「あいばん」という場所

あいばん


物心ついた頃から、工場のこの場所は「あいばん」と呼ばれよった。とびきり良く切れる鋸が勢いよく音をたてて、ズラリと並べられた竹を、一本、一本、色々なサイズに切断していく場所。祖父は、ここに座って次から次へと竹を切りよった、朝から晩まで竹を切りよった。時折、腰にぶら下げたノギスを当てて小さく頭をコクッとする。


「ああ、太さを確認したがや」


子ども心にそう思いよった。


ワシの横には祖父の愛犬アトマ号。警察犬学校出のシェパードが祖父が席を立つのを辛抱強くずっと待ちゆう、ワシの事らあ眼中にない、飼い主の方だけずっと見ゆう。そうじゃあ今思うたら、当時の竹虎の最高学歴は、このアトマやったかも知れんにゃあ。


手早く切断された竹が前に、右に、左に、下に転がる「あいばん」には、いつも6~7人のおばちゃんたちがおってその竹を決められた場所に運んでいく、一定の本数になったらワラ縄で縛り担いでいく。「あいばん」の向こうはキラキラ輝く美しい川が流れよった。まぶしい日差しの差し込む、そっちから吹いてくる風はこじゃんと気持ちがよかったがぜよ。時々、竹の甘い香りがしよったがぜよ。


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