白竹天国、真竹が白竹(晒竹)になるまで

白竹


畑一面に、まるで白竹の花が咲いたように美しい光景が広がっています。他では、あまり見られない景色なので、テレビ番組の珍百景にでも取り上げられても不思議ではありません(笑)が、実はこれは、白竹を天日干ししているところなのです。白竹は、晒竹(さらしだけ)と呼ばれる事もあります、元は真竹(青竹)です。白竹、晒竹、真竹、青竹など呼び名が色々で、もしかしたら少しややこしいかも、でも全て同じ竹の事です。


真竹の竹林


真竹の竹林も、実際に竹籠職人が伐採している山々を見てきましたけれど、今の時代、どこに行っても手入れが行き届いているような場所はなく、竹を伐っても山出しが容易でない竹林ばかりです。


真竹


そんな中、急斜面で足場も良くない竹林から真竹を運び出すのは大変な重労働ですが、この湯抜き釜の主は、場合によっては竹を一本一本布にくるみキズ付かないように大切に扱うので竹職人からは絶大な支持をされています。工房で話をしていると、何度も耳にするのが、この白竹加工場の事なのです。


竹虎での湯抜き


竹虎でも、以前は白竹の湯抜き加工をしていました。長尺のまま湯抜きをしていたので、釜が大きくお湯が沸かないので、火入れは真っ暗いうちから始めます。2~3時間、竹端材を燃やし続けて湯気が上がり出すと職人が出社してきて、仕事に取り掛かるのか常でした。


湯抜き釜


こちらの加工場では、120センチ程度までに竹を伐っており、比較的短い釜で湯抜きをされています。


真竹


それにしても、この変化をご覧ください。これが竹林から出して来たばかりの真竹の色合いです。


白竹(晒竹)


湯抜きの熱湯から、釜上げされると余分な竹の油分と共に汚れも落ちて、こんな初々しい色合いに。


白竹(晒竹)


白竹(晒竹)


この竹を、畑にズラリの並べられた竹杭に立てていき太陽の光に晒していくのです。白竹が晒竹と呼ばれるのは、こうして日に晒すことに由来しています。


白竹(晒竹)


十分に日の光に晒された竹は、更に落ち着い白色に変化します。


白竹三段ピクニックバスケット


こうして製竹された竹を使って、白竹三段ピクニックバスケットのような白竹の竹細工が編まれるのです。





孟宗竹と牡蠣筏、温暖化がもたらす山と海

虎竹の里の海


地球温暖化の影響は、私たちの身近な環境にまで及んでいます。虎竹の里では、古くから言われてきた「霜が下りたら色がつく」という言葉があるように、温暖化によって虎竹の色づきが悪くなるなど、竹にも変化が見られます。一方、温暖化は瀬戸内海の牡蠣養殖にも深刻な影響を与えています。海洋酸性化や水温上昇により、牡蠣の生育不良や死亡率の増加が問題となっており、リスク回避のため養殖量を増やす動きが進んでいるのです。


牡蠣筏用孟宗竹


そこで、活躍しているのが筏製作に欠かせない孟宗竹なのです。牡蠣筏は、近年の環境意識の高まりがあり、マイクロプラスチックなどの海洋汚染防止にも役立つ竹製が見直されています。養殖の本場である広島近辺の竹だけでは足りず、多くは大型の孟宗竹の豊富な九州から大型トレーラーで運ばれていきます。500本もの11メートルを超える長さのままの孟宗竹が積み込まれて、運ばれていく姿は壮観です。


孟宗竹の竹林


ある業者では月に5,000本もの竹を伐採・運搬しています。そんなに伐れば竹林もハゲ山になりそう?そう思われる方もいるかも知れませんが、心配は一切不要です!竹は植林などしなくとも、毎年ドンドン筍が生えてくるスーパー植物です(笑)。


孟宗竹伐り株


そして、わずか3ヶ月で20メートル以上に成長する「継続利用可能な唯一の天然資源」と言われます。孟宗竹の牡蠣筏への活用は、里山の竹林保全にも繋がり、海の環境にも優しい、まさにまさに山海両得なのです。


孟宗竹伐採職人


1980年以前は国内の竹林の90%は人の手によって管理された経営竹林でした。それが、1990年代以降のタケノコ輸入増加により、孟宗竹は「竹害」と呼ばれるような悪者扱いされるようになりました。しかし、牡蠣養殖によって孟宗竹が活用されることで、新たな光が当たっています。


牡蠣養殖筏用孟宗竹


広島県だけでも、1万台を超える牡蠣養殖筏があるそうです。ひとつの筏に使用される竹材は約130本、単純計算で130万本になりますから、全て竹製になればどんなに良いだろうかと思っています。


孟宗竹トレーラー


現在では、なにかと悪者扱いの孟宗竹が、こうして人の役に立てているのは本当に嬉しい事です。そして皆さまに、是非知っておいて欲しいのが、竹開花は孟宗竹だと60年に一度、淡竹や真竹は120年に一度です。つまり、日本に大陸から渡ってきた孟宗竹も、自ら増えたのではなく、それぞれの地域の人々に求められ、人の手によって増されてきたということです。ボクの暮らす高知県はじめ大雨の災害の多発する西日本では、 防災としての大きな役割もになってきました。竹は日本人の暮らしと共に歩んできたパートナーなのです。





五月晴れの鯉のぼりと真竹

青空に鯉のぼり


本日、五月五日は子供の日です。あちらこちらに鯉のぼりが泳ぐ季節でもあります。この連休の高知は、天気に恵まれています。五月晴れの青いそらに元気に泳ぐ鯉のぼりを見つけると清々しい気持ちです。高知県では、鯉のぼりと一緒に英語のフラッグから、その名前が付いた「フラフ」と呼ばれる大きな旗を揚げます。日本各地、それぞれの地方により、鯉のぼりの習慣も微妙に異なっているのだろうと思います。




フラフと聞きましても、どんなものかご覧になられた事のない方も多いと思います。南国土佐らしい鮮やかな色合いのフラフは、このように製作されています、動画がありますのでよかったらご覧ください。


鯉のぼりと真竹


さて、このような鯉のぼりなのですが、近年の鯉のぼりを立てるポールの多くは、アルミ合金製だと聞きいて少し驚きました。軽くて、丈夫な上に、使わない時には短くして収納しておけて便利だからだそうですが、鯉のぼりを立てるのなら、の他には考えた事のなかったボクなどは、かなり寂しく感じています(笑)。子供たちの健やかな成長と立身出世を願う大切な鯉のぼりのポールだからこそ、竹ほど、ふさわしい物は他にないと思うのです。


鯉のぼりを支える真竹


なぜなら、今までも何度となくお話していますように、竹は驚異的な生命力と成長力を持っているからです。竹は、筍として顔を出したかと思うと、グングンと伸びて、わずか三カ月で20数メートルもの高さにまで大きくなります。天を目指して真っ直ぐに伸びるその姿は、子供たちの健やかな成長と立身出世を願う親心そのものではないでしょうか。


海風


だからこそ、日本では「松竹梅」と縁起の良い植物にも数えられている竹、これほど鯉のぼりを立てるのにふさわしい素材はありません。


遠くに鯉のぼり


それにしても、この高台は心が洗われるような落ち着いた長閑な景色が広がっています。強い海風に鯉のぼりが元気に大空に泳いでます、お子さんの健やかな成長を心から願う大切な飾りには、やはり生命力あふれる本物の竹が似合います。



牡蠣と孟宗竹

孟宗竹の林


虎竹の里には極端に少ない日本最大級の孟宗竹も、日本中どこに行っても目につく山々には生えていて、強い生命力と驚異的な成長力で青々と繁っている。せっかくの継続利用可能な天然資源が、活用される事がなくもったいない、竹が泣いているとお話しさせてもらうけれど、ひとつ注目の竹利用の方法がある。前にもお話しさせてもらっているが、実は、それが牡蠣養殖に欠かせない養殖筏(いかだ)だ。


孟宗竹の伐採


竹伐り一筋40年のベテラン職人さんに孟宗竹の竹林で伺った話を思い出す。海に浮かべる養殖筏となれば、ある程度の強度が求められると思うが、中が空洞になっている竹の浮力と、身が厚く硬さをも併せ持つ孟宗竹なら理想的な素材なのだ。




伐採された孟宗竹


旬を迎えている牡蠣は、フライにしても鍋にしても本当に美味しい。海のミルクと聞いた事があると思う、病原体から体を守る免疫機能細胞は亜鉛が不足するとうまく働かないそうだが、亜鉛を豊富に含む牡蠣を食することで風邪などの感染症対策になると言うから、まさに今の食材。今夜の食卓に牡蠣がならぶ方がおられたら、是非、海から遠く離れた孟宗竹の竹林にも思いを馳せていただくと嬉しい。



皮付きの竹しゃもじ

孟宗竹材


この竹の肉厚をご覧いただきたい!孟宗竹は、さすが国内最大級の竹だけあって直径も大きいが、身も厚みもすごい。虎竹は、独特の虎模様が他の竹にない特徴だが、淡竹の仲間なので身が薄い。なので、このような竹材を見る度に、惚れ惚れしてしまう。身の厚みがあればこそ、握りの太い竹箸や耳かき等が自由に製造できるのだ。


竹しゃもじ


さて、こんな竹杓文字も大きな孟宗竹だからこそ作ることが出来る製品のひとつだ。竹節が、ちょうど首のあたりに入った皮付きは何とも格好がいい。もちろん、自然素材だから全ての杓文字のこの場所に節が入るとは限らない、この竹杓文字は器量良しなのだ(笑)。


孟宗竹炭化


ただ、身が厚い分、孟宗竹は虫が入りやすいという事もある。竹材管理が大変な竹材なのだが、それも高温と圧力で蒸し焼き状態にする炭化加工すれば随分と防虫効果が高くなる。


炭化竹


天然の煤竹のように、竹表皮が煤けた感じになった一枚の竹板。割幅は広くて、身も厚い、どんな製品に変えてみようか?ワクワクしてくるような竹素材だ。どんな素晴らしい技術があっても、元の竹があってこそだと、手にしながらつくづく思う。



篠竹(野竹)について

篠竹


南方系の植物である竹は、西日本には孟宗竹や真竹、淡竹など大型の種類が多いが、東日本の特に東北まで行くと孟宗竹も少し小振りになるし、竹細工に使われるのは主に小型の笹類が中心になってくる。そんな笹類のひとつ、篠竹は地方によって呼び名の多い竹材だが、篠竹を野竹とも呼ぶ山の職人さんから、数種類の見本が届られた。一日中、山で伐採していると様々な模様や色合いの入った篠竹がある。実は、この赤や黒の色合いが編み上げる竹籠に影響を与えていたのではないか?そんな仮説を聴いていて時間を忘れた事を思い出した。


米研ぎざる


しかし、なるほどヒゴにすると篠竹とスズ竹は分かりづらいかも知れない。篠竹は竹質にツヤがなく、スズ竹はツヤがあるのが若干の相異点だ。ある問屋さんでは、つい30年前には年間で2000~3000個ほど篠竹の米研ぎざるを扱っていたそうだ。店主によると、かつては地域には4000人の竹従事者がいて、推定で年間90万個の生産があり、何と米の出荷額と米研ぎざるの出荷額が同じくらいあった時期もあったと言うから驚く。


根曲竹手提げ籠


さて、東北地方には、「真竹より篠竹、篠竹よりスズ竹、スズより根曲竹」という言葉がある。竹の使いやすさ、奥深さを例えて言い伝えられて来た事だと思うが、長年使い込まれた根曲竹などを手にすると、なるほどと納得する事が多い。


篠竹六ツ目丸籠


「篠竹よりスズ竹」の篠竹であるが、かつて関東あたりでも盛んに編まれた六ツ目編みのメカゴに代表される籠に多用されてきた。篠竹とスズ竹は全く別の竹材ではあるけれど、割って薄く剥いだ竹ヒゴにする見分ける事は難しくなる。大量生産されていた当時は、竹ヒゴにした状態で内職の編み子さんに届ける場合がほとんどで、骨竹に篠竹、編み込みにはスズ竹を使う細工もあったため、ふたつの竹材が混在していた。


スズ竹市場籠


そこで、職人の中にも篠竹とスズ竹を区別しない方もおられたため、竹虎では現在でもスズ竹市場籠にあえて「篠竹」と明記をつけている。




ちなみに、スズ竹ではこんな緻密なアタッシュケースを製作させていただく事がある。自分も特別な日には手にして出かけるが、気持ちがシュッと引き締まって心地いい。



建仁寺垣の作り方

建仁寺垣


良く見かける竹垣の一つに建仁寺垣がある。京都の建仁寺に由来している竹垣だが、縦割した竹を隙間なく並べているのが特徴で、目隠しとしては最適だ。竹虎でも、別誂えで製作する場合、この建仁寺垣をご指定される事が多く、やはりお客様にも一番知られている、代表的な竹垣なのである。


孟宗竹


建仁寺の原料は、日本最大級の竹である孟宗竹だ。虎竹で製作させて頂くこともあるのだが、直径の小さな竹では割幅が狭くなり、平らに仕上げることが出来ない。


建仁寺竹割り


孟宗竹を6尺(180センチ)に切断し、切り込みを入れている。これを一枚づつの長い竹板にして、竹節を取り除いた後に湯抜きする、青々とした色合いは、この工程で白っぽく変色する。


建仁寺


建仁寺天日干し


これを、広々とした土場に天日干しして建仁寺は完成する。近年は、竹伐採の職人や加工の職人不足から竹材が足りなくなりつつあり、ひとつの課題となっている。


建仁寺垣職人


輸入竹材やプラスチック製品ではなく、いつまでも国産の建仁寺垣が普通に製作できるような日本の竹であってもらいたい。





古民家の囲炉裏で生まれる煤竹について

煤竹菓子楊枝


別注で製作された煤竹菓子楊枝は、お客様にも喜んで頂いているが、煤竹がせっかく出て来たついでに少し竹材についてお話しさせていただきたい。


囲炉裏、竹虎四代目


囲炉裏の生活は、今や贅沢で料理屋か高級旅館など、ごく限られた所でしか目にすることはないのではないだろうか。毎日の煮炊きや暖房に使われていた時代は、家中に煙が漂い天井裏に使われていた竹材が知らぬ間に燻されていた。


煤竹


煤が付いて真っ黒になった竹を洗い、火抜きすると残っていた油分で、このような自然の光沢が生まれる。




何と数年前までは、この煤竹はじめ銘竹が田園の広がる民家の倉庫で市が開かれ取引されていた。


染め竹


染め竹と煤竹を間違えられる方もいる、炭化竹といって熱と圧力で短時間で煤竹状にした竹材もあるけれど、長い年月を経て自然に生まれる煤竹には及ばない。


渡辺竹清作煤竹バッグ


そんな煤竹で編まれた究極のバッグ、網代編みの巨匠である渡辺竹清氏がてがけた最後のひとつだ。


携帯竹箸


同じ携帯箸でも、煤竹は存在感が違う。





竹根について

竹根の曲がり


竹林で見る竹は真っ直ぐに伸びて気持ちがいい、強い風にもしなって折れない強さにいつも憧れる。でも、その強靭さはどこから来るのか?といえば、決して目立つことのない地下茎にある。


細い竹根


竹根は地面の下で縦横無尽に伸びて、それぞれの竹と繋がっているが、この竹根がまた丈夫。


竹根印鑑


印鑑などに使われるのは、竹の地下茎の部分だ。


竹根香合


竹根香合


竹根を活かした香合は、使わずともインテリアにできるほどの存在感だ。


竹根茶碗


竹根は虫が喰く事が多く、管理が難しい。大きな竹根を数年乾燥させて削りだし漆で仕上げた茶碗は、それぞれ景色が違って本当に面白い。



高知県特産黒竹×別注玄関すのことBamboo Flute

別注黒竹玄関すのこ


蒸し暑い日が続いてくるとお問い合わせが多くなる竹製品のひとつに黒竹玄関すのこがある。作り始めたのは、もう二十数年前になるだろうか?それ以来、細々とではあるもののロングセラーとして沢山の方にご愛顧いただいてきた。使用する竹は、虎竹とは種類の違う、黒竹という黒さと細さが特徴の竹で、虎竹の里のすぐ隣町がこちらも江戸時代から知られる特産地だ。


別注黒竹玄関すのこ


素足で歩くと本当に気持ちが良いので、玄関やベランダでお使いの方が多い、それぞれのご自宅に合わせて別誂えのご注文も多く、その都度長さや高さを変更して製作させてもらっている。


別注黒竹玄関すのこ


虎竹袖垣に並べると同じくらいの長さがある、こちらの別注品は長さが180センチ、高さも玄関に合わせたサイズに変更している。


尺八用黒竹


同じように美しい黒竹が並んでいるが、こちらは玄関スノコではなく、アメリカ在住の尺八作家レベンソン(Monty H. Levenson)さんにshakuhachi(Bamboo Flute)製作用として届ける黒竹素材だ。笛竹の産地がついに国を飛び越えて海外にまで送られ、人を和ませる音を奏でるなんて素晴らしいと思う。




黒竹を使ってカリフォルニアで製作される尺八とは、一体どんな音なのだろうか?関心のあられる方は、前に竹虎の工場で演奏したレベンソンさんの動画をご覧ください。