一般財団法人 竹文化振興財団 竹文化振興協会 会誌「竹」第139号

雑誌掲載
竹文化振興協会 会誌「竹」第139号の特集コーナーに、第11回世界竹会議(11th World Bamboo Congress Mexico)での竹虎四代目の基調講演を取り上げていただきました。


第11回世界竹会議メキシコ 基調講演「日本唯一の虎竹と共に100年、持続可能な地域資源活用」


世界竹会議(World Bamboo Congress )

昨年の8月にメキシコ・ハラパで開催されました第11回世界竹会議(11th World Bamboo Congress )で「日本唯一の虎竹と共に100年、持続可能な地域資源活用」と題して基調講演をさせていただく機会をいただきました。お力添え頂きました皆様のお陰です、ありがとうございます。

今回、光栄にも世界50カ国から500名もの参加のある世界竹会議での登壇の招待を頂きましたのは、当社の100年を超える日本唯一の虎斑竹(とらふだけ)への取り組みを評価いただいての事だったと思います。虎竹の里は高知県須崎市安和にあり、前方には須崎湾、三方は山に囲まれている本当に狭い地域です。そして虎竹は、この里の間口たった1.5kmの範囲でしか成育しない不思議な竹なのです。竹の正式名称は「土佐虎斑竹」と言います。竹の表面に虎のような模様が浮かび上がることから、大正五年(1916年)に世界的な植物学者の牧野富太郎博士により命名されました。虎竹模様が出るのは、土中の細菌の作用とも言われていますが潮風や気温の微妙な変化など様々な要素があると考えられ今だにその要因は謎のままです。江戸時代には年貢として土佐藩山内家に献上された記録の残る銘竹でもあり、険しい山道で交通の難所だったという土地柄と藩令によって禁制品とされていたために広く知られることのなかった「幻の竹」であったと言う歴史もあります。

さて、しかし世界竹会議といいましても日本では竹に携わる方でもご存じない方がおられます。当社の社員なども含めて馴染のない方々に説明するにはどうすれば良いか?思案した末に「世界各地で3年に1度開催される竹のオリンピックのような竹の祭典」と話す事にしてますが、前回の韓国・潭陽、そして今回のハラパに参加してみてその感を更に強くいたしました。

世界の竹の生育地域を考えますと日本をはじめ竹海を有する中国、そして東南アジアが思い浮かぶびます。しかし、南方系の竹は赤道直下の国々、オーストラリア、中南米、アフリカなどの温暖で湿潤な地域に広く分布しているのです。世界竹会議(WBC)にはこのような竹生産国はもちろん、アメリカ、ヨーロッパなど世界中の竹産業界、竹研究者が集結し、竹の活用や開発において世界中で何が起きているかを確認し合い、最新の情報交換を行っています。


日本唯一の虎竹電気自動車「竹トラッカー」

2020年には日本でオリンピックが開催されます、そこで外務省が日本文化発信基地としてロンドン、ロサンジェルス、サンパウロに開設したJAPAN HOUSEと言う施設があり、様々な展示スペースを持って活発に活動されています。ブラジルには世界最大級の竹林がアマゾン流域にあるそうで竹の活用には予想以上に関心を持たれています、そこで 2017年にJAPAN HOUSE Sao Pauloにお招きいただき持続可能な地域資源としての竹について講演させて頂きました。また、サンパウロ州立パウリスタ大学では「サスティナブルな竹利用の可能性」について講義させてもらう機会がありました。竹産業に関わる皆様も、若い学生さん達も非常に熱心でしたが、このような場にお招きいただいたのは恐らく日本唯一の虎竹電気自動車「竹トラッカー」プロジェクトへの組み等が評価されていたのではないかと考えています。

虎竹を使い電気自動車を製作したいと考えたのには理由があります。2000年から毎年開催しているインターンシップに参加いただく大学生の皆さんが青竹踏みを知らないのです。自分達からすれば昔からある手軽な健康法として日本全国の各ご家庭に一つはあるものだとばかり思っていたものが、今の若い世代の「竹離れ」を痛切に感じるようになっていました。このような事では、これからの日本の竹文化自体消え去ってしまうのではないか?何とか竹に興味を持っていただきたい、そう思っていた矢先に東洋竹工(株)さんが京都の地元企業や研究所、大学と共同開発した電気自動車を知り、虎竹で製作する事を思いついたのです。

ところが、田舎の小さな竹屋が単独で製作するには、あまりに時間と費用がかかります。そこで活用したのがクラウドファンディングでした。クラウドファンディングとは今では一般的になりましたが群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語であり主にインターネットを活用して不特定多数の方から資金提供を受ける仕組みです。自分がお客様を横に乗せて竹を体感しながら走りたいと思い二人乗りの電気自動車にこだわったために光岡自動車のLike-T3をベースに製作しましたので若干予算オーバーしましたもののクラウドファンディングを活用して全国135名様から3,511,455円という費用を調達して虎竹電気自動車「竹トラッカー」を完成させました。


チャレンジラン・横浜

クラウドファンディングには思わぬ副産物がついていました。資金提供いただいたお客様へのリワード(返礼)のひとつで高知から神奈川県横浜市まで走って行かねばならなかったのです。しかし、これもプラスに考えますとその道中では沢山の方にご覧いただくチャンスにもなりますし、メディアへの露出も期待できます、まさに竹トラッカーを製作した甲斐があるのではないかと思い「チャレンジラン横浜」のプラン作りに入ります。

高知県須崎市安和の虎竹の里から神奈川県横浜市までは約1000キロの距離。竹トラッカーは電気自動車のため連続して走れる距離は60キロです。荷物の重量加算や余裕を考えて40~45キロ走った時点で一回充電できるよう、国道沿いにあるコンビニ各店に充電協力のお願いとアポイントを取りました。竹トラッカーで45キロを走るには約2時間かかります。そして充電を満タンにするのには6時間が必要。早朝から走り出したとしても一日に充電できるのは3回が限界です。途中、箱根峠での充電切れなどトラブルもありつつ、1日に3回×6時間の充電を繰り返しながら高知から横浜まで、1000キロの道のりを11日間かけて無事走り切る事ができました。


チャレンジラン・メキシコ

第11回世界竹会議(11th World Bamboo Congress )での基調講演は、サンパウロから帰国してすぐにお話しを頂戴いたしました。ただ、せっかくメキシコまで行くのであれば日本唯一の虎竹自動車「竹トラッカー」も連れていきたいと考えます。しかし、簡単に考えていた輸送が電気自動車という事で結構難しい事を知ります。輸出いただける運輸会社がないのです、慌ててあちこちの会社を当たるうちに、どうにか一社だけ運んでもらえそうな所がありました。

ところが虎竹の里から神戸港までトレーラーで陸送し、船でメキシコはマンザニーロの港へ、上陸したあとは会場のあるハラパの町まで1000キロのトラック移動です。全部の費用を見積もりして頂くと驚くことに302万円もかかってしまいます!この見積書が届いた時には、自分達に到底無理だと諦めの気持ちもありました。しかし諦めきれず、すがる思いで再びクラウドファンディングに挑戦させていただきます「チャレンジラン横浜」に続き「チャレンジラン、メキシコ」の始まりでした。 1ヵ月という短い期間でしたが、全国の皆様の応援のお陰でギリギリで無事達成することが出来てハラパまでの輸送が可能になります。

それからは、沢山の応援を頂き、せっかく竹トラッカーをメキシコまで運んで行くのだから、どうしても現地の皆様と一緒にメキシコの町を走りたいとメッセージを送り続けていました。実は、世界竹会議が始まってからも竹トラッカーは会場に展示されているものの公道を走れる見通しは立っていない様子だったのです。しかし、今回こうして無事展示できているのはクラウドファンディングを応援いただいた皆様のお陰です、メキシコの空の下を疾走する姿を夢見て援助を下さった皆様のためにも、このまま帰国はできないと思っていました。

そこで初日から大会関係者の皆様への嘆願活動を開始します。自分の基調講演の出番は最終日の一番最後でした、講演はもちろん大事ですが目的の半分でしかありません。竹トラッカーでメキシコを走りたい、その思いを毎日伝えますが、そこではハラパの会場で自分を助けてくれる通訳の方や現地スタッフが大いに動いてくれました。

かくして、沢山の協力者のお陰で竹トラッカーは初めて海外の道路を走りだす事になります。大会関係者の自動車4台に前後を守られながら、世界竹会議の会場であるGAMMA FIESTA AMERICANA XALAPA NUBARAから公道に滑るように走り出した時には感無量でした。地元ハラパ市民の方にも「Tiger Bamboo car」と親しまれ、道路脇に停車させると写真撮影を求める人だかりが出来て大いにメキシコの方々を熱狂させたのです。この時の様子は動画にまとめてフェイスブックで公開していますが、わすがこの5ヶ月で再生回数41万回を突破する大人気コンテンツとなっています。


21世紀は竹の時代(the 21st century is the age of bamboo)

第11回世界竹会議メキシコでの基調講演ではお伝えしたい事が二点ありました。まず一点は、文献に残るだけでも江戸時代から生産と製造を続けている虎竹の里と、竹虎の営みを世界に知ってほしい事。そして「虎竹の模様は霜が降りると綺麗に出る」という昔からの言い伝えどおり近年温暖化の影響から虎竹の色付きが悪くなってきている事です。虎竹の現状をお伝えし、環境問題に対して人が竹から学ぶことがもっとあるのではないかと問題提起をしたいと思いお話しさせていただきました。

環境問題は個人ではとうてい解決できない大きな問題です。でも、そんな課題に立ち向かう時、竹に学ぶことがあるように思っています。竹は天を目指して真っ直ぐに伸びていきます、それは目標に向かい迷う事なく真っ直ぐに進んでいくお手本となります。竹は柔軟性を持ち、しやなかで、強い風にも決して折れることがありません。それは、困難に突き当たった時にも粘り強く立ち向う姿を示唆してくれます。そして竹は地下茎で沢山の竹と繋がって「地震の時には竹林に逃げろ」と教わってきた強い地盤を形成します。これこそ仲間同士が繋がり連携し、助け合う事の大切さを教えてくれているようです。

竹虎では1985年から「21世紀は竹の時代」とずっと言ってきました。竹の成長はとても早く3ヶ月で親竹と同じ大きさになり、3~4年で製品に加工できる事から持続して活用することのできる唯一の天然資源であるからです。そして、環境問題が大きな課題の中で昔ながらの伝統的な竹細工にとどまらず、竹の持つ抗菌性や消臭性、竹繊維等の高度利用まで含めると無限の可能性を秘めていると考えています。世界の人々が人種や国籍を越えて、竹に学ぶ時代が来たのだと思います。


「笑」=「竹」+「二人」

竹が日本人の暮らしに深く関わってきたと言うことは漢字を見てだけでも分かります。「籠」「笊」はもちろんですが、「箸」「竿」「箱」「筆」「筒」など実に多くの漢字に「竹」が付いているのです。そして、そんな漢字の中に「笑」という文字があります。この「笑」という文字は、「竹」に「二人」という漢字で構成されます、つまり、竹とあなたと私で笑顔になると言う事です。竹は古の昔から人々の生活に役立ち、笑顔を創って来られたからこそ「笑」という感じが生まれたのだと思います。これからの未来に向けても、竹が人を笑顔にする存在であり続けられるようにするのが自分達の使命です。


(雑誌「一般財団法人 竹文化振興財団 竹文化振興協会 会誌「竹」第139号」より転載)

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