猛暑にクバ笠とクバ帽子

クバ笠


南国土佐と言われるのた伊達ではなく、高知の陽射しは本当に強い。日中に外で竹の積み下ろしをせねばならない時など、目が満足に明けられないくらいの時さえある。そんな環境だからこそ、麦わら帽のようにツバの広い網代笠やクバ笠などは、屋外の活動には必需品と言っても良い。


クバ笠


ただ、ツバの広い帽子は日陰が広く圧倒的に涼しい代わりに風には注意だ。頭にかぶっているたけでは飛ばされそうになり、仕事に集中できない事もあるから顎紐が大事になってくる。


ワニグチモダマ(鰐口藻玉)


最近、クバ笠の顎紐には、ワニグチモダマ(鰐口藻玉)と言う熱帯に育つ大きな蔓で育つ豆のタネを使っている。


クバ帽子


クバ笠を改良して現代的なアレンジを加えたのが、クバ帽子だ。


クバ帽子


ツバが広くて風を受けやすいクバ笠は畑用として、ツバの狭いものは風の強い海用として漁師さんに愛用されてきた。このクバ帽子は海用がモデルとなっている。そのせいたろうか?隅田川だったか、江戸川だったかで船頭をされているお客様にご愛用いただいているけれど、何とも渋い。東京も酷暑が続いているから、帽子は大活躍に違いない。



虎竹特大蛇篭

虎竹特大蛇篭製作


護岸用の蛇篭と呼ばれるものをご存知だろうか?河川を注意深く見ていると、鉄線で編まれたメッシュ状のケージに石を詰めて作られた蛇篭が設置されている場合がある。河川や海岸の土壌が、水流によって削られるのを防ぐために使用されるモノで、細長い形状から、その名前が付いている。形が色々とあるようで、近くの川底では敷きつめるように置かれた角型蛇篭(ふとん籠)を見た事もある。


虎竹蛇篭編み方


ところが、今では強靭な鉄線で編まれた蛇篭も、その昔はすべて竹編みで製作されていた。鉄のような素材を自由に使えるようになるまでは、加工性が高く、強さをも併せ持つ竹ほどの適材は見当たらなかった事だろう。本当に竹は、日本の暮らしで人々をどれだけ助けて来た事かと、改めて思う。


虎竹蛇篭職人


竹編み蛇篭の名残は、花籠の虎竹蛇篭や竹炭籠に見られるけれど、護岸用に使われていた籠に比べれば別モノのように小さい。


虎竹蛇篭作り方


しかし今回、竹虎の工場では新たに特大サイズの蛇篭が虎竹を使って編まれている。


虎竹蛇篭製作


今の時代に、一体に何のために?何に使おうと言うのだろうか?


虎竹蛇篭


まだ種明かしは出来ないものの、やはり大きな竹細工が出来あがるのはワクワクする(笑)。



山里の名人作竹箒職人は欠品中です

国産竹箒


山里の名人作竹箒が欠品となって随分と時間が経っているので、そろそろ少しでも出来あがっているのではないかとお客様からお問い合わせを頂いている。しかし、誠に申し訳ございません、残念ながら一本も出来あがってはいません。職人さんは、ただいま鮎に忙しいかも知れない(笑)。


箒職人


いえいえ、お待ちのお客様がおられる事は重々承知しているのだ。けれど皆様、慌ててはいけません。竹には伐採の旬があり、自分達の虎竹でも1月末までに伐られた竹材だけで一年間何とか頑張っている。


竹穂


竹を伐る時期が決まっているから、当然、竹の小枝など何処を探しても落ちていない。


国産竹箒


国産竹箒


こうして見ると、箒一本製作する事すらも大いなる自然の中で、逆らうことなく、リズムを合わせた営みなのだ。


国産竹箒


秋以降に旬がよくなれば、川岸に繁っている五三竹も、孟宗竹も伐採できるようになる。それまで、小学校の頃からのキャリアという職人さんの華麗な技をご覧いただきながらお待ちください。





国産竹うちわの話

国産竹団扇


団扇(うちわ)と言えば、蒸し暑い日本の夏には欠かせない道具のひとつだった。ところが、近年はエアコンや扇風機などがあるので、夏祭りや花火大会などのイベントを除けば、もしかしたら一度も手にする事なく季節を終える方も多いのかも知れない。むしろ、最近はインバウンドで来られる海外からの観光客の皆様向けのお土産物的な要素が強くなっているようにも思う。


竹虎は、今から130年前に竹傘の骨材を提供する竹材商として創業した歴史がある。傘と同じように、当時は団扇も全国に大きな産地があって大量に製造されてきたから、実は縁のある馴染の竹製品のひとつだ。竹のしなやかさと強さを活かした団扇は、身近に置いて長く使うことができ、エコロジーな選択肢としても若い世代にも魅力的に見えるのではないだうろうか。伝統を繋ぐ職人技を見ていると、団扇の良さを再発見し、その魅力を広めることも大切だと改めて思えてくる。





新春に向けての竹編み

特大真竹玉入れ籠


一体何人で玉入れ競争をするつもりだろうか!?こんな特大の真竹玉入れ籠が出来あがった。ところが、実はこれくらいのサイズの六ツ目編みの竹籠は、たまに製作させてもらう事がある。たとえば、背負い籠では、重量のあるものだと大き過ぎたら担げないが、落ち葉籠として使うのなら大丈夫だったりする。今回の特大玉入れ籠も、実は玉入れ競技ではなく繊維関係の仕事用として使われるものだ。


箸置き


さて、ここに小石を入れて編み込んだ籠がある。護岸用として使われて来た蛇篭を思わせるものだが、サイズはずっと小さくて箸置きとしてお使い頂いている。


竹炭ヘチマかご


全く同じ形で少し大きく編み上げた虎竹ヘチマ籠には、お客様のご要望で最高級竹炭を入れてインテリアを兼ねた竹炭籠としている。同じ竹編みでも、大きくしたり、小さくしたりで用途が全く異なり面白いが、新年に向けてこれらの竹籠をヒントに準備をする予定だ。まだ半年も先なのに気が早い(笑)。





真竹茶碗籠へのこだわり

真竹


同じ頃合いの、細めの真竹ばかりを集めて一体何を作るのかお分かりだろうか?良くご覧いただくと全ての竹には節が入っているので、丸竹のまま使えばコップか何か容器のようなものも出来そうだ。




さて、この真竹を小さな釜の中で沸き立った熱湯に入れていく。小型ではあるものの、これが湯抜きと言って、竹材の余分な油分を除去していく加工だ。虎竹のように、ガスバーナーの炎でする油抜きが乾式と呼ばれるのに対して、熱湯は湿式と呼ばれるが同じ効果がある。


湯抜き後の真竹


こうして湯抜きされた竹は色合いがこのように変化する。この後、乾燥によりさらに色合いは変わっていくが、竹には糖類やデンプンが多く含まれているので、これらを油抜きする事により除去して害虫やカビに対する耐久性を高めているのだ。


真竹茶碗籠の足


特に近年、頭を悩ませている竹の虫は、竹表皮ではなく竹の身部分を食害する。そこで、薄い竹ヒゴにする竹材は問題ないが、竹の身部分を厚く使う茶碗籠の足だけは念のため湯抜きしているのだ。青竹細工に使う竹材で湯抜き加工するなんて異例中の異例だが、最高の竹籠を編み上げている職人の自負とこだわりが垣間見える。





背負い籠「かるい」が物語る竹細工

背負い籠かるい、竹虎四代目(山岸義浩)g


現在、リュックサックを使っている方が多いので、荷物を背負った時に両手が自由になる事の便利さは良くご存知だと思う。バックパックなどとも言われるけれど、竹編みの背負い籠は昔からあって、農作業でも山仕事でも大活躍していた。


背負い籠


そこで、真竹の多い地方では真竹を使って、寒い地域なら根曲竹やスズ竹、あるいは山葡萄やツヅラなど蔓素材を使って、それぞれ全国各地にある身近な素材を使った背負い籠が発達してきたのだ。


稲わら背負い紐


そんな中、宮崎県の急峻な谷間が多い高千穂から日之影、椎葉村辺りまでの山間部では「かるい」と呼ばれる特徴的な背負い籠が編まれてきた。今では多くの方の目に触れる事もある「かるい」が、広く知られるようになったのはそんなに昔の事ではない。横から見た時に逆三角形になる形は、急斜面に置きやすく背負いやすい構造になっている、しかし、むしろ平地では籠に入れられる容量も多くなく、立てて置く事ができないから使いづらい。


背負い籠かるい


まさに地元ならではの特別なフォルムとして愛用されてきたものなのだ。この使い込まれたかるいの背中が当たる部分をご覧いただきたい。汗で濡れるから竹ヒゴがその部分だけ変色している、まさに地域で愛され、今でも暮らしの中で生き続ける竹細工の証として嬉しくなる。




背負い籠「かるい」最後の名人、故・飯干五男さんの工房で一本の真竹から籠が出来上がるまでご一緒させてもらった事がある。本当に貴重な体験で、竹の神様が与えてくれた至福の時間だったと今でも思っている。外の激しい雨音と竹を割る音、竹を編む音だけが聞こえる作業場で、無駄のない流れるような手の動き、竹の技に言葉を忘れた。


ミニサイズ背負い籠かるい


さて、ここにあるのは飯干さんが編んだ手の平サイズのかるいだ。背負い籠くらいの大きな竹細工を、これ程小さくするのは非常に難しく、バランスよく美しく仕上げられるのは名人と言われた由縁だろう。実は匠の技で編まれる竹細工でも、新素材や生活の変化で忘れられ、必要とされなくなった時代があった。その頃に背負い籠としてだけでなく一般の方にも使ってもらえないかと考えて作られたのがこの籠だ。壁に掛けて手紙入れや小物入れとして販売されていた。


背負い籠かるいミニサイズ、竹虎四代目(山岸義浩)


手の平サイズだけではない、実は何種類もの大きさのかるいを作り、背負い籠として使われるだけでない需要を探されていたのだ。この地域にしかない伝統の技を繋いでいきたいと言う思い、先人から受け継いだ籠への誇りを感じる。だから、ボクはいつまでも壁にかけて置いている。


ミニサイズかるい


そして、眺める度に少し複雑な思いにもなる。この名人の一流の技をもってしても流通せず、誰かに必要とされなくなるのだとしたら、本来の生活道具としての竹細工から変わっていかねばならない。竹細工を生業とする難しさと共に、明日の示唆も物語ってくれているのが「かるい」だ。



国立台湾工芸研究所で見た竹のドレス

竹のドレス


世界竹会議台湾で第二会場となった国立台湾工芸研究所( National Taiwan Craft Research Institute)には、刺激的な竹作品が多く並んでいるが、その中に一際目を惹く竹ドレスがあった。かつて日本の竹工芸家の方が、デザイナーの依頼を受けてパリコレ用に竹の衣装や帽子などを創作されていたのを思い出す。あれは20数年前の事ではなかったろうか?竹は、しなやかな柔軟性と相反する直進性を併せ持つ素材だから、その特性が発揮された素晴らしい作品だったように思う。


竹編みドレス、国立台湾工芸研究所( National Taiwan Craft Research Institute)


この台湾のドレスも、竹の特性と昔からの竹編みの技を十二分に活かしたデザインが面白い。実際にモデルさんが着用したら、さぞ見栄えするに違いない。


竹編みドレス、国立台湾工芸研究所( National Taiwan Craft Research Institute)


正面からだけだと分かりづらいけれど、サイドから見ると大胆なデザインだと気づく。


竹編みドレス、国立台湾工芸研究所( National Taiwan Craft Research Institute)


黒染めもシックでいいが、自然な竹そのままの色合いも良い。流れるような竹編みが、どことなく優しく感じるのは竹素材の雰囲気かも知れない。


虎竹アーマー、竹の鎧


竹ドレスと虎竹アーマー、同じ身体に纏う竹でも、虎竹アーマーには軽やかさがない(笑)。重たくて夏は物凄く暑い。



旅する国産竹笠

免税店、竹虎四代目(山岸義浩)


国際線のロビーを歩くと免税店がズラリと並んでいる。田舎者の自分でも名前はよく知っている世界のブランドたちだ。しかし、台北松山空港を歩けば「その笠かっこいいね」と声をかけられ、機内では「お隣の席に置いてもかまいません」と言ってもらえる日本の竹笠こそ立派なブランドだ。


機内の国産竹笠


暑いと聞いていた台湾では大活躍した国産竹笠は、細かい網代編みでしっかり編み込まれているので日差しはもちろん、少しくらいの雨でも平気だ。さらに軽くて丈夫と言うのがイイ。笠のテッペン部分は、どうしても傷みやすくて穴が開いていたけれど、籐でしっかり補強してもらった。竹細工はこのように、手直しできるのが最高に素晴らしい。


国産竹笠


最初訪れた台湾の新竹という所は、風が強いので有名な場所だと現地の方が言っていた。この竹笠は自分専用で、五徳もしっかり頭に入って固定されるので、あご紐は使っていなのだが強風にあおられて二度ほど笠が飛ばされそうになった。


世界竹会議台湾、竹虎四代目(山岸義浩)


末広がりになった竹笠をお使いの場合には、普通はやはりあご紐があった方が便利だと思う。


世界竹会議台湾、竹虎四代目(山岸義浩)


だからクバ笠などは、漁師さんが風の強い海上で使用するタイプだと、末広がりではなくツバを狭くして風をできるだけ受けない形になっている。




余談だが、その海用のクバ笠が進化して、クパ帽子と呼ばれる面白い笠が製作されている(笑)。


竹虎四代目(山岸義浩)、世界竹会議台湾


李栄烈先生


さて、この方が台湾の名匠と呼ばれる竹芸士、日本の人間国宝にあたる重要伝統芸術保持者であられる李栄烈先生だ。一度工房の方にお伺いさせて頂いた事があって、今回は10年ぶりの再会をさせて頂いた。90歳近くなられた現在でも後進の指導に勤しまれる先生がお元気そうで感激です!歩くだけで沢山の方が集まり、いかに竹の世界で皆様からの尊敬を集められているか分かります、まさにレジェンドです。



竹笠の季節

竹虎四代目愛用の国産竹網代笠


今日も朝から随分と暑い(笑)、締め切った倉庫に入るとムッとする熱気で、もう夏がやって来たのかと思うほどだ。日差しも段々と強くなってきた、まだまだ太陽の光が優しいなんて油断していたら大間違い。確か真夏よりも、4月から5月あたりの方が紫外線の量は多いと聞いた事がある。そこで屋外に出る時に活躍するのが竹笠だ。




実は、日頃の生活の中では竹笠を被る機会はそれほど多くはないけれど、ずっと前から国産の竹笠を個人的に持っていた。その笠をモデルにしてもらって復刻した国産竹笠の細やかな編み込みを動画でご覧いただきたい。


竹笠、流鏑馬笠


竹網代笠の他にも、流鏑馬笠や托鉢笠など、かなりレアな笠を並べている。「こんな笠を被ってる人なんて見た事ない...」、確かに皆様が想像されるように需要が多いわけでは無いし、探せば海外製の笠がいくらでもあるのだが、せっかく残されている伝統の技が消えてしまうのは残念だと思って復刻させている。


竹網代笠


しっかり編まれた国産竹笠を大事に、年々深まる柿渋の色合いを楽しんでもらいたいと思う。