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竹網代笠と流鏑馬笠、浪人笠の石膏型

流鏑馬笠、竹虎四代目(山岸義浩)


工場に残された流鏑馬笠

以前、惜しまれつつも仕事を辞められることになった、ある竹職人さんの工房を訪ねたことがありました。竹の工場は、長尺モノの材料を扱いますので広々とした所が多いのです。労働集約型でもある竹産業盛んだった頃には、数十人もの社員が働いていた工場だっただけに、誰もいなくなった作業場というのは余計に寒々しく感じます。色々な道具や材料が点在している中で、ボクの目に留まったのは、ポツンと置かれていた流鏑馬笠(やぶさめがさ)の下地編みでした。


流鏑馬笠


奇跡を起こす幻の笠

かつては、このような網代あ編みの笠が作られていたのだなあ、日本の伝統的な竹技は、やはり凄いものがあるのだと感じ入りました。けれど、時代の流れとともに職人が減り、今では製造する事もできなくなってしまった幻の笠でもありました。活気に満ちていた頃の面影を残す仕事場の片隅で、このまま誰にも知られず忘れ去られていくのかと思うと、胸が締め付けられるような寂しさがこみ上げてきます。こんな緻密な竹編みがあったことを、多くの方に知っていただける機会はないだろうか。そんな事も感じながら、最後に残された笠を頂いてくることにしたのでしたが、この時に、かすかに感じた想いが一つの小さな奇跡を起こすことになります。


竹網代笠


竹虎四代目愛用の国産網代笠

実は、ボクは随分前から昔に作られた国産の網代笠を愛用していました。これは流鏑馬笠などから比べると単純な三角形をした笠で、四国八十八カ所巡りのお遍路さんがよく被っている笠です。地元高知では、季節が良い頃でしたら一日に十数名もの遍路さんを見かけます。この網代笠は、南国の強い日差しをさえぎるスグレモノなので、多くの方が使っているものの国産竹笠など流通していませんから皆様が使っているのは全てが輸入の竹笠です。


そんな現状に、土佐人特有の反骨精神が少しだけ顔をのぞかせるのかも知れません。国産を被らないでどうするのか?そんな気持ちで長い間使っていましたが、やはり愛用しているうちには傷みもあるし、諸々考えて、この竹網代笠を復刻させていただくことにしたのです。素晴らしい腕前の職人さんにより、見事な竹網代笠が編みあがりました。ひとつひとつを丁寧に仕上げられていますので、製作には時間がかかりますが、お待ちいただけるお客様にだけおわけさせてもらっています。


浪人笠、竹虎四代目(山岸義浩)




流鏑馬笠と浪人笠

そんな網代笠復刻の流れの中で、難しい曲線を持った流鏑馬笠も出来あがる事になりました。正直なところ、今の時代にこのような特殊な笠を改めて製造したとしても、一体どなたの目に留まるのだろうか?そんな不安が少なからずありました。けれど、嬉しいことに全国には流鏑馬を熱心にされている方がやはりいらっしゃって、こうした貴重な国産の笠を強く求められている声があることも分かってきました。この流鏑馬笠は、柾(まさ)の竹ヒゴという、現代ではほとんど活用されなくなってしまった特殊なヒゴで編み上げられています。


そして、さらに、その復刻された網代笠をご覧になった方から、ご相談をいただいたのが浪人笠でした。浪人笠といえば、時代劇などでもお馴染みの、すっぽりと頭を覆う大きな笠です。サイズが大きく、形は富士山を思い起こすような優雅な形のため製造の難易度は跳ね上がりました。


流鏑馬型石膏型


曲線美を追求した石膏型

それでも、職人の超絶技巧により見本どおりの浪人笠が出来あがったのですが、では、これらの美しい曲線を持つ流鏑馬笠や浪人笠は、一体どうやって作られていると思いますか?網代笠のような木型の治具では、あの芸術的なカーブは表現できません。職人が辿り着いた答えは、なんと石膏型でした。まるで彫刻を作るかのように石膏で美しいフォルムの型をとり、あらかじめ作られたこの型に合わせ、細い竹ひごを一本ずつ丁寧に沿わせながら編み込んでいくことで、寸分違わぬ美しい網代笠を均一に作り上げることができます。


流鏑馬笠の石膏型


石膏型に残る職人の手編み

こちらの画像をよく見てみてください。白い石膏の表面に、うっすらと竹編みの跡が残っているのが分かりますでしょうか?これは、職人が型に合わせながら竹を編み込んできたかという創意工夫の証そのものです。手にしたときに感じる軽さ、風が通り抜ける心地よさ、そして何より、見る人を魅了する圧倒的な造形美。


浪人笠の型


工房の片隅に取り残され、泣いていた竹笠は、現代の竹人の情熱によって見事に生まれ変わりました。美しい日本の伝統を、これからも守り、次の世代へと繋いでいけるように、職人魂が宿る竹笠の魅力を、ぜひ一人でも多くの方に肌で感じていただけたら嬉しいです。





竹虎四代目

竹虎四代目
YOSHIHIRO YAMAGISHI

創業明治27年の老舗竹虎の四代目。100年守り続けた日本唯一の竹林を次の100年に繋ぐ。日本で二人だけの世界竹大使。

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