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皇帝ダリアの咲く竹林で

皇帝ダリア


師走の涙

慌ただしい師走の毎日が通り過ぎていく中、内職をしてくださっている職人さんの賃金を、ほんのわずかですが上げさせて頂きました。そのことを伝えると、長年この道一筋に歩んできた熟練の竹職人さんは、じっとボクを見て震える声で「夢ではないかと、ずっと思いよったがです。本当に、ありがとうございます」と言われます。目から溢れる涙を見た時、先人から続いてきたこの仕事の重さを、改めて思いしらされた気がしました。


竹材


めんどい(恥ずかしい)仕事

かつて、竹細工という生業は地域社会の中で低く見られていた時代がありました。ボクが竹の仕事を始めた頃、今でも忘れられない出来事があります。仕事をお願いしている職人さんの家の前に竹材を置こうとした時のことです。竹を担いだボクを制して複雑な表情でこう言いました。「そんな表に置きなや。めんどいき、裏に置いちょってくれ」、めんどいとは土佐弁で恥ずかしいという意味です。竹細工をしていることが知れると、周囲から蔑まれかねまない、根深く残っていた悪しき慣習からの言葉でした。そんな思いをしながらも、技術を繋いできた職人さんたちが、正月が越せると喜んでくれたのです。その姿に、ボクも涙せずにはいられませんでした。


竹の内職さんから頂いた大根


小さな大根

それから、別の職人さんの家を訪ねました。「土地が痩せちゅうき、小さな大根しかできんがやけど」そう言って二本の大根を持たせてくれたおばちゃんは、腕の良かった竹細工師だった亡きご主人の思い出を語ってくれます。体調を崩していたとき、いつも座って眺めていた真竹の竹林。納屋の隅には、主が編んだ籠がひっそりと置かれていました。その籠の編み目はやはり美しく、堅牢で使う人の事を考えて作られた本物でした。


ダリアの茎


冬の空に向かって咲く皇帝ダリア

そして帰り道、かつて職人さんと共に歩いた竹林を通りかかると、なんと見事な薄紫色の花が咲いています。今まで一度も気づかなかった...こんな寒い季節に、こんなに大きな花が咲くなんて...。ふと足を止めて見ると、その花の茎には竹と同じような力強い節があるではないですか!?後で調べてみたら皇帝ダリアという花でした。どんなに冷たい風に吹かれても、誰に憚ることなく天に向かって咲くその姿。それは、逆境の中を懸命に生き抜きいてきた、あの竹職人さんそのもののように見えました。



竹虎四代目

竹虎四代目
YOSHIHIRO YAMAGISHI

創業明治27年の老舗竹虎の四代目。100年守り続けた日本唯一の竹林を次の100年に繋ぐ。日本で二人だけの世界竹大使。

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