを楽しむという、贅沢な体験を味わっていただけたらと思います。


スズ竹市場籠


いつか気がつけば、このような風合いも愛着も深まった、パートナーのような竹籠ができあがります。





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竹虎四代目

竹虎四代目
YOSHIHIRO YAMAGISHI

創業明治27年の老舗竹虎の四代目。100年守り続けた日本唯一の竹林を次の100年に繋ぐ。

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