お百度串

お百度,串


お百度参りとは、内容が藁をもすがりたいというような切実な場合が多く、一度の参拝でなく何度も参拝することで、その願いが成就するようにと願う方が参拝する方法の一つだそうです。


昔は願いを叶えるために同じ社寺や神社などに百日間、参拝するもとされていたようですが、百日間通うことの困難さや、その願いを一日でも早く叶えたいという思いもあり、現在では1つの場所で参道から本殿までを続けて百回お参りする事も多いようです。


そのお参りする回数を数えるのではなく、数を間違えないようにするのと、想いを集中できるようにと、こよりや一円玉や竹串を持って、それを置き、回数がわかるようにするようです。先日、お百度参り用に指定のサイズで竹串を作れませんかというお問い合せを頂きました。


竹を指定のサイズにカットし、指定の幅に割るだけの簡単なものではあるのですが、その竹串の意味の重さを思うと、お金を頂き、作製することに少し躊躇しましたが、お役に立たせていただきたいという想いから、作らせていただくことにしました。


どんな商品でもそうなのですが、物を作るときにはいつも使っていただく人の満足感や笑顔、そして使い勝手や耐久性などを考えながら製作しています。しかし今回の製作はいつもとは少し違います。自分には計り知れませんが、お百度参りをされるほどのお客様の願いがどうか叶いますようにと、願いながらの製作になったのです。

えびら用の杉板

えびら用の杉板


梅雨真っ只中の高知県須崎市安和の虎竹の里ですが、梅雨明けの梅の土用干しに使うえびらの製造に追われています。土用干しとは夏の土用の時期に衣類などを干して虫やカビを防ぐ虫干しや、田んぼの水を抜いて稲に強い根を張らせるといったことも土用干しと呼ばれ、どれも昔からの先人の知恵と言えるでしょう。


梅の土用干しとは6月頃に採れた梅を塩漬けにしておき、それを三日ほど天日に干すことを言います。太陽の紫外線で微生物などを殺菌し、梅の水分量も減らし、それによって梅の保存性を高めることができるようです。


その梅の土用干しになくてはならないざるの一つがえびらです。竹ヒゴを網代に編み、それに杉の枠を取り付けた平かごで、使う場所や梅の量によって二種類の大きさがあります。またその杉の枠には穴があけてあり、それに紐を通してベランダなどに吊るすこともできる便利な平かごとなっています。


そのえびらに使う杉板を梅雨の晴れ間に製材所から取ってきて、干しました。この杉板もどんなものでもよいのではなく、できるだけ節が少なく、白いものを選別して取って来ています。節があると杉板を引くときにその部分で微妙に曲がったり、節が取れて穴があいてしまったりする場合があるためです。


えびら用の杉板


杉の木の色は木の芯の部分に近い赤身と、外側の色の薄い白身とに分かれています。色の薄い白身のほうが最初のうちは綺麗に見えて清潔感があるため、できるだけ白身に近いものを選んでいますが、そういう杉材は少なく、赤身の混じったものや、赤身の杉材も混ぜています。


こう言うと赤身の杉材が良くないように思われる方もいるかもしれませんが、実は赤身の方が水に強く、虫やカビに強いという特徴があり、神社やお寺などでは赤身の杉材を好んで使っていたという話もあります。


竹も種類によってや、個体によって、強さや固さが違いますが、木も種類やどの部分かによって、性質や特徴が違っているようです。それぞれの特長を知って、自然素材ならではの一つ一つ違う風合いや、経年変化を楽しんでいただけたらと思うのです。

竹磨き

竹 加工 磨き


竹を磨くと聞くと、竹の表面汚れを米ぬかや濡れたスポンジやタオルなどでこすって汚れを取り、少しでも青々とした竹に見えるように綺麗にすることを連想される方が多いのではないでしょうか。虎竹や黒竹をガスバーナーで炙って、油抜きし、表面の汚れを綺麗に拭き取ることも、ある意味磨くと呼べるのかもしれません。


しかし竹細工では竹磨きというと、磨き包丁という特殊な曲線のある刃物で、竹の表面の皮を薄く剥ぐことをいいます。竹を染色する場合など、表皮が残っていると、色が染まりにくく、綺麗に染められないために、染色をする籠はあらかじめ表皮を剥いだ竹でヒゴを作って編んでいきます。


また染色しない籠でも油抜きをせず、真竹磨き手提げ籠のように青竹のまま使う場合にも、表皮を剥いで磨きをかけることによって、竹表面を綺麗にし、美しいヒゴにしていく場合もあります。この籠はヒゴの綺麗さもありますが、時間が経つにつれてあめ色に変わっていく変化を楽しめる籠ともなっています。


虎斑竹のように、表面にあらわれる美しい模様や独特の艶の美しさもありますが、この磨きの籠のように、竹本来の美しさや自然素材ならではの経年変化を楽しむことも、竹という素材の魅力だと思うのです。

ベルトサンダー

若い竹職人


ベルトサンダーはキャタピラーのようにつながれたサンドペーパーを回すことで研磨を行う機械ですが、竹虎では主に竹皮スリッパの底部分のEVAスポンジの研磨やの研磨、また縁台や黒竹すのこに使う黒竹のカット部分の面取りなどに使用しています。


その他にもいろんなものの切断面や割り面を綺麗に研磨したり、角い角を丸く整えたりと竹虎工場内にある機械の中では無くては困る非常に大事な役割をしてくれている機械です。


でも機械と言っても、電動のこぎりのようにそれを使えば綺麗に早く切れるというような簡単なものではなく、ベルトサンダーは結局それを使う人の技量が重要です。ベルトに竹を押し付けて削っても、少しの力の入れようで削りすぎたり、歪んでしまったりしてしまいます。


少し前から若い職人に箸を削ってもらっています。荒めのサンドペ―パーと細かいサンドペーパーを使い分けながら、100膳なら100膳を同じ規格で、できるだけ綺麗に、出来るだけ早く作るためにどうすればいいのか、試行錯誤の毎日です。

竹灯篭用の孟宗竹

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以前に竹灯篭用に大きな竹が欲しいとの問い合わせがありました。直径が10cm以上の竹というと日本で最大の竹の孟宗竹くらいしかなく、孟宗竹をお勧めしていましたが、まだ伐採の時期ではなく、お客様に待っていただいていました。


竹を切る時期は竹の種類によって違いますが、秋から冬にかけての時期が伐採時期とされています。その時期は竹が水分をあまり持ってなく、変色や虫が入りにくいと言われています。伐採の時期に入り、孟宗竹を伐採し、入荷してきた竹からお客様の希望に近い物を選別し、油抜きをしました。


このお客様が作る竹灯篭は1本の竹に足をつけて立て、竹に大小の穴をいくつも開けて、中から照明を照らして模様を見せるというような竹灯篭のようでした。


直径10cm以上、長さは1m、厚み1cm以下で両端に節の来ない竹で、できるだけ節が少なく、キズなどのない綺麗な竹というご希望でしたが、たった1本の竹の、それもこんな細かい希望のある注文を受けてもらえるのだろうか?というのが最初のお問い合せでした。


考えてみれば、中国産の黒竹や白竹などはホームセンターなどでたまに見かけたりもしますが、都会に住んでいる人が孟宗竹をどこで買ったらいいのかさえわからないと思います。そんな中、竹虎を見つけていただき、お問い合せをいただけたということは大変ありがたいことです。


日本唯一の虎斑竹はもちろんここにしかありませんが、日本全国どこにでもあると思い込んでいる孟宗竹も、実際に買うとなるとなかなか買う場所がないというのが現状のようです。そんな竹をお客様のご希望に添って、できるだけご用意させていただくことも、竹虎の使命のように思うのです。

ステファンさんの竹家具

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昨年の2月にストックホルム国際見本市にドイツ人、ステファン・ディーツさんがデザインをした竹家具を出品しました。ジャパンクリエイティブさんの紹介で、2度もこの虎竹の里に足を運ばれて、竹でできることと、できないことを説明しながら、試行錯誤しながらステファンさんの想いを形にしたことでした。


孟宗竹の青竹で作り、足は組み立て式にしました。組み立てと言っても竹を削り、本体に巻きつけるだけの簡単な仕組みなのですが、足が開かないようにロープで繋ぎ、そのロープをステファンさんならではの方法で締め上げる方法が独特で、それをその場で思いつき、自分でやってみせてくれたことが印象深く残っています。


そのステファンさんの依頼で、再度竹の家具を作ることになりました。青竹で作ることによって、竹本来の汚れや変色、またカビや虫害など、課題はたくさんありますが、今回も青竹で作ってほしいとの要望でした。


今回もジャパンクリエイティブの事務局の方がわざわざ虎竹の里に来てくださって、いろいろと打ちあわせをしたのですが、虎竹の里に初めて来られた方がいて、竹林に案内しました。その前に竹虎工場を案内したのですが、工場内の油抜きをした虎竹を見られた時よりも、竹林の虎竹の美しさにすごく感動されていました。


ステファンさんもこの竹林を見て感動し、そのままの竹の美しさや空気感を出したかったからこそ、課題がたくさんあっても、そのままの青竹にこだわったんだと思うよという話を聞いて、あーなるほどと腑に落ちたところがありました。


油抜きし、製竹した虎竹を虎竹と呼び、それを当たり前のように製品として出荷していますが、普段見慣れた竹林の美しさや、空気感をもっと出せないか?そんなことを考えた竹家具作りとなりました。

矯めるということ

竹を矯める


竹は立っている時は真っ直ぐに伸びているイメージがあると思いますが、伐り倒して見てみると、曲がっている竹が多い事に気づかされます。竹は筍の状態から生えてきて、たった3ヶ月で大人の大きさに成長します。しかし大人の大きさに成長しても、身はまだ柔らかく、2~3年をかけて固く成長し、虎竹のような色の付く竹は少しずつ色がついてくるのです。その柔らかい時期に風に吹かれたり、隣の竹や木に邪魔をされたりしながら曲がってくると自分は考えています。


その曲がったままの竹では内装材や細工物に使うのに、使いづらいので、油抜きをしながら、その熱を利用して竹を真っ直ぐにすることを矯めると呼んでいます。固く大きく、厚みのある木の板に、竹に合わせていろいろな大きさの穴を開け、その穴に竹を差し込んで、曲がった部分を矯正していくのです。節の部分を起点に、曲がりとは逆の方向に曲げて、熱によって柔らかくなった竹の繊維を伸ばしていきます。そのことを竹虎では「ころす」と呼んでいます。しっかり曲げてその部分をころしておくことで、竹の熱が冷めても竹が元の曲がりに戻らないようになります。


1本の竹の中にあるたくさんの節のその1節1節、その竹の曲がった部分と方向を見極め、的確に曲げてころしていくことには経験が必要になってきます。竹虎でも今では自分ともう一人の職人しかできない仕事なので、最近になって若い職人に覚えてもらうことにしました。曲がっている竹を真っ直ぐにするということは、なんとなく分かるようなのですが、どこをどのように、どの方向に、どれくらいの強さで押していけばいいのかが、まだわからないようです。またその押し方は竹への熱の入れ方の具合や、その竹の性質によっても微妙に違ってきます。


また竹によっては同じ方向に曲がっているものばかりではなく、捻じれているものや、あちこちに曲がっているものも少なくありません。それを見て、押すべきところだけを的確に押して、ころしておき、竹が冷めてから、真っ直ぐに仕上げていきます。前にいる人がバーナーで油抜きをして、熱を加えた竹をどんどん後ろに流してきます。それをどんどん捌いていかなければなりません。熱の入った竹をしっかりころして置いておき、冷めたころに真っ直ぐに仕上げていきます。真っ直ぐにする技術も必要ですが、同時に早さも必要です。遅ければ矯めかけの竹がどんどん自分のところに溜まってきてしまいます。


職人というのは綺麗にうまくやることは当然ですが、速くやるということがコストを抑える面でも非常に大切です。捌けなくてどんどん溜まっていく竹は自分の技量不足でしかありません。隣の職人がどんどん捌いていってるのに自分のところはどんどん溜まっていくことは自分の技量不足を思い知るいい機会です。私もやり始めたころは、なかなかうまくいかず、どうやったらいいのかわからず、どんどん溜まっていく竹に苛立ちながら仕事をしていた時期がかなり長い時間あったことでした。それが少しずつ分かってきて、少しずつ早くなり、なんとか人並みに捌けるようになりました。


「百聞は一見にしかず」という言葉がありますが、その後には、「百見は一考にしかず」、「百考は一行にしかず」、「百行は一果にしかず」と続きます。自分たちの仕事は見て知っているだけでなく、その後考え、行動し、成果を出してこそ本物になります。今まではなんとなく見て知っているつもりの矯めるという作業を実際にやることによって、その難しさや技術を理解し、竹が1本1本違うことを肌で感じ、そして成果を出してこそ、本当の意味で矯めるということを知っていると言えるように思います。


いつになるのかわかりませんが、この若い職人が矯めるということを本当にわかってくれて、竹というものをまた一つ知り、わかってくれるのを期待しています。と、同時にそういう自分はどれだけわかっているのだろうか、竹という素材や竹の仕事をどれだけ本当に知っているののだろうかと考えた時、知らないことがまだまだ多いと思わずにはいられません。

インターンシップ

インターンシップの学生さん


竹虎では毎年、お盆明けに大学生や専門学校生を対象に職場体験のインターンシップを行っています。今年も8人の学生が本社工場や店舗配送の現場で1週間、職場体験をしてもらい、その現場作業のホームページを次の1週間で製作するというプログラムで行っています。


自分が担当するのは本社での1週間です。まずは朝礼に参加してもらい、大きな声を出してのあいさつの練習や、毎日読む職場の教養という本の感想を自分の言葉で人前でしゃべってもらうという体験から始めます。


自分の意見や考えを人前でしゃべるということはなかなか難しいことではありますが、お客様の前で自分で考え、判断し、わかりやすくしゃべるということは社会に出ると当然必要になってくることですので、毎朝の朝礼では全員でその練習をして、少しでも成長できるようにと考えています。


学生さんもうまくしゃべれる人とそうでない人がいますが、誰にでも今日からやろうと思えばできることが、大きな声を出してのあいさつです。竹虎に来られる学生さんは皆さん意識が高く、進んでできる人が多いのですが、中にはできない人もいて、その学生さんに少しでも声を出してもらおうと毎朝声掛けをさせてもらっていました。


インターンシップという職場体験に参加しようとしてくれたことがすでに素晴らしいことではあると思うのですが、ほんの2週間の竹虎での職場体験で少しでも成長した姿を見られるのは本当に嬉しい事でもあるからです。本社研修の最終日にはまだまだではありますが、初日よりも大きな声であいさつもでき、感想も言えたのが嬉しかったです。


毎日のいろいろな体験の中で、少しずつではありますが、気づきや発見があったようで、学生さん達の毎日の日報を読むのが楽しみな1週間でしたし、またその声や姿勢に気づかされたことも多い1週間となりました。


若い職人とインターンシップ生


何より嬉しかったのは、最終日に最後の日報を書いてもらっている時に、工場での作業で担当していた職人2人がやってきて、最後のあいさつをしてくれたことでした。日頃お客様などに接する機会も少なく、誰かに教えたり説明したりすることもほとんどない2人も一緒に勉強してもらおうと思って担当してもらっていました。


自分たちで進んでやってきて、学生さんを前にうまく教えられなかったかもしれなかったけれど、ありがとうございましたと話してくれた時には本当に嬉しかった。自分が言うのは偉そうではありますが、一番成長できたのはこの職人2人かもしれないなと、感じたインターンシップの本社研修となったのです。

真夏にバーナー

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毎年のことですが、年々夏の暑さが厳しくなっているように感じます。自分の年齢的なこともあるのかもしれませんが、夏の暑い時期の工場内の暑さは尋常ではなく、じっとしていても汗がたらたらと流れてくるのです。


それでも自分はまだ冷房のかかった事務所に座ることも多く、一日中工場内で作業している職人はさぞかししんどいことだろうと心配もし、彼らに申し訳ない気持ちで事務所に座ることも多いのです。


それともう一つ悪いなと思うことに、この真夏のバーナーがあるのです。秋から冬にかけて虎竹の伐採があり、山から伐り出した虎竹を選別して買い取り、順に工場内に取り込んで、色や大きさや竹の良し悪しによって規定のサイズにカットして、工場内に片づけていきます。


そしてそのカットした虎竹を、その竹によってバーナーの窯を使って油抜きしたり、あるいはその熱を利用して真っ直ぐに矯正したりする作業を製造の合間にやっているのですが、春から夏にかけては竹皮スリッパや虎竹縁台、えびらなど他の製品作りに追われ、どうしても後回しになることが多いのです。


今年もまだ少し油抜き矯正作業が出来ていない虎竹が残っています。4人がペアでやりますし、その中には自分も入るため、予定のある日や他の製造がある日はできません。製造状況や予定を見ながら、暑い夏に暑い工場内で、バーナーの火をつけての作業が待っています。

検品作業

検品作業


竹を割ったり、剥いだり、また籠を編んだりしているところを見学されたお客様にはよく、「手にバラが刺さりませんか?」と聞かれます。少し竹という素材のことをご存知の方は、竹を割ったりすると竹の繊維質が飛び出し、バラのようになることを知っているので、それが刺さるのではないかと心配をして下さります。


さすがに刃物で手を切ることはほとんどないのですが、割った竹の角で手を切ることや、バラがささることはよくあることです。バラが刺さるからと言って手袋をはめて作業をすると、微妙な竹の厚みや個体によっての竹の特性などが分かりににくいため、一般的には手袋などははめずに割り剥ぎをしています。


そうして竹を割り剥ぎしたヒゴで籠を編んでいると、ヒゴ同士がこすれあったり、無理がかかって、竹の身の部分の繊維が剥がれてしまうことがあります。作った職人ができあがった籠のバリなどを、できるだけ作業場で取り除くのですが、お客様にお送りする前の検品作業でもそうした飛び出した竹のバリのようなものを丁寧に一つづつ切り取ったりしています。


これは籠の縁の籐巻きの際に出た籐のバリを切り取っています。刺さるとか、手を切るとかという危険があるものではないのですが、触った時の違和感や、見た目の綺麗さのための仕上げです。


自然素材であるために一つ一つの商品には多少の違いは出てきます。サイズはもちろん、割れが無いかや、ゆがみが無いかなどを見ると同時にこのような作業をして、少しでも綺麗な商品をお届けできるように心がけているのです。