
未完成の竹編み炭斗籠
懇意にさせて頂いている職人さんの倉庫の整理をしていた時のことです。奥の棚に置かれていた古いダンボール箱を開けてみると、中から思いがけないものが出てきました。未完成のまま眠っていた、竹編みの炭斗籠(すみとりかご)です。ひとつひとつ取り出して数を数えてみると、全部で20個から30個ほど...あ、いやいや奥の箱にはまだまだありそうです。最初は素地の編み込みを見て、これだけ同じ形のものが沢山揃っているものだから、てっきり輸入品かとも思いました。というのも、現代の日本の竹細工において、寸分違わぬ同じ竹籠がこれほどの数で揃っているというのは、本当に珍しいことだからです。でも、職人さんの工房に海外の籠がこれ程あるなんて不自然だなあ、そう思い、詳しく確認してみて驚きました。
やはり、輸入の竹籠ではありませんでした。完成前の身竹で編まれたものなので見分けが付きにくかったのですが、あまり世間一般に広く名が知れ渡っているわけではないものの、地元の竹職人たちの間では知らない者がいないという、腕利きが編んだものだと分かったのです。ボクの父親世代の職人さんだったため、あまり存じ上げなかったのですが、地域に根ざして黙々と技を振るっていた名工の手によるものでした。

あっぱれ職人
さらに聞いてみると、編まれてから10数年の年月が経っていることも分かりました。倉庫の場所や箱の状態から想像すると、もっと昔に作られたものに感じてましたが、驚いたのはその保存状態の良さです。そんなに前の竹籠であるにもかかわらず、虫喰いが一切なく、竹自体も実に綺麗な状態を保っていたのです。埃を軽く払って手に取ると、竹肌の艶やかさと張り感がそのまま残っています。竹はそのままではデリケートな素材ですから、本来であれば湿気や乾燥、そして害虫の被害にあいやすいのです。それなのに、長い年月経った今でもこれほど美しい姿を留めているのは何故でしょうか?名人の卓越した編みの技術はもちろんのこと、竹そのものの品質が良かったこと、そして何より山に入って竹を伐採してくださっていた山職人さんの見極めと腕が抜群に良かった証です。

竹伐採の時期
伐採は、秋から冬にかけての竹の水分が下がりきった時期を見極めて行わなければ、虫が入りやすく長持ちしません。その当時の職人さんは、どの竹を、どの山から、どの時期に伐るべきかを経験から熟知されていました。そうして厳選された良質の竹を、名人が一本一本丁寧にひごにして編み上げたからこそ、今でもこうして瑞々しい表情を見せてくれているのだと感銘を受けました。

籠を現代の暮らしの中へ
しかし、感心してばかりもいられません。これほど素晴らしい籠たちが、未完成のまま箱の中に閉じ込められ、埃を被り続けているのはあまりにも惜しいことです。せっかく名人が丹精込めて編んでくれた竹編みです。なんとか彼らに日の目を見せたい、そして現代の暮らしの中で人の役に立ち、誰かに愛される道具として新しい命を吹き込みたい、そう強く思いました。

どんな炭斗籠になるのか
そこで今、この炭斗籠をどう仕上げるべきか、あれこれと思いを巡らせています。渋く落ち着いた色合いに染め上げて、竹の編み目の美しさを際立たせるのがよいだろうか。それとも、和紙を貼り重ねて柿渋や漆を塗る一閑張りに仕立てて、頑丈で味わい深い道具に生まれ変わらせるのがよいだろうか。一閑張りにすれば、内側や底を補強しながら独特の風合いが生まれ、小物入れや果物籠として現代のリビングでも使いやすいだろうと思います。その一方で、名人の編み目をそのまま生かした染色や拭き漆仕上げも捨てがたい魅力があります。
竹虎の責務
綺麗に保管されていたと言っても、やはり時間経過によるカビや汚れが目立つ籠もありますので一閑張りが有力候補です。けれど、それにしても籠の良さを引き出す工夫が必要です。父親世代の名人が遺してくれた、せっかくの籠、ひとつの形にして世に送り出すのが責務です。どのような姿で皆様にお披露目できるか、ボク自身もドキドキしせながら試行錯誤を重ねることになりそです。これからの展開を、ぜひ楽しみに見守っていただければ嬉しいです。

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