
竹は世に連れ人に連れ
日本唯一の虎竹をはじめ、真竹、白竹、磨き細工など竹籠というのは、職人の思いや技が詰まっているだけでなく、使い込むほどに味わい深い飴色へと変化していく経年変色の美しさがあります。ボクは常々「竹は世に連れ人に連れ」と言っていますが、人々の生活に密着してきたからこそ、竹籠の形や役目も時代とともに変化してきました。やっぱり竹籠の歴史は、人の暮らしぶりそのものです。そんな竹の仕事に長く携わらせていただいているボクですが、先日、ちょっと奇跡としか言いようのない、驚くような出来事がありました。まさに籠に歴史あり...いやいや、この偶然は「籠に伝説あり」レベルかも(笑)と思わず唸ってしまうようなご縁のお話です。
前にご紹介した奇跡のチリ籠の修理
ことの始まりは、お客様からお父様との思い出の詰まった竹籠を修理してほしい、というご依頼をいただいたことでした。その竹籠は、お客様のお父様が入院されていた際、病室で大切に使われていた約50年前のチリ籠だったのです。昇降式のベッドに当たり、口巻の部分がすっかり壊れて折れてしまっていました。お父様との大切な思い出の品です。なんとか形を留め、これからも長く使っていけるようにと、職人の手によって虎竹と新しい籐できれいに巻き直し、修理させていただいたがです。
実家の納屋から全く同じ籠が!?
ところが、物語はここでは終わりません。お客様のチリ籠をお直ししてお届けした直後のことでした。なんと、ボクの実家の納屋を整理していたら全く同じデザイン、同じ作りの竹籠が出てきたのです!!「えぇっ!?」これにはボクも本当にびっくり!思わず声をあげてしまいました。50年ほど前のものですから、当時はこうした同じ型のチリ箱がたくさん生産され、多くのご家庭で親しまれていたのでしょうか。当家に出てきたものも、父なのか母なのか、はたまた祖父なのか、誰かが大切に使っていたものに違いありません。お客様から修理のご依頼をいただいた直後に、全く同じ籠が自分の実家の納屋から出てくるなんて、こんな奇跡のような事があるでしょうか。
50年の時を超えて職人技で復活
実家から出てきた籠も、やはり50年という長い歳月が経っていたため、口巻の籐が折れて傷んでいました。そこで、今回のご縁に感謝しながら、こちらも新しい籐を使って部分的に綺麗に手直しをいたしました。籐の色目が違いますので新品同様とはいきませんが、味わい深く、美しく生まれ変わりました。この籠は、よく観察してみると、三段のねじり編みや特徴的な籐巻きなど、当時の職人さんの細やかな手仕事が光っています。さらに面白いのが竹の色合いです。日の当たらない底の部分を覗いてみると、お客様の籠同様に50年前の青竹で作られた当時の青々とした色みが、うっすらとそのまま残っているのです。日の当たる外側は、半世紀の時を経て見事な美しい飴色へと変化しているのに対し、底には昔の面影が残っているとは、これぞまさに、竹細工とともに年をとる醍醐味、経年変色の美しさと言えます。

想いを繋ぎ、竹のある暮らしとともに
手直しが完了したこのチリ籠は、今ではボクの手元で元気に大活躍してくれています。竹籠というのは本当に息の長い製品です。高価だと感じられることもあるかもしれませんが、手直しをしながら寄り添えば、自分の年齢を重ねるとともに良い年を取っていき、まさに一生付き合っていくことができます。先週のお客様も、お父様が使われていた思い出の籠を、今度は娘さんが受け継いで使われていきます。そしてボクもまた、家族が使っていた籠を直し、末長く愛用していくのです。長い年月を経て、職人の手と使う人の手が巡り巡って繋がっていく、竹が地下茎で遠くの竹とも手を握りあっている姿に重なります。竹の仕事に就かせていただいて、本当に良かったと感じる瞬間です。これからも「竹のある暮らし」の素晴らしさを、皆さんにしっかりとお伝えしていきたいと思っています。
