
奇跡を呼んだ、一振りの曲線
浪人笠の復刻は、お客様からお預かりした古い竹網代笠への畏敬の念から全てが始まります。竹を知り尽くした熟練の匠が、石膏粘土で型を起こし昔の名人が編んだ美しい曲線を再現することから作業をスタートさせました。

静かな存在感と、目を奪われる美しいシルエット。富士の裾野のようにゆるやかで、一点の曇りもない流麗なカーブは、極細で緻密な竹ヒゴでなければ決して表現し得ない、まさに「神の領域」の曲線美と言っていいかも知れません。

竹網代笠、流鏑馬笠の技
長年に渡り、竹網代笠や流鏑馬笠(やぶさめがさ)などの製作経験が積み重なっていたのも復刻の助けとなりました。職人の神髄が凝縮されたような、お借りしたサンプルと寸分の狂いもなく再現された竹笠は、日本の伝統文化やモノ作りのプライドの結晶です。

幻の「柾目(まさめ)の竹ヒゴ」が織りなす力
国産の竹網代笠や流鏑馬笠と同じく、この浪人笠が普通の竹細工とは一線を画す最大の秘密。それは、使用されている竹ヒゴにあります。竹材は晩秋から冬の寒い時期に伐採して、厳選された節間の長い真竹を使用しています。その真竹から取られるのは、通常の板目(いため)のヒゴではなく、今や幻となって見る機会はほとんどない柾目のヒゴなのです。

柾目は丸い竹材を縦に割るため、竹の表皮部分を活かす板目に比べ、1本の竹ヒゴに表皮と身の部分が入る昔ながらの技法です。大型のペンダントライトなどの竹編みにも使われていました。この柾目のヒゴこそが、浪人笠のしなやかさと強靭さを兼ね備えた真竹のポテンシャルを最大限に引き出す素材なのです。

この貴重な柾目のヒゴを使い、緻密に編み込まれた網代編みの美しさたるや、ただただ感嘆するばかりです。

浪人笠の縁巻
そして、驚くべきは縁の仕上げです。なんと、本体と同じ極細の竹ヒゴだけを使い、手仕事でしっかりと縁を編み込んでいます。あまり目立たない所なので気づかれる方も少ないのですが、これほどのこだわりと手間暇をかけた竹笠は他には見当たりません。

柿渋と漆での仕上げ
直径62センチという堂々たる大きさのこの竹笠です、末永く愛用いただくため、耐久性への工夫も怠りません。

本来は柿渋のみの網代笠ですが、この復刻浪人笠では、まず天然柿渋を二回、さらに色目調整の柿渋を三回塗り重ねます。そして、この繊細な竹笠に強度と深い艶を与えるために漆をさらに三回塗り重ねるという、計八重の衣を纏わせた特別仕様です。型起こしから始まり、ヒゴ取り、編み込み、そして最後の仕上げに至るまで膨大な時間と職人の命が吹き込まれています。

本物の竹工芸
竹網代編みで復刻した浪人笠は単なる日よけや雨よけの道具ではありません。日本の文化、そして竹細工職人の誇りと魂が凝縮された本物の竹工芸です。この国の伝統文化を未来へと繋ぎ、日本の手仕事の価値を守り抜く、確かな一歩になればと思います。この貴重な手技が途絶えることのないよう、その真価を伝えながら守り続けていくこともボクたちの使命だと考えています。

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