網代編みの巨匠・渡辺竹清先生
網代編みの巨匠である渡辺竹清先生とは、祖父の代から懇意にさせていただいてきました。竹虎本店には、御所籠など作品も多数あって小さい頃から馴染がありますし、実際に仕事や生活の中でも使わせてもらっている作品があります。たとえば、毎日の竹箸だったり、デスク周りにはペン皿やペーパーウェイト、小さい御用籠が飾られていたり、今は、すぐ横に母が愛用の虎竹網代編みバッグと鳳尾竹の花籠があります。
だからでしょうか。身近にありすぎて、その素晴らしい作品たちを今まであまり語ってこなかった気がしています。「百年の風雪を経た竹に、次の百年の命を与えたい」、そう言われて渡辺先生は、昔の民家の囲炉裏で100年、場合によっては200年も燻されてきた煤竹を好んで使われていました。
煤竹パーティーバッグ
そして、その最たるものが、あの有名なティファニーの煤竹パーティーバッグ。過去のお仕事なので渡辺先生自身は、あまり話もされませんが、当時は、オープンハートなど有名なデザインを手がけたエルサ・ペレッティ(Elsa Peretti)さんとの、試作の苦労話などを聞かせていただいていました。
五番街ティファニー(Tiffany)
数年前のことですが、ずっと前から聞いていたニューヨークの五番街にあるティファニー本店を訪れる機会がありました。作品を納める事はあっても、実際の店舗でどんな風に飾られているのか?宝石店のはずだから、アクセサリーと一緒に陳列されているのだろうか?先生もご存じありませんが、ボク自身も興味津々でした。
恐る恐る足を踏み入れた広々とした店内で、キョロキョロと見渡しますが竹籠が置いてあるような場所は全く見当たりません。おかしいと思って、店員さんに尋ねてみると、どうやら上の階らしいと言うのが分かりました。突き当りのエレベータで一階づつ上がって行って、4階のフロアでようやく売り場を見つけることが出来たのです。
網代編みされた巾着籠
その頃には、パーティーバッグの製作はすでに終了していましたが、きっと、こんな風にケースに並べられていたのだろうと思えるような、網代編みされた竹籠が付いた巾着籠が置かれています。渡辺先生の作ではありませんが、同じ網代編みの作品ですし、最後のひとつとの事だったので、せっかくだから先生にご覧いただこうと思い切って購入することにしたのです。
帰国後、さっそく工房にお持ちすると、渡辺先生は漆塗りの網代編みを手に取り、熱心に見た後、しばらく黙って机に置かれました。その仕草が祖父である竹虎二代目義治に似ていて、ふと生前のことを思い出しました。
文人角物
四角い形をしたピクニックバスケットやランチボックスを角物とよびます。さらに、その角物を網代編みなど凝った製品に作り上げた籠が文人角物でした。日本人の暮らしに竹が息づいていた頃、現代ならアート作品と見間違うような超絶技巧の網代編み籠が、毎日の生活で当たり前のように使われていたのですから、驚くほかありません。
渡辺竹清先生も、若い頃から衣装籠や文庫などを、来る日も来る日も作り続けてきました。「量稽古」という言葉があるように、同じ技術を繰り返すことで職人の手は磨かれ、極められていくものだと思います。こうした文人角物で培われた技が、世界のブランドとコラボして生み出された逸品があることを少しでもお伝えしたくて、初めてYouTube動画にしました。これはまさに日本の誇りです。
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