タイの竹籠の口巻きについて

竹虎四代目(YOSHIHIRO YAMAGISHI)山岸義浩、竹籠


日本の竹細工は東南アジアから黒潮にのって島伝いにやって来た人々が伝えたと言われ、それが発祥とされています。裏付けるように東南アジアの国々の古い籠の中には、日本で代々伝えられてきた籠と酷似したものがありドキリとする事があるのです。


先日訪れたタイには、かって日本にもあったような竹工芸のコミュニティが現在も沢山残っていて非常に興味深いのですが、チョンブリ(Chon Buri)にある竹工房は既存の技を進化させてモダンで繊細な竹工芸に昇華させていました。ずっと拝見したかった竹製品ではありますが、それよりも気になる昔ながらの竹籠が古い陳列台に並んでいます。


古い竹籠


竹籠の口巻きを、ひとつひとつ見ていきますが全て右巻きで仕上げられています。これは右利きの人が多いため必然的に力が入りやすく綺麗に巻ける右巻きとなる為で日本の多くの籠も同じです。ただ、日本では何故か地域によって反対の左巻きの籠があるのです、若い職人の中にも利き手の関係で左に巻く方がおられます。口巻については、以前にも自分のブログでお話しさせてもらっています。

30年ブログ「竹虎四代目がゆく!」竹籠、左巻きの理由


左巻きの竹籠


ところが今回数カ所で見たタイの籠には例外がありません、全てが右巻きなのです。不思議に思って調べてみると実はこれには仏教国としての宗教観が大きく影響している事が分かりました。


古い竹籠


もちろん、右巻きが製作しやすいという工程面の理由もひとつあるのですが、タイは男性なら一度は頭を丸め、マユを剃り出家しなければならない程の仏教国です。祭事をお寺でされることも多く、たとえば目出度い場合にはお寺にある仏塔を右周りに回ります。それが、お葬式など不幸の時には逆の左周りだそうで、「左周り」自体が縁起が良くないという理由で好まれていないのです。


Ang Thong, Thailandの竹職人


お話しを伺ったタイの人々は当たり前のような顔をして口々に言われますが、これが生活に密着した「生きた竹」ならではの話です。竹籠の右巻き、左巻きなど誰も気付きもしないし、何でもないことのように見えるかも知れませんが自分にとっては大きなダイヤモンドを見つけたような気持ちで嬉しくて仕方ないのです。


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