里山の竹三点セット

 
竹の里山


曲りくねった道を走っていると竹が見える、その多くは孟宗竹だ。町からはずっと遠く離れた山深い所に来ているが人の暮らしはあって、そして人が居るところには竹がある。わずか300年か400年前に日本に渡って来た孟宗竹が、これだけ全国津々浦々で見られる事に改めてこの竹の有用性を感じる。


四方竹


手前に見える小振りなのは四方竹、普通は丸い稈がこの竹に限っては四角い形をしている。これも中国原産だが変わっているのは形だけではない、シャキシャキとした触感が美味で人気がある筍が何と秋に出るのだ。


孟宗竹


このまるまると太く高く伸びた孟宗竹はどうだ!春はこの大きな竹の筍を収穫して、秋には四方竹の筍を食する事ができる。川の流れも美しい豊かな集落には先人の知恵が生きている。


蓬莱竹


これで防災に活躍してきた蓬莱竹でも植えられていたら「里山の竹三点セット」か?いやいや、竹細工に適した真竹や淡竹(はちく)は三大有用竹とも言われるほど竹細工には定番の無くてもはならない竹だし、黒竹やメゴ笹、寒い地方だと根曲竹やスズ竹など細い竹もそれぞれに性質を活かした使われ方がある。やはり竹はスゴイ。


黒竹箒!お前もかっ!

黒竹箒、竹虎四代目(山岸義浩)


竹箒も国内では名人と呼ばれる職人さんが次々に引退されて随分と少なくなりました。それでも黒竹を使った箒は今でも少しづつ製造されていて肩に担ぐとズシリとくる重さ、これが日本の竹を次世代に繋ぐ重さでしょうか(笑)。


黒竹箒


さて、そんな黒竹箒ですけれど、こうして見ていると何ということもありません。ところが持ち手の黒竹をよく見てみると...


黒竹箒、害虫


これです!竹の虫が見事に柄の黒竹を食べてしまっているのです。本当にもう「黒竹!お前もかっ!」とジュリアスシーザーになった気分です。


タケトラカミキリの食害


しっかり管理されている竹材であっても、自然の営みを人間がそうそう簡単にコントロールできません。「何かを生み出す行動でなければ、行動とは言えない。」ともシーザーは言ってます、とにかく害虫に喰われないよう結果を出すべく行動あるのみです。




孟宗竹の竹素材ひとつ

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「竹を割った性格」などという言葉もあるくらい竹は縦に割りやすいので、ご存じ無い方がこのような割竹を見ると何という事もないかも知れません。ところが、この孟宗竹の割竹ひとつとっても割る職人によって技の熟練度は手に取るように分かるものです。


孟宗竹


孟宗竹は日本最大級の大きな竹なので長くて身も厚く、重量もあり伐竹するのも加工するのも実はかなり大変です。東北の一部をのぞけば日本国中どこにでもあって、もっと活用されても良さそうなものなのに高知では竹籠など一部に使われているものの多くが硬さゆえに敬遠され編組細工などにも使われません。


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しかし、この割竹の厚み魅力です。虎竹は淡竹の仲間なので厚みが少なく製品化に苦慮する事が多いので正直この断面だけでも惚れ惚れして暫く手放せなかったほどです。


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それにしても綺麗な仕事です、扱いの難しい孟宗竹を安定して大量にこのように加工できる工場がいつまでも残っていける日本であるように自分の出来る事は無限にあります。


孟宗竹の湯抜き加工

 
孟宗竹


大きな孟宗竹がトラックに積み込まれて運ばれてきました、竹の加工場はどこの地方に行っても長い竹材を置くのに困らない広い敷地があります。土場に沢山積み上げられている竹は竹林から伐り出されたばかりで、まだ多くの方が見慣れた自然そのままの「竹」です。


極太青竹ざる


ところが、その自然そのままの竹材を使う製品は、青物細工と呼ばれる青々とした竹そのままに編み込んでいく籠やざるの他にはあまり多くはありません。


青竹枝折戸


お正月前のこの時期には青竹で庭垣や枝折戸を設える方もおられるので、真竹(青竹)が工場にあると季節を感じますが、それくらい日頃は常時青竹があるという事はありません。そしたら青竹酒器などは別に元日でなくとも注文があるのにどうするのか?と疑問に思われるかも知れませんけれど、実はその都度竹林に行き納品日にあわせて伐採しています。青竹は伐採すると切り口から色がどんどんと褪せていきます、その青さを味わうのは一時の贅沢なもの。だから青竹盃などは、料理屋さんで出された場合に使ったものはお持ち帰りしても結構ですよと言われるのです。


竹材湯抜き釜


さて、そこで青竹では日持ちしない竹材を長く使うために必ずする加工が油抜きです。真竹や孟宗竹でもガスの火を使う火抜きという方法もあるものの、多くは湯抜きと言われる熱湯を使う方法が主流です。細長い円柱形の釜を斜めに設置して作られる湯抜き釜は、数年前までは竹虎ではも使っていましたので非常に馴染みのあるものです。


竹湯抜き釜炎


湯抜き加工をするのは冬の寒い時期、お湯を真っ暗なうちから沸かしはじめて早朝に湯気が立ち昇っている竹加工場が竹虎でも冬の風物詩の一つでした。


竹端材


都合の良い事に竹工場では沢山の竹端材ができますので、これらが燃料となりお湯を沸かします。


竹工場煙突


竹材加工


長い煙突に長い竹材。油抜き加工された竹材はまるでお湯につかってサッパリと垢を落としたように男前になって出てきます。真竹など、あの青さが湯上りには全く違う黄色い色合いになり、さらに冬の天日に当てて美しい乳白色に変わります。太陽に晒すので白竹の事を晒竹(さらしだけ)と呼ぶのです。


今回のYouTube動画では珍しい日本最大級の孟宗竹の湯抜き加工をご紹介しています。




黒竹伐竹

黒竹伐竹


竹を一年中伐っていると思われている方も多いようです、だから作りたくとも竹材が無いので作れないと言う話はお客様によって何度もご説明させて頂くお話しです。そんな伐採のシーズン真っ盛りに黒竹の伐採もはじまりました。


竹林の空


虎竹の里からすぐ近くには、虎竹同様に昔から笛などの素材として好まれた黒竹の産地があります。近年は需要低下や輸入材の影響で多くの職人が竹から離れ荒れている竹林も増えていますが竹虎では無くてはならない竹材です。


虎竹縁台


例えば虎竹縁台、細身の黒竹を並べて座面にすることによって独特のしなりのある座り心地になります。


別誂え黒竹玄関すのこ


黒竹玄関すのこも有難い事に20年前に考案して以来、ずっとご愛用者の方がおられる製品のひとつですが、革靴を脱いでホッと癒されるような気持ちのよい足触りは黒竹あっての事です。


黒竹伐採


自分の記憶にある黒竹の竹林は淡い緑の葉が茂る中に、真っ黒い竹が垂直に立ち並ぶ美しい光景です。竹は竹林にある時がやはり一番、あの生き生きとした竹の表情は忘れません。




根曲竹の生命力

根曲竹竹林


根曲竹は高知などでは身近ではないからかも知れませんが、の中でも非常に気になる素材です。「竹」と名前が付いているものの千島笹とか根曲笹という別名があるように笹の仲間、雪の多い地域で成育するので寒い季節は、ずっと雪の下敷きになっていて、そのために根元が曲がるから根曲竹と言うのです。


根曲竹の山


虎竹の古里焼坂の峠は標高228メートルなので、これほど高い山の竹林にはあまり来る機会はありません。景色の美しさは素晴らしいものですけれど最近多いと聞くクマがどうにも心配です。


根曲竹竹林


根曲竹の竹林は、さすがに笹類だけあって密集して生えていて竹をかき分け、かき分けして中に入るのにも一苦労。なるほど、これは同じ竹の伐採でも孟宗竹、真竹、淡竹などとは全く違います。


根曲竹の束


根曲竹は自分などからすれば籠やザルなどの細工用のイメージしかないのですが、実は農業資材としての一面もあって6尺(約1.8メートル)から9尺(約2.7メートル)まで束にされて販売もされているのです。近年はご多分に漏れず海外から似たような輸入竹材が沢山入ってくるものの、耐久性が倍も違うのでプロ愛用は全てこの根曲竹です。


根曲竹伐採


しかし、竹林に実際に入ってみて実感しますけれど9尺サイズの根曲竹など全体の5%だそうですが本当です。そもそも地面を這うように伸びる竹なのでそんなに背丈の高いものなど全く見当たりません。根曲竹職人は、そんな竹を一本づつ起こしながら伐採していきます。時々「ピーーーーーー!ピーーーーーー!」と笛を鳴らして警戒しながらの山出しが続きます。


根曲竹


前のシーズンの根曲竹が残っているのを拝見した事があります。さすがに一年経つと青々として色合いはなくなり、まるで真っ白く晒したようです。けれど、この竹も良くみればかなりの太さです。竹林にもよるかも知れませんが、これだけの根曲竹を集めるのは大変ではないでしょうか。


生きている根曲竹


そして、こちらが伐採したての生命力に溢れるような根曲竹です。その昔、活躍した超一流の竹作家もこの竹を愛で沢山の作品を遺しました。


飯塚琅玕齋


まだ竹が芸術の世界では認められていない時代。押しつぶされながらも粘強く野趣あふれる竹の姿を、自分達竹人にきっと重ねていたと思います。




敵ながら天晴!...言うてる場合ではない(本当は)

蕎麦せいろ


この夏も暑かったです、そしてコロナでご自宅で過ごされる機会も多かったと思います。ざる蕎麦や素麺など季節定番の食べ物をご家庭で食されるためなのか、竹ざるや蕎麦せいろなども例年に比べて非常に多くお求めいただいたように感じています。


蕎麦せいろ


今年からは竹を高温窯で処理して防虫、防カビ効果を高めた炭化加工の製品に切り替えています。竹製品をご愛用いただく皆様にはあまり気にされる事もなく、ご存知の方もそれほど多くはない竹の虫ですが家庭で多用しますザルや籠にはチビタケナガシンクイムシという小さな虫が入って細かい穴を開けてしまいます。


タケトラカミキリ


身の厚い孟宗竹の製品などにはタケトラカミキリと言うカミキリ虫の仲間が入る事が多いです。この虫の開ける穴は遠くからでも見えるほど大きく、竹材自体にもダメージを与えますのでとてもやっかいです。さすが虎竹の里は竹が多いので普通に実家の玄関にもこうしていてくれたりします(笑)。しかし、さすが竹を喰う虫...美しい、敵ながら天晴!
(ちなみに「タケトラ」と名前付いてますが竹虎は全く関係ありません!当然ですが。)


孟宗竹


旬の良い時期を選び、しっかり管理している竹でも虫害を100%防ぐことはできません。自分の大嫌いな薬剤処理をした竹材でも入ってしまう竹には不思議と虫が入るのです。近年増えて来た虫の原因のひとつには気候変動が考えられます、冬でも寒くなく明らかに昔の季節感とは違っているので害虫の成育に変化が出ているのかも知れないし、竹材伐採時期そのものが微妙に異なってきている事も感じます。


そして大きな原因は山の職人の不在です。竹林を健康に美しく保つためには人の手が欠かせないものの年々高齢化して以前のような管理が困難になりました。竹の元気がなくなると、てんぐ巣病という植物病害が起こりますけれど他の竹林だけでなく虎竹の里でも見かけます。


このような、いつくかの要因が重なり良質の竹材ばかりが山から出てこない中で製品にせざるをえないことが虫害とは無関係ではありません。自分達も最大限の努力と工夫をしながら、この問題とは向き合っていくのは当然ですけれど、これからはお客様にも、このような日本の竹が置かれている現状を少しづつご理解いただいていく事が必要です。




人知を超える竹と笹の違い、竹の花

 
淡竹

と笹の違いについてご存知でしょうか?何となく背丈が高いものが竹で、低いものが笹と区別されている方が多いようです。これは確かに間違いではなくて概ね当たっています、しかし実は背の低い竹もあって大きさだけでは判断できかねます。竹も笹も筍から大きくなりますが、この筍の皮が成長に伴いすっかり剥れてしまうのが竹であり、ずっと竹皮が剥れないものが笹という見分け方もあります。


矢竹


矢竹などは竹皮がついたまま剥れない種類であり笹類です。しかし、これも竹皮が剥れ落ちる笹類があったり竹皮が付いたままの竹類もあるようで明確に分類することは難しいようです。呼び名についても「竹」と名前がついているのは少しおかしいのではないでしょうか。根曲竹、スズ竹など竹細工に多用されるものも「竹」と呼ばれるものの全て笹の仲間です。反対に高知県で洗濯籠に編まれてきたメゴ笹(オカメザサ、カグラザザ)は「笹」と言うのに竹類です。


こうして呼び名が混乱している事自体、竹と笹の明確な違いの難しさを表しています。世界に1300種類、日本国内だけでも600種ある竹笹ですから仕方ないかも知れません。


黒竹開花


近年、孟宗竹の開花が見られるようになっていますけれど高知県では黒竹の開花も始まっています。一年を通して青々と美しい竹林に、突如としてこのような光景が現れるのですから、竹の開花を不吉な事の前触れとしていた時代もあるのも納得できる気がします。


黒竹の花


120年に一度という人の一生を思えば長いサイクルなので竹の開花のことも詳しくは分かっていません。竹と笹についても、竹の開花についても、虎竹の色づきにつても全て神秘のベールに包まれたまま、竹は人知を超えているのです。




続・恐るべし根曲竹

 
小菅小竹堂作根曲竹掛花籠


昨日は、ほとんど見られない根曲竹玉入れ籠をご紹介いたしました。雪に鍛えられる寒い地方の竹ですから西日本ではあまり見る機会がありませんが、関東で活躍されていた小菅小竹堂さんの作品に根曲竹の掛け花籠があったことを思い出しました。新潟のお生まれですので身近な竹と感じられていたのかも知れません。


飯塚琅玕斎作根曲竹掛花籠


竹工芸の世界で人気を誇る飯塚琅玕斎作の花籠にも根曲竹は使われています。東日本では日常的に籠やざるに多用されてきた竹材なので、こうして偉大な大作家の方が花籠に編まれるのも自然なことだったのです。


竹ペン置き


そう言えば自分の愛用するペン置きにも根曲竹は使われています。一見根曲のようでないと思われそうなものの実は竹と竹とを縛って留めてある部分が根曲竹。このように細かく、まるで籐のような柔らかな使い方ができる竹材は本当に稀です。


根曲竹ステッキ


ちなみに自分がたまに使う事のあるステッキにも根曲竹のものがあります。この細さで頼りなく感じる方もおられる事かと思います、しかし全体重をのせてもしなりはするものの折れるように素振りは皆無。手に粘りと強さが伝わってくるよう、しかも割れもしない、凄い竹材です。


続・竹と笹

ホウライチク


をお話しする時に、もうひとつ忘れてはならないのがバンブー類です、真竹や淡竹のように地下茎を伸ばして広がることがなく株立ちで成長する竹です。高知で良く目にします蓬莱竹(ホウライチク)は、元々は熱帯系の植物で日本には火縄銃に使うために入って来た竹ですが、株立ちで田畑に広がる事もなく、しっかり土壌を固められる事から護岸用として多用されてきました。


何度かお話ししていますように、川の流れの急になるポイントには良く植えられているので小さな頃からずっと不思議に思っていた竹なのです。高知ではシンニョウダケとも言われる竹、よほど川縁が好きな竹だと勝手に思っていたものの後から考えると全て人が防災を考えて植えたものでした。熱帯系の竹ですので南国土佐の暑い日差しの気候が合うのでしょう、この蓬莱竹もかなりの大きさです。蓬莱竹がこれくらいに成長するには100年近くかかっています、つまり長い間この川の流れを見守り続けてきてくれた地域の守り神とも言えます。

 
蓬莱竹


昔から台風銀座と呼ばれ大雨に悩まされてきた土地柄です、このような蓬莱竹の林は珍しくありません。知らない土地だとしても遠くからでも一目で分かります、こうして並んで繁る蓬莱竹に沿って川が流れています。もちろん護岸用として活躍するだけではなくて、その節間の長さを活かした竹細工にも使われてきました、蓬莱竹(ホウライチク)の竹ざるに少し書いていますので関心のある方はご覧ください。


竹類、笹類、バンブー類と竹と言っても色々と種類があることがお分かりいただけたかと思います。日頃何気にご覧いただく竹も日本人の暮らしに昔から深く関わってきただけに少し知っていると面白い事があるのです。孟宗竹と淡竹、普通の方からすれば太さ以外に見わけのつかない竹も、この動画で簡単に見分けられるようになります(笑)。