冬場に伐採した虎竹の入荷も終わり、工場内の整理も終わって、虎竹を製品として製竹する油抜き作業が本格化しました。竹は油分の多い植物なので、余分な油抜きをする事で耐久性の向上、竹表皮の汚れ落としやツヤだしの効果が出ます。油抜きによって表面についた汚れを取り除き、綺麗な虎竹独特の虎模様がでてくるのです。
油抜きをしたあとの綺麗な虎竹がそのまま山に生えていると思っていたという人がいて驚いたことがありますが、こちらがわかっていて当たり前と思っていことも、人によっては当たり前ではなく、説明をしっかりしていかないとわかってもらえてないことがまだまだあるように思います。
青物細工のように油抜きをしないで、そのままの竹を使って作るものもありますが、虎竹はすべての竹をまずバーナーの火であぶり、綺麗に油抜きをしてから加工に入ります。建築材料や袖垣などに使用する虎竹は、油抜きと同時に矯め作業を行って真っ直ぐにしていきます。真っ直ぐに立っているイメージの竹ですが、倒してみると結構曲がりがあり、使いにくいためです。
竹はタケノコから3ヶ月で親竹と同じ大きさになり、3年ほどかけて身をつけて固くなっていきます。生え始めの頃は、大きさが大きくてもまだしっかりと身が入っておらす、触るとなんとなく柔らかいように感じます。そんなものが細く、高く立っているので、どうしても風や他の竹などの影響を受け、曲がりがでてしまいます。
虎竹よりも柔らかく、身の薄い黒竹は風などの影響をより受けやすいのか、曲がりの大きいものが多いです。また油抜きをする際に出る油も、虎竹よりも黒竹の油は粘り感があり、重いと感じます。その分しっかり、上手に炙らないと綺麗にふき取りができません。その上、身が薄いために炙りすぎると中の空気が膨張して破裂するリスクも大きいのです。
実際に扱っていると、見た目以上に竹によって性質の違いがあることを実感します。同じ種類の竹でも、乾燥度合いや身の厚さ、強度、粘りなど、それぞれが違うものと感じます。それをしっかり分かったうえで、質感や色や持った時の感じなどでその竹を理解し、それに応じた熱の入れ方や矯め方をして行く必要があります。
わからずやっていれば竹を破裂させたり、折ってしまうことになります。ある程度は仕方ない部分もありますが、それを減らすには失敗の原因や成功の原因をいつも考え、1本1本の竹と真剣に向き合うことです。伐採から油抜き、そして加工の繰り返しをやっている竹虎工場の職人たちは誰よりも虎竹を知っているはずです。それをしっかり自覚し、誇りをもって、日本唯一の虎竹に負けない仕事をしていかねばと思うのです。
虎竹の伐採も1月で終わり、山から運び出された竹が虎竹の里に降りてきています。切り子さんがトラックの入れる道まで運搬機で運び出し、それをトラックに積み込んで土場まで運び出し、それを大きさや色などで1本1本選別して規格ごとに分け、規格ごとに決められた値段で買い取るというのが虎竹の買い取り方法です。その買い取りを虎竹の里では受け取りと呼んでいます。
一般的に黒竹や破竹などの竹は大きさによって1束に入れる本数が決められており、その本数で山で束にし、その束ごとの値段で竹を買い取っています。2トントラックに乗る束数はおよそ100~130束ほどで、その束数に応じて買い取りの金額が決まります。
しかし虎竹は1本1本を見て、25通りの規格に分けての買い取りです。2トントラックに乗る本数は大きさにもよりますが、1300~1600本ほどです。それをすべて色や大きさや傷や竹の良し悪しによって選別するだけでも、他の竹とは手間が大きく違います。こんな仕入れ方法を取っている竹は虎竹だけでしょうし、こういう作業をしているのも虎竹の里しかないと思います。
仕入れの際の選別は自分がやるので、毎年出てくる数万本の虎竹のすべてを見ていることになります。出てくる山や伐り出してくる職人さんよって虎竹は微妙に違ってきます。選別も職人さんのクセや技量によって特徴的に違いがでます。それらもすべて理解していないとスムーズに、正確な受け取りはできません。
切り子さんは山での虎竹を一番知っています。竹細工職人さんは油抜き後の虎竹を割ったり剥いだり編んだりして、よく知っています。逆に言えば、切り子さんは伐って出した後の竹を、竹細工職人さんたちは山での虎竹を知りません。その両方をよく知っているはずの自分たちが両方の橋渡しをしっかりやって、より良い虎竹を提供できるよう、もっと虎竹を知っていく必要があると思うのです。
8年前にお買い上げいただいた白竹八ツ目バスケットの縁を巻いていた籐が切れたとのことで、修理に帰ってきました。8年も使ってもらっていると、竹も持ち手の籐もいい色になってきています。新しく巻き直すと、どうしても色が違ってしまいますが、これはこれで味のある籠になるのではないでしょうか。
籐は強い素材とはいえ、長年使っている間に擦れたり、当たったり、乾燥し過ぎたりして切れてしまうということはよくあることです。今回も擦れによって切れたのではないかと思われる切れ方で、数ヶ所も切れていたので、部分修理ではなく縁全部を巻き直すことにしました。
同じサイズの籐が無かったため、少し幅の広い籐の幅取りから始めます。籐は竹に比べると格段に柔らかい素材なので、竹と同じように幅を取っていると幅取りの刃が籐に食い込み、切れてしまったり、うまく幅を揃えることができません。
刃が食い込まないようにいつもより幅取りの刃の角度を立て、一度でその幅に合わせるのではなく、少しずつ幅を取って行きます。そうやって幅を揃えた籐でやっと巻き始めます。
藤巻きは籠の縁を巻いて止めたり、角の補強に使ったり、実用的な部分と併せて、巻き方や飾り方によって装飾にも使え、大変便利で面白い作業です。また仕上げで使うことが多いため、使う籐の質や巻き方、仕上げ方によって、その籠の見栄えや出来を左右する大事な作業でもあります。
今回は簡単な巻き方ですが、それでも籐を水に浸けておいて柔らかくしてから、要所要所を引き締めながら緩まないよう締めていきます。気を遣うのは締め方と、籐の継ぎ部分くらいです、籐巻きによって縁部分がギュッと締まった籠は、それだけで籠が引き締まって見えるのです。
虎竹の伐採時期も終わり、あとは伐り倒した虎竹の枝を払ったり、運び出し作業のみとなりました。短い冬の間だけの伐採時期で1年分の材料を確保しなければなりません。竹虎所有の竹林もありますが、山主さんにお願いをして虎竹を伐らせてもらっている山も数ヶ所あります。
切り子さんと呼ばれる虎竹専門の伐採職人さんたちが伐り出して来てくれる山もありますが、自分たちで山に入って伐採をしている山もあります。どちらも山主さんから虎竹を買い取る形で、大きさや色によって細かく分けられた値段で虎竹の買い取りをしています。
山も宅地と同じように細かく所有者が分かれています。自分が知っている境で多いのは谷であったり、目印の木が植えられてあったりすることが多いです。竹虎所有の山も片方は谷、もう片方は杉が真っすぐに植えられいる部分があり、それが隣との境界とされています。
谷のほうはわかりやすいのですが、杉林の中での境界の杉を知っている人はもう多くは残っていません。山に入っているからこそ知ってはいますが、山に入らない人には境界がわからない人も多いようです。
この山は竹林の中に境界があり、分かりづらいからかこのような境の杭が打たれています。竹林の中の境はそこだけ木が植えられていたりしており、このような杭を見るのは本当に珍しいです。これが境かなと思える木はありますが、そもそもそれを知らないと境がわかりません。
昔は山に入っていた方の子どもさんやお孫さんのほとんどは、今は山に入らず、境さえ知らないことが多く、竹を伐りたくても所有者が曖昧な場合は伐ることもできないので、こういうはっきりとした境の目印は大変ありがたいと思っています。
こうやってしっかり境も分かり、所有者も分かれば、その方の代わりに山を管理させてもらいながら、この場所の虎竹を守っていくことができます。なんてことないただの杭ですが、これが立っているだけで山主さんの山への愛着や山を大事にされている感じが伝わってきて、それだけで杭の立っている山は好きなのです。
平年より5日、去年より26日早く高知県が梅雨入りしました。そういえば去年は梅雨入りが遅く、明けるのも遅かった分、夏が長く秋が短かったような記憶があります。梅雨という時期は正直あまり好きではありませんが、1年の中でも大変印象深い時期ではあります。
梅雨時は2年前の西日本豪雨が記憶に新しいように、水害の多い時期でもあります。雨が続き、川の水量が多い時にまとまって雨が降ると、川の氾濫が起きやすくなります。消防団に所属しているのでこの時期に激しい雨が続くときには、いつも須崎市を流れる新荘川の水位をネットで確認し、水防団待機水位まであとどれくらいかを確認したり、虎竹の里を流れる川の氾濫しやすい場所を見て回ることが日課となります。
そして湿気の多いこの時期に一番気になるのが、竹材のカビです。竹はもともと水分を持っていますし、湿気も吸いやすいように思います。カビの生えやすい商品にはいつも気を配っています。梅雨時の晴れ間にはこうやって、まだ乾燥しきっていない踏み竹などは天日干ししています。
竹の害にはカビと虫がありますが、それでもいつも使っていると早期発見できて、対処することが可能です。カビはすぐ拭けば取れますし、虫は熱湯消毒してもらえれば小さな穴が開くだけで、使用には全く問題ありません。竹製品はいつもそばに置いて、使ってもらうことが長く使っていける秘訣だと思うのです。
日本唯一の虎斑竹の葉をお茶にするための竹の葉摘みが竹虎工場内で行われています。毎朝出勤すると、事務所のパソコンを立ち上げ、ブラインドを開けてから神棚に手を合わせます。そのあと竹虎工場を開けるために工場内に入るのですが、最近の工場内は空気が違います。
山に入った時や竹の伐採時に竹葉の香りは嗅ぎますし、自分にとってはそう珍しい香りではないのですが、伐り出されたばかりの虎竹葉がトラックいっぱいに積み込まれた工場内は虎竹葉の香りが充満しているのです。
晴れた日には事務所から工場に入った途端、工場の上部の光取りから注ぐ朝日の光に照らされた青々とした葉っぱの色と、その虎竹の葉の濃い香りに毎回なんともいえない気持ちよさと感動が味わえます。やはり竹は山に生えているときが一番きれいだと思うし、葉の香りも自然の香りに勝るものはないと感じます。
この香りを少しでもお茶にしてお伝えできればいいなと願うと共に、工場を開ける前の竹の葉の充満した香りが毎朝の楽しみになっているのです。
竹の伐採時期は秋から冬にかけてとされており、今は伐採の時期ではありませんが、虎竹茶用の虎竹の葉っぱを取るために竹林の整理を兼ねての伐採をしています。
温暖化の影響とも言われていますが、竹林の色付きの悪い虎竹の割合が多くなってきています。虎斑竹特有の模様が出てはいますが、ほんの一部であったり、薄くしか出ていないものなど虎斑竹として使えないような竹を選んでの伐採です。竹を間引き、竹と竹の間隔を開けて太陽光をしっかり竹林にいれてあげることは虎斑竹の色付きにはとてもいいことです。
それと同時に立ち枯れている竹や雑草や小さな木を整理していきます。竹は成長力が非常に強いので、タケノコから3ヵ月で親竹と同じ大きさに成長します。でもその成長段階で立ち枯れの竹や小さな木と接触すると、それが竹の傷になります。荒れた山ではせっかく綺麗な色が付いている竹に立ち枯れ竹に擦ったと思われる傷があるのを見かけて残念に思うことがよくあります。
竹の色付きのためにも、傷防止のためにも山の整理は大変重要なことですし、次の伐採時に山に入りやすくしておくということも重要です。この取ってきたばかりの青々とした虎竹の葉っぱを今度は手摘みで取っていきます。おいしい虎竹茶になればいいなと作業をしながら楽しみに思うのです。
竹虎工場の仕事は3K の部類に入り、今の若い方には敬遠されがちな職種であるという人がいます。「きつい」「きたない」「きけん」のローマ字の頭文字を取っているのですが、幸いなことに自分はそう思ったことが入社した当時から一度もありません。
山での竹の積み下ろしや、真夏の暑い中での火を使った油抜きなどしんどいと思ったことはあるのですが、肉体労働はしんどいですし、夏の工場内で火を使えば暑いのは当たり前のことで、それを黙々とこなしている先輩職人さんをいつも見てきたからです。しんどいのは自分が弱いからだといつも思って仕事をしてきました。
とはいえ、その感覚は人それぞれですし、今の若い人には尚更わからないことのようにも思います。最近は山に入ることが多くなり、しばらく入らなかった山の整理も多くなりました。若い職人たちにはその作業が大変だとしか感じていないようです。これでは能率も上るわけがありませんし、やりがいや楽しさをもっと伝えていかなければと思っています。
確かに急斜面の山に入り、まだまだ暑さの残る時期に蚊などの虫に悩まされながら下草を刈ったり枯れた竹を切り倒していく作業は大変です。でも綺麗になった山を見るのは達成感がありますし、また来年以降のその山からどんな竹が生えてくるのか考えれば、大変なほど楽しみと期待も大きいのです。
工場での仕事は朝から同じ仕事を黙々とこなしていくことも多いです。その中でいつも言っていることは時間を物差しにして欲しいということです。綺麗に良いものを作るのは職人として当たり前ですが、自分の上達が一番わかりやすいものが時間だからです。
作業の内容によりますが、自分は決められた作業ではいつも時間との戦いをして、勝った負けたと一喜一憂しながら毎日の仕事をしていました。誰よりも早く、うまくという目標だけがその時の楽しみだったように思います。
そういう風に考えると楽しいよと若い職人に何度となく伝えては来
ましたが、なかなか伝わっていないようです。人それぞれ考え方も違いますし、楽しみ方も違います。まだまだ伝え方が悪いのかも知れまん。
でもこうやって炭の選別をずっとやる作業の中でも、時間との戦いや、選別の精度を上げることや、お客様のところに届いてしっかり調湿や匂いを取ってくれるか、喜んでもらえるか、など考えることはたくさんあり、その中で楽しみを何か見つけて喜んで仕事ができればずっと成長できるし、本人も楽しく仕事ができると思うのです。
虎竹買い物かごの巻き縁用ヒゴを取りました。籠の縁部分の仕舞にはピクニックバスケットのような釘止め当て縁や当て縁など、いろいろな方法がありますが、竹ヒゴや籐を巻き付けて仕舞うのを巻き縁と呼びます。巻き縁にも普通の巻き縁や返し巻き縁、透かし巻き縁、千段巻き縁など、いろいろな方法の巻き縁仕舞があります。
巻き縁はただ竹を巻き付けるだけの単純な手法だと思われがちです。しかし美しく巻くには竹ひごの厚さや幅のバランス、巻き回数など、しっかりと合わせていく必要があり、また巻き竹の節の部分が角に来てしまうと折れやすくなってしまうなど、自分には非常に難しいと感じる方法です。
虎竹はハチクの一種であるため、割り剥ぎはし易いのですが、真竹に比べると固い性質なので、できるだけ柔らかそうな竹を選んで巻き縁の材料とします。柔らかそうな竹の判断基準は明確ではありませんが、模様や質感など、虎竹を扱っている者であれば経験である程度はわかります。
その竹を割り剥ぎし、幅を揃えて面取りした後にうらすきで厚みを揃えていきます。銑台と呼ばれる台座に刃物を取り付け、その下に薄く剥いだ竹を挟み込みます。その竹の厚みがこれから取るヒゴの厚みになるように刃物を食い込ませながら、銑台と刃物の隙間を調整してからヒゴの裏側を削り取って厚みを揃えます。
竹細工の刃物は切り出しナイフ以外は一般的に切れすぎはよくないとされています。あまり切れすぎると刃先が竹に食い込んでヒゴが切れてしまうこともあるからです。うらすき銑の刃物も同様で、少しだけ切れにくくしてあるので、立てる刃物の角度で切れ味を調整しています。
しかしこのうらすき作業だけでは微妙な厚さ加減が出しにくく、最後は竹割り包丁や切り出しナイフで裏をしごきながら厚さを調整しないと自分では最適なヒゴ作りが出来ません。作ろうとする籠に最適なヒゴを取る難しさと大切さを改めて感じたうらすきとなりました。
昨秋から始まった虎竹の伐採も伐採期限の1月までで終わりました。それまでに倒していた虎竹の枝を払い、山から降ろして来る作業もそろそろ終わりです。
この山は切り子さんに伐ってもらっている山なのですが、竹を運び出す運搬機が故障してしまい、少し時間がかかっているようです。とはいえ、山の中でこうして倒している分には日差しで竹が焼けることも少なく、品質的には全く問題はありません。
自分たちで伐った虎竹はもう山から運び出し、竹虎工場内で各サイズに切断し、工場内に立てかけられています。これからは油抜きや矯正作業をして虎竹の製品にしていきます。
思うような色付きの竹が少なかったり、大きさもまちまちで欲しいサイズの竹ばかりというわけにもいきませんが、そこは自然を相手にしている仕事なので仕方のないことです。こうして苦労して山から運び出してきた竹を、これからは大事に、上手に生かしていく作業に入っていくのです。