御用籠の思い出

御用籠


皆様の所では、どうですろうか?自分の小さい頃には虎竹の里のような田舎には、色々な商品を背負った行商の方が来られちょりましたぜよ。その中でも近くの漁師町からやってこられる干物の行商の方の事は、何十年経った今でも、結構ハッキリ覚えちゅうきに人の記憶は不思議なものです。その、おばちゃんは年期の入った竹の角籠を、濃い茶色い風呂敷で包み肩に背負って来られよりました。角籠は、かつては自転車やバイクの荷台に縛られちょった籠です。そう言うたら、昔の仕事用の自転車にはお決まりのように、幅の厚い真っ黒なゴムで固定した籠が付いちょりましたにゃあ。丈夫な力竹が縦に横に入ったもので御用籠などとも呼ばれた竹籠でした。


さて、おばちゃんが風呂敷をほどいて、背負った荷物を下ろすと、何とも玄関先が干物の香りに包まれます。思わず、のぞき込む大きな籠の中身は実に機能的に収納されていました。知らない町から来られた、ニコニコしたおばちゃんの話は楽しかったし、まっこと子供心にも心待ちにしていた事を覚えちょります。


虎竹の里にある安和駅は今は無人駅となっていますが、当時は駅員さんも何人かおられるほどの立派な駅だったのです。自分は隣町の幼稚園に汽車通学しよりましたので、母に連れられ乗車する朝の便からは、大きな荷物を背負った行商の方が一人、二人と降りられて改札を抜けて行かれるがです。今日は、あの竹籠に何が入っちゅうがやろうか?あの別のおばちゃんは、何を売りに来られているのだろうか?ウチに来てもらっても自分は話も聞けない残念やにゃあ。汽車の車窓からそんな事を思いよったがです。


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