
ボクは、竹骨が好きなのです。
竹細工の美しさは、緻密に編み込まれたヒゴの表面だけにあるのではありません。その構造をしっかりと支え、凛とした佇まいを生み出す竹骨の美しさ。これこそが、竹という素材が持つ本来の強さと、色気の象徴ではないかと思うのです。だからこそ、和紙や布の向こう側から竹骨がクッキリと浮き上がって見える笠に出会うと、どうしても目を奪われてしまいます。

竹虎の創業は、今から132年前の明治27年
実は、竹虎の創業は和傘の骨竹用の竹材からでした。初代・竹虎宇三郎の原点がそこにあるから、ボクがこんなにも竹骨に惹かれるのか?と聞かれれば、それはまあ、直接は関係ないのかもしれません(笑)。けれど、血の中に流れる竹への愛着が、時を超えてボクをあの美しい骨組みへと向かわせているのは、あながち間違いではない気がするのです。

博物館での衝撃的な出会い。幻のシブカ笠
そんなボクが今、情熱を注いでチャレンジしたいと思っているのがシブカ笠の復刻です。出会いは、とある博物館でした。展示室の薄暗い光の中に、その笠は静かに佇んでいました。一目見た瞬間、ボクの心は完全に奪われてしまったのです。

浮かび上がる竹骨の美しさ
何がそんなにボクを惹きつけたのか。それは、表面に張られた和紙の下から、驚くほどクッキリと、そして均一に浮かび上がる何本もの竹骨の美しさでした。まるで生き物の血管のように、竹のラインが美しく放射状に広がっています。一見すると無骨でありながら、信じられないほどの繊細さと職人の息づかいがありました。ああ、これを、ボクたちの手で蘇らせることはできないだろうか?しかし、口で言うほど復刻は簡単ではありません。このシブカ笠を蘇らせるには、少なくとも三つの壁を越える必要があると思いました。

三つの竹の壁
一つ目は竹材そのものがあること。笠の骨に適した、粘りと強さを持つ上質な竹が手に入らなければ、すべての工程は始まりません。まあ、竹虎には竹ならいくらでもあるから大丈夫です。ただ、二つ目にある竹の壁は、極めて高い竹細工の技術力。精度高く削り出した何本もの骨を均一に笠の形に組み上げるには、長年培った職人の勘と技が不可欠です。そして三つ目が、一閑張の技術です。竹骨の上から和紙を寸分の隙もなく張り合わせ、柿渋などを塗って堅牢に仕上げる。つまり、竹の技だけでなく、和紙と柿渋をあやつる技がなければ、あの風合いは生まれないのです。普通だと、かなり難易度は高そうです。けれど、竹虎には何とか実現できそうな多くが揃っている。素材があり、竹の職人がいて、一閑張の技術もそれを繋ぐ想いもある。ボクたちなら、きっとできる。いや、自分たちがやらなくて誰がやるんだ。そう信じて復刻をスタートさせています。

出来上がった竹笠プロトタイプ
そんな想いを職人たちと共有し、試行錯誤の末にできあがってきたのが、今回の試作プロトタイプです。手元に届いた瞬間、ボクはすぐにそれを手に取り、じっくりと眺めました。「...うん、思っていたよりずっといい。」確かに素晴らしい出来栄えです。竹骨のラインもしっかりと出ており、一閑張の仕上げも堅牢そのもの。塗装にもう少し手を加えれば防水性も確保できそうです。今の技術でここまで再現できたことは、間違いなく大きな一歩です。けれど、実際に頭に被ってみた時、ほんのわずかな違和感を感じます。あの博物館でボクをひと目で魅了した、言葉にできない風格と、どこかが決定的に違うのです。何が違うのか?その答えの一つは、製品の重さにあるのではないかと感じました。

ボクがいつもぶっているお馴染みの竹帽子は、重さが約150グラム程度です。軽やかで長時間被っていても気になりません。また、竹帽子の比べると大ぶりで、細い竹ヒゴを緻密に編み込んで作る網代笠は、編み込みが詰まっている分だけ少し重くなりますが、それでも250グラムに収まっています。それに対して、今回のシブカ笠プロトタイプは、重さを量ってみると、なんと350グラムもあったのです。
長時間被り続けられる笠を目指して
世界竹会議が台湾で開催されたときに、日本唯一の虎竹電気自動車「竹トラッカー」と共に持ちこんで愛用していたのが竹網代笠です。旅先には信頼できる竹製品でないと持参できません、海外なら尚更のことですが、この竹網代笠は暑い台湾で大活躍してくれました。この試作のシブカ笠は頑丈に、堅牢に仕上げています。少しくらいの雨なら平気な製品を目指していますので、道具としての耐久性を考えれば、これはひとつの正解なのかもしれません。しかし、帽子や笠というものは、玄関先で最初に頭に載せたときの心地よさだけで評価してはいけないのです。釣り用であれ、畑仕事であれ、歩き遍路であれ、何時間も、何日も被り続けられるものでなければ、本物の道具とは言えません。勝手の違う海外でも、なに不自由なく愛用できるような完成度を目指していきたいと思います。

魂は細部に宿る
わずか150グラムや200グラムの差だと思うかもしれません。しかし、その小さな重さの違いが、時間が経つにつれて首や肩への大きな負担となり、じわじわと疲労として蓄積されていくのをボク自身が使って知っています。あの博物館にあった本物のシブカ笠は、時を経て枯れた味わいがあっただけでなく、もっと軽やかに、人の営みに寄り添うような顔つきでした(笑)。堅牢さを保ちながら、いかにしてこの重さを削ぎ落とし、あの風合いに近づけていくか。挑戦は、まだ始まったばかりです。これからさらに試作を繰り返し、竹骨の太さ、和紙の厚み、柿渋の塗り方、すべてを見直していかねばなりません。ボク自身が納得し、皆さんにも「これは凄い!」と唸っていただけるようなシブカ笠を、きっと形にしますので、どうぞこれからの進化を楽しみにお待ちください。
