簀(す)と呼ばれる醤油漉し

簀(す)醤油漉し


普通なら見過ごしてしまう事もありますろう。ただの竹編みの円柱形の筒ながです。どうしても見過ごしては行けないのは又いつもの通りぜよ。


「ちょっと、おまん、ワシの事を知っちょうかえ?」


竹が話しかけてくる。足が止まる、そこで初めて知ったのが簀(す)と呼ばれる醤油漉しぞね。


そもそも、醤油造りは木製の樽に大豆や大麦などを蒸して入れちょいて、発酵させるものですが、そのドロリとした諸味の中にこの簀(す)を縦に沈めます。するとこの竹編みが醤油漉しの役割をして、中には澄んだ醤油が染み出してくるという仕組みながです。竹製のタガを使うちょりましたので、醤油が大きな樽で作られゆう事は知っちょりましたが、詳しい事など何ちゃあ知りませんでした。日本酒みたいに樽のどこかに穴でもあって、そこを開いたら勝手に流れてくるくらいに思うちょったがです。


まっこと、昔ながらの醤油造りを知らんと、竹細工の事も本当の意味で知る事にはならんがやにゃあ。もう何年か前の事ですけんど、つくづく思うたがです。この簀には、いくつか大きさがありましたので、醤油屋さんだけで使われちょったという竹製品ではないですろう。今と違うて醤油や味噌を自家製で作る時代には、それぞれのご家庭用にあわせて職人さんが編まれたと思うがです。かつては、まるでオーダーでスーツを作るように、背負い籠も使われる方の肩幅に合わせてその人専用に竹職人さんが誂えたという時代もあったがです。それだけ竹と人が密接な関係にあり、仕事や生活の中で無くてはならない必需品とされちょったいう事です。


そうそう、そんな話しをしよりましたら、更にそれより数年さかのぼって塩取りかごが職人さんのお家の軒下に吊されちょった事も思いだしましたぜよ。


現代の日本なら塩に不自由する事は、あまり考えられませんけんど、交通の不便やった当時、特に山深い地域では手にいれる事も大変で、相当な貴重品やったと想像できるがです。水分を多く含んだ精製されていない海の塩を漉すための籠、このような暮らしぶりを知らんかったら一体何の為のもので、どうしてこんな形をしているのか、ちっくと分かりかねますぜよ。けんど、使い道を聞いたらまっこと納得しますぞね。日本の暮らしの中には常に竹があったがです。


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