焼坂への道
今日はイギリスBBC放送も来たという日本唯一の虎斑竹(とらふだけ)の生産地、須崎市安和に虎竹の古里を訪ねてやって来ました。
峠の道から安和の里を見下ろすと、海水浴場としても有名な砂浜が見えます。 その向こうに迫る山々に広がる虎竹の林、太平洋を望めば双子島美しい海と山に囲まれた静かな谷間の地、ここ虎竹の里は神秘の竹ミラクルバンブーの成育地にふさわしくゆったりとした時間の流れる別天地のようです。
汽車は景色のよいJR安和駅に停まりました。一人二人...腰の曲がった乗り降りのお客さん、音もなく動き出す一両編成を眺めながら山道を下りました。
竹虎(株)山岸竹材店は国道56号線沿いにありました。周りにこれといった大きな建物も無い田舎ひときわ目立つ白い工場は車からでも直ぐ分かります。竹虎マークがまぶしい本社工場から手を振って出迎えてくれるのが竹虎四代目です。
竹虎四代目:
ええ?このマークですか?祖父の竹虎二代目義治がデザインしたがです。まあ、竹に虎でそのまんまですけんど(笑)
「竹虎四代目です。」サッと取り出した名刺入れが目をひきます。なんと虎竹製。初めてのお客様に虎竹を説明するのに重宝するとのこと。
竹虎四代目:
虎竹はガスバーナーで油ぬきをすると、綺麗な虎模様が浮かびあがるがです。
竹虎四代目:
わざわざ遠くから来られたがやったら、ちょっと虎斑竹の山へ行ってみますか?いや何ちゃあ、すっとです。ほらあこに見えゆうがが、ウチの竹林です。
その問いには応えずさっそうと歩き出す四代目。
竹虎四代目:
国道からこの道に入っていったら虎斑竹の古里、焼坂に登っていけるがです。
指さす道は、何処にでもありそうな川沿いの田舎道。数本の桜並木が見えます。
竹虎四代目:
花見はまだ早いけんど、もうかなり温いきね~山へ行ったらヘビがおるき足元には気を付けちょって下さい
なるほど納得、それで長靴。少し歩くと、こんな小さなあぜ道とサラサラ流れる小川がありました。
竹虎四代目:
小さい頃は、こんなくにもウナギがおったけんど…
虎竹の山への途中で選別作業をしている職人さんを見かけました。 土場や田んぼでは虎竹の選別作業が行われています、 虎竹は品質、太さ別に選り分けられ、束に結わえ直されて運ばれます。 竹は冬場にしか伐れないので保管され、一年分の材料として使われていくのです。 |
ちょっと寄り道しようと竹虎四代目。やって来たのは安和地蔵堂境内にある県指定天然記念物、樹齢500年の大ナギ。周囲かなんと3.4メートル、高さ25メートルの巨木です。
竹虎四代目:
通っていた小学校はすぐ近くにあったき、ようここでも遊んだちや。
この大木、ナギはマメ科の常緑樹で暖地に自生するのですが、その葉は狭い楕円形で竹の葉に似ているのが特徴だそうです。すごい、やはりここは竹の里!
西洋タンポポが多い中、在来種の日本タンポポが沢山咲いてます。さすが安和の里。
目指す焼坂峠は遙かあの山の頂きです。穏やかな春の日、絶好の山歩き日和ですが少しばかり遠いような気がして
「あのー四代目、道が...」
すると間髪入れず
竹虎四代目:
いや、舗装もしちゃあせん山道ですが、年に一度は大掛かりな手入れもするきホントきれいな道ながです。虎斑竹を山出しするがには無くてはならん大切な道ですき。
虎竹の古里焼坂への道は、お遍路さんの道でもあります。こんな標識が所々にあります。登り口すぐにある、山仕事を見守ってくれるお地蔵さん。四代目も通るたびに挨拶するそう。
道沿いには竹林が広がります。もちろん虎竹だそうです。
安和天満宮西辺守護と書かれたお札を竹にはさんで立ててます。要するに此のあたりは安和でも西の端という事です。
そうそう、紹介が遅くなりましたが、
虎竹林に行くときはいつも一緒です。焼坂の頂上まで登ると往復十数キロの道のりですが元気に走り回ってます。 「夏の暑い日でも途中3カ所に水飲み場があり快適なんです。」 たまにイノシシの子供やタヌキを追いかけて行方不明になること有り。 |
ヤマモモの大木が3本ならんで風にゆられています。
竹虎四代目:
今思うたら子供の頃は山の幸をいっぱい受けちょったですね。こんな木に登ってヤマモモを嫌というばあ食べよったです。あと、アケビとかビワ。ビワいうても野生の実が丸いビワ。服がびしょびしょになるばあ食べました。焼坂の峠にも野生のミカンの木があります。
因みに四代目、山鳥を捕って食べたり山芋掘ったり昔は結構野生児だったとの事。特に小学4年生の冬は朝から晩まで山の中で過ごしたそうで刃物の使い方はこの頃教わったそうです。
竹虎四代目:
左手には、その頃の傷跡が数カ所残っちゅうですよ、僕も体で覚えた方やき。そうですね、前は近くにアーチェリー場があってそれに触発されて、小さい頃の夢は自分くの工場でもろうて来た竹で作った弓矢でイノシシを倒す事やったですき。
「..................。」
かってはこんな獣道の様な細い道しかなかったかと思うと交通の難所と言われていたのが納得できます。しかし、こんな人の往来の難儀な土地ゆえに安和の虎竹は広く知られる事なく、結果的に全国唯一の産地としての今日がある訳です。
竹虎四代目:
あそこから登ってきたがです。
ふもとの集落が小さく見えます。ゴンは水飲み場で遊んだり脇道に逸れたりしながらも、離れる事無くついてきます。
竹虎四代目:
伐採した虎竹を道まで滑り落しゆうがです。
そういえば山の登り口に竹が落ちてくる旨の注意書きがありました。この時期の焼坂ではごく普通の光景です。
竹虎四代目:
この上に職人が居ますき、ちょっと行ってみましょう!
登っていくと広い竹林から伐りだした竹を少しづつ集めながら下の道路まで滑らしている山出し作業の現場がありました。 伐りだし作業をしてた古谷宏彰さんは山の職人としてはバリバリの若手との事。 竹虎四代目: 宏彰さんは腕のいい竹の矯め職人でもあるがです、 お父さんも名人級の腕前やったです。 |
伐り倒した虎竹の枝打ち作業。
手際の良さに見とれます。 古谷さん: まあ、この時期は朝から晩までこんな事ばっかりしゆうきねえ。 枝打ちされた小枝は後で集められ竹虎の工場で袖垣の材料等に使われます。竹皮から枝まで捨てる所のない有効利用に感心しました。 竹林から伐りだした竹は結わえて積み込まれています。 |
竹虎四代目: こういった場所にも山出しの虎竹が積み込まれます、 だいたい2トン車一台分ばあ出てきたら ウチがトラックで積みに来ます。 道路脇に渡れた丸太の上で重たい竹を扱うのは非常な重労働です。 竹虎四代目: 竹屋は夏やせじゃのうて、 仕入れに忙しい寒い時期に冬やせするがです。 |
安和の里を一望できる、この場所は四代目とゴンがお気に入りの場所との事。四代目が何やらゴソゴソとやり始めました。竹の里ならではの美味しいコーヒーをご馳走してくれるそうです、しかし四代目ノコギリを持って歩いて行きます。 竹虎四代目: ちょっと準備があるき、自社の竹林へ戻ります 訳が分からないですが、とりあえず付いていくことに…。 |
タキシードの上着に何とナタを隠していた四代目。おもむろに選んだ若竹を伐りだす四代目。どうするんだ!?そして 谷川の水で何してる!?
近くの山をゆっくり見回すと、春の訪れを告げる花々 が沢山咲いているのに気がつきました。忙しい日常は何なんだろうと自問自答する一瞬です。 |
なるほど、さっきの若竹はコーヒーカップの替わりに使うんですね。
どこからか虎竹縁台と虎竹盛り篭も飛び出してお茶菓子と一緒にハイ出来上がり!竹の里ならではの竹コーヒー!
竹虎四代目:
美味い!この景色に竹のコーヒー何とも言えんです!
美味しいコーヒーの秘密は安和の自然もさることながら四代目持参のポットにいつも入っている土窯作りの最高級竹炭との事。 竹虎四代目: 最高級竹炭は、昔ながらの炭焼き窯を改良し原料の竹炭を800~1200℃まで温度を上げて炭化した白炭形式の竹炭ながです。白炭の竹炭は工業用の鉄製炉や黒炭用の土窯で出来た竹炭とは、硬度、比重、精錬度などの点において全く違った竹炭です…。 熱い語りにこだわりを感じます。 |
これが、こだわりの土窯づくりの最高級竹炭「お酒の味もコロッと変わったりするがです」出された土佐鶴。
しかし本当にふもとから山頂まで竹が多いです。しかも、全部虎斑竹です。
またまたお遍路さんの標識。この遍路道は一段と細く険しい道の様でした。
竹虎四代目:
何か最近、雑誌に載ったらしゅうてトレッキングシューズを履いて昔ながらの道を行く方も良く見るがですが、なかなかこの道やと大変ですね。
慣れない山道に疲れが出てきました。道の両脇の沢山の虎竹と四代目、愛犬ゴンに励まされて、いざ峠へ。
“虎竹の古里、焼坂への道”目的地、峠のお遍路さんの標識。たまたま通りかかったお遍路さんもパチリ。
お遍路さん:
いやー、竹の多い山やなーと思うて登って来たけど全国でも珍しい竹とは知りませんでした
竹虎四代目:
ここから見ても、この焼坂の山頂を境にして向こう側は極端に竹が少うのなってます。もちろん、虎竹は無いです。
峠より久礼側の山を見下ろして説明する四代目。わざわざ登って来た甲斐があり、虎斑竹は本当に不思議な竹というのが良く分かりました。 |
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