背負い籠「かるい」が物語る竹細工

背負い籠かるい、竹虎四代目(山岸義浩)g


現在、リュックサックを使っている方が多いので、荷物を背負った時に両手が自由になる事の便利さは良くご存知だと思う。バックパックなどとも言われるけれど、竹編みの背負い籠は昔からあって、農作業でも山仕事でも大活躍していた。


背負い籠


そこで、真竹の多い地方では真竹を使って、寒い地域なら根曲竹やスズ竹、あるいは山葡萄やツヅラなど蔓素材を使って、それぞれ全国各地にある身近な素材を使った背負い籠が発達してきたのだ。


稲わら背負い紐


そんな中、宮崎県の急峻な谷間が多い高千穂から日之影、椎葉村辺りまでの山間部では「かるい」と呼ばれる特徴的な背負い籠が編まれてきた。今では多くの方の目に触れる事もある「かるい」が、広く知られるようになったのはそんなに昔の事ではない。横から見た時に逆三角形になる形は、急斜面に置きやすく背負いやすい構造になっている、しかし、むしろ平地では籠に入れられる容量も多くなく、立てて置く事ができないから使いづらい。


背負い籠かるい


まさに地元ならではの特別なフォルムとして愛用されてきたものなのだ。この使い込まれたかるいの背中が当たる部分をご覧いただきたい。汗で濡れるから竹ヒゴがその部分だけ変色している、まさに地域で愛され、今でも暮らしの中で生き続ける竹細工の証として嬉しくなる。




背負い籠「かるい」最後の名人、故・飯干五男さんの工房で一本の真竹から籠が出来上がるまでご一緒させてもらった事がある。本当に貴重な体験で、竹の神様が与えてくれた至福の時間だったと今でも思っている。外の激しい雨音と竹を割る音、竹を編む音だけが聞こえる作業場で、無駄のない流れるような手の動き、竹の技に言葉を忘れた。


ミニサイズ背負い籠かるい


さて、ここにあるのは飯干さんが編んだ手の平サイズのかるいだ。背負い籠くらいの大きな竹細工を、これ程小さくするのは非常に難しく、バランスよく美しく仕上げられるのは名人と言われた由縁だろう。実は匠の技で編まれる竹細工でも、新素材や生活の変化で忘れられ、必要とされなくなった時代があった。その頃に背負い籠としてだけでなく一般の方にも使ってもらえないかと考えて作られたのがこの籠だ。壁に掛けて手紙入れや小物入れとして販売されていた。


背負い籠かるいミニサイズ、竹虎四代目(山岸義浩)


手の平サイズだけではない、実は何種類もの大きさのかるいを作り、背負い籠として使われるだけでない需要を探されていたのだ。この地域にしかない伝統の技を繋いでいきたいと言う思い、先人から受け継いだ籠への誇りを感じる。だから、ボクはいつまでも壁にかけて置いている。


ミニサイズかるい


そして、眺める度に少し複雑な思いにもなる。この名人の一流の技をもってしても流通せず、誰かに必要とされなくなるのだとしたら、本来の生活道具としての竹細工から変わっていかねばならない。竹細工を生業とする難しさと共に、明日の示唆も物語ってくれているのが「かるい」だ。



コメントする