流鏑馬笠(騎射笠・端反笠・陣笠)を復刻した

 
流鏑馬笠、騎射笠、竹虎四代目(山岸義浩)


流鏑馬(やぶさめ)をご存じだろうか?馬に乗ったまま走りながら弓を放つ騎射術を、テレビなどで見た事があると思う。何を隠そう自分も明徳時代は、弓道部に籍を置いたこともあるので少し覚えがあるが、弓を射るだけでも大変なのに、あの不安定な馬に跨って弓を射るとは体力はもちろん、想像を絶する精神力が必要だ。その時にかぶる笠が流鏑馬笠(騎射笠)、綾藺笠などと呼ばれていて、どうにか復刻できないかとチャレンジしていたのだ。ここまで来るのに一体何年かかったろうか?美しい出来映えに満足しながらも少し複雑な思いも感じている。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠原型


あれは寒い雪の日だった、そもそも初めて一つだけ残された反笠の原型を見た時には編めそうな職人の顔がすぐに思い浮かんだ。代官がかぶっている陣笠にも似ている、時代劇や映画で使われる網代編みの饅頭笠を製作していたので、もしやと思って頼んでみた。


竹職人


ところが、やはり騎射笠となると製法が違うのだ。少し時間があれば何とかなりそうでもあったけれど他の製作が忙しく新しい笠に取り組む余裕がなかった。そして、そのうち仕事ができなくなった。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠下地


また今回、竹編みを難しくしているのは柾目の竹ヒゴを使っている点だ。柾目とは丸い竹材を縦に割っていくので竹の厚み部分がヒゴ幅になる。虎竹細工など竹表皮部分を活かす場合の板目に比べると、圧倒的に多くの材料が取れるので竹細工の盛んな頃には良く使われていたが現在では殆ど見かけない。すぐ思い浮かぶのは、自宅で使っている輪弧編みの竹ペンダントライトくらいではないか。


流鏑馬笠の柾竹ヒゴ機械


従って柾目の竹ヒゴを取る機械なども流鏑馬笠復刻の過程で初めて見た。上に並んで丸いローラーがあるなんて感動的だ、これだけでも新しい細工作りに取り組んだ甲斐がある(笑)。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠、柾竹ヒゴ


流鏑馬笠の流れるような曲線は、この柾目の竹ヒゴがあってこそなのだ。当社にある青竹細工でも、竹ざるなど竹表皮を取った後の竹の身部分を二番ヒゴ、三番ヒゴと取っていく、一本の竹を出来るだけ使い切るのが昔から伝わる編み方だ。しかし、同じ身部分の竹ヒゴのように見えても柾の竹ヒゴは柔らかく、しなやかな性質をもちながら、それでいて竹で一番丈夫な竹表皮部分が竹ヒゴの片側に必ず備えられているから強い。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠


柿渋と漆で仕上げられる前の下地編みだけの真っ白い流鏑馬笠が、すでにピンと自立したような硬さを主張しているのはこの柾目の竹ヒゴのせいだ。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠


あの古老の熟練職人が尻尾まいた、この曲線。


流鏑馬笠、網代笠、騎射笠、端反笠、陣笠


色ムラにならないよう柿渋の濃度を少しづつ上げながら四回塗り重ねる、それから仕上げに漆を二回塗布した色合い。コンコンと軽く叩くと、軽く乾いた音が響くほどの硬度となっている。


流鏑馬笠・騎射笠・端反笠・陣笠・綾藺笠復刻


伝統ある産地の笠骨に、竹ではなくプラスチックが普通に使われている「国産」に落胆して、しかし、その苦しい事情に誰よりも納得せざるを得なかった頃に古い流鏑馬笠に出会った。復刻してみたい...、昔ながらの技で完成する日本の職人技が、まだまだ残っている事をこの目で見たかったのだ。




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