「寅」と「虎」の臥龍山荘

臥龍山荘


あれは、いつの事やったろうか。いつも一人でいる時には何かに導かれる事があるがです。その日も、あまり馴染みのない町でつい足の向いたのが肱川という鵜飼いで有名と聞く川べり。それから駐車場に行くつもりが、ふと気が付いたら急な坂道をのぼった先にある美しい石垣の前におりました。


臥龍山荘庭園


もう詳しい事は忘れてしもうちょりますが、門から一歩足を踏み入れた薄暗い玄関は既に、ただならぬ空気感。下界との境界線のような趣やったがです。そんな中を、まるで別世界に引き込まれるうに進んで行った事だけはハッキリ覚えちゅうがです。


誰一人としていない明るい陽射しの庭に出ました。こじゃんと静かです、聞こえてくるのはツグミの鳴き声だけ。先に歩いて行くと、所々の竹に目がいく、品のよいあしらい。ここを建てた方は、よほどの方やったと想像していましたが、河内寅次郎という大洲出身の方が、明治40年に4年の歳月を費やして完成させたとの事やったがです。


臥龍山荘


緑の向こうから見えちょった、茅葺きの建物も見るからに凝った作りで、自分のような田舎者でなければこの粋人の心づくしをもっと深く感じられたがですろう。寅次郎と竹虎、「寅」と「虎」で名前だけは似ているようでいて、親近感が湧きますけんど本当に一体どのような方やったのか。自分などは足元にも及ばない方やろうと思うのですが、こんな近くにでもまっこと凄い方がおられるものです。


網代天井


しかし、この建物から少し離れた所にある、風流な川の流れに突き出すように建てられた庵は何ですろうか?恐る恐る中に入って、まず目にとまるのが頭上の網代編み。曲線を描く天井にこれだけの細工をされるとは河内寅次郎という人の深い思い入れを感じますぞね。


臥龍山荘から肱川


畳に腰をおろしました。まるで川の上に浮かんでいるような気がして慣れないと最初は不安になるくらいやったがです。山の緑や遠くの景色、キラキラと川面が輝いて「こんな素晴らしい所があったかえ?」まっこと、この歳になっても知らない事ばっかりですぞね。誰もいないし、のんびりした陽射しの中、半日ほどはおったろうか?同じ四国に居ながら、お隣の愛媛県は大洲市にこんな凝った数寄屋造りの庵があるとは思うても見なかったがです。


「ミシュラン」と言えばレストランの評価で有名ですけんど、観光地評価のミシュラン・グリーンガイド・ジャポンというのがあって、ここ臥龍山荘は2011年に一つ星を獲得されたという事を知りました。さすがと言うか、これにはビックリしますけんど、更に驚くのがここの竹の仕事に竹虎が関わっちょった言う事ぞね。自分の知らない先代の頃、こんな凄い場所に...。まっこと、つくづく暖簾の大きさを感じるがです。


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