玄関先にそっと佇む竹の袖垣(そでがき)。かつて日本の町並みでは、どこの家の玄関脇にも当たり前のように設置されていたものでした。目隠しとしての実用性はもちろん、自然の竹を活かした美しい佇まいが訪れる人の心を和ませてくれる。そんな、竹の芸術品ともいえる存在だったのです。
大量生産されていましたので、竹虎では数十人の職人が分業体制で袖垣を製造していました。竹枠を組む職人、竹枠に割り竹を巻いていく職人、竹ヒシギや竹枝で飾りを付け、カズラやシュロ縄で格子を縛って仕上げていく職人。それぞれの工程を支える職人たちが一丸となって、次々と袖垣を仕上げていく様子は、まさに活気に満ちたものでした。毎月のように大型トラックに満載された袖垣が全国へと出荷されていったのです。日本中の一軒家のお住まいで、きっと多くの方に使っていただいていたと思います。
でも、その裏側には忘れてはならない存在があります。それは、素材を供給してくださる山の職人さんたちです。竹の伐採はもちろん、竹枝集め、飾りに使うカズラや杉皮の採取など。それぞれの素材には専門職人がいて、その手で丁寧に山から届けられてきました。そして、竹材加工にも竹割りの専門職人、ヒジキ打ち職人など、部材ごとの専門の方がいましたので、一枚の袖垣には一体何人の手が関わっていたのだろうか?内職さんも含めて数えきれないほどです。ただ、単なる大量生産と呼ぶにはあまりにも濃密で丁寧な、地域ぐるみで人の手と愛情が詰まった工程。それが、竹虎の袖垣づくりでした。
時代の流れとともに、袖垣の需要は激減しました。現代の住宅ではあまり見かけなくなったかも知れません。けれど、それでも、細々とではありますものの、竹虎では今も袖垣を作り続けています。手仕事の温もり、国産の上質な竹の風情、日本の暮らしと文化が育んできた伝統。そのすべてが袖垣の中に息づいていると考えているからです。玉袖垣をはじめ、様々な意匠の袖垣には、ただの竹フェンスにはない趣があります。一つ一つ、職人が素材を見極め、丁寧に作り上げる丈夫で美しく、時を重ねるごとに味わいが増す袖垣を、お求めいただける限り今も変わらずご提供していくつもりです。
袖垣は日本家屋だけでなく、現代の住宅にも不思議なほどよく馴染みます。玄関脇だけでなく、お庭の一角やベランダなどに設置するだけで、空間に和のアクセントが生まれます。一枚の袖垣が生み出すのは、視線をやさしく遮るだけではありません。光や風の通り道が変わり、心地よいリズムが生まれ、日常に新たな趣ができるのではないかと考えています。
玄関先を彩り、気がつけば暮らしの中にそっと寄り添う袖垣。それは、日本で続いてきた懐かしい風景であると同時に、未来にも伝えていきたい美しい伝統文化でもあります。手仕事の技、竹のぬくもり、そして受け継がれてきた袖垣の魅力に触れていただけると嬉しいです。
コメントする