竹ヒゴを並べたアタッシュケース
細く取った竹ヒゴを一本づつ並べて市松模様に仕立てた竹アタッシュケースは、45年以上前に祖父がずっと懇意にして頂いていた故・宮川征甫先生にオーダーして製作されたものです。本体に見えている竹虎ロゴマークは、先生の得意な象嵌細工で虎竹をあしらっています。ずっと仕舞われていて、あまり持ち歩くことはなかったアタッシュケースですが、持ち手を虎竹にやり替えてもらったのを機に使う頻度が急に増えました。
すると、やはり目につきますので何人かの方から「そのカバンも竹製ですか、よい色合いに染められていますね」と、お声をかけていただきます。竹虎には、このようなアタッシュケースではないものの、同じ技法で作られた小物も多々陳列されていましたし、何といっても大きな調度品までありますから経年変色でこのような飴色に変化している事が当たり前だと思って普通に提げていました。ところが、他の方からこのように言われるので改めて竹の色合いの変化の美しさを見直してみました。
青竹酒器の色合いのコントラスト
竹虎では、現在は製造できなくなっていますけれど、以前は青竹酒器を販売していました。青々とした表皮の青さに真っ白い内側の身部分との対比は、いつ見ても気持ちのよいものです。竹の国、日本で生まれ育った人々の心のどこかには、たとえ竹を知らなくともこの色合いを清々しいと思う感性が宿っている気がします。そして、少し大袈裟に分かりやすいように言うならば、この白い竹の内側の色合いが元々のアタッシュケースの色なのです。
醸し出す高級感
最近はインバウンドで混み合っていますから、連休ともなれば新幹線など席が空いてません。そこで先日は仕方なく少し高額な席を予約、乗車してみると高級そうな革シートで凄いなあと思いました。ところが、ボクは慣れない座席でしたが竹アタッシュケースはどうでしょうか?いやいや、何とも馴染んでいて格好がよいので驚きました。
竹の経年変色の美しさ
竹を細い串状にして編み込まれる簾は、キッチン周りで使われることも多いのでご存知かと思います。このアタッシュケースの表面は、基本的にこのような簾と同じ竹ヒゴを並べて製作されています。出来あがったばかりは、まさにこのような色合なのです。
前にもご紹介しましたが、祖父の部屋に置かれていた竹ヒゴを使った調度品と化粧ケースをご覧いただいても、竹ヒゴの色合いが微妙に変化している過程がお分かりいただけるかと思います。
時間職人
確かに、これだけ色合いが変化して深まるのなら「染めている」と思われるのは当然です。まあ、実際に染めたと言われれば決して間違った表現でもないかも知れません。ただ、染め上げたのは竹職人ではなく、時間職人です。人の手ではとうてい出来ないような仕事を、数十年の時をかけて醸し出しているのです。