竹林の異変

竹林


あまり誰も話題にしていないけれど、近年全国各地の竹林は元気がない。先日も、飛行機が着陸態勢になり高度を落とすと山々に点在するの様子が気になってくるが、どうも覇気を感じない。竹の秋でもないのに葉が黄色くなっていたり、立ち枯れした竹もある。




高知でも土佐市という所で全国最大級という孟宗竹の部分開花を見つけた事がある。あまりに広範囲だったので竹林の持ち主の方も一体何が起こったのか?と驚かれていた。


孟宗竹


竹は孟宗竹で60年に一度、真竹や淡竹では120年に一度花が咲くと言われている。開花すると竹は全て枯れてしまう、今ちょうど全国的に淡竹の開花時期となっているけれど、それとは少し違う。


真竹竹林


気になる竹林の多くは孟宗竹だったり、真竹だったりする。真竹は前から何度も言っているようにテング巣病だ。


テング巣病の竹林


これだけ蔓延しているのに、どうして竹を扱う職人や業者さんからも何も話しを聞かないのだろう?と思っていたら、ひとつは竹林に入らないので知らないのだ。竹材を使うと言っても、枝打ちされて一本の竹になったものしか見る機会がないので仕方ない。良質の竹を求めて竹林に入る若い職人も、既に最初からテング巣病ばかりだったので実はあまり違和感をもっていなかったりする。


竹林


「竹の秋」と言って竹も紅葉するのだけれど、一年中このような竹林の姿は異様だ。


竹林


孟宗竹の場合、大型化した台風の強風と潮のせいだとも、地震があった地域では根が揺れて傷みがきているのではないかという職人もいる。理由は分からないけれど、竹の異変には注視していきたい。




倒れた真竹のある竹林

倒れた竹根


「地震の時は竹林に逃げろ」そう教わった世代だ。は強靭な地下茎を張り巡らせていて、まさに天然の鉄筋コンクリートのように土壌をしっかり固めていたのである。ところが、管理されていない竹林は竹が生えすぎで密度が濃くなり、元々深くない竹根が更に浅く伸びていくようになる。久しぶりに入った真竹の竹林では、風で竹根が浮き上がり倒れていた。


真竹の竹林


このような事はそう多くない、と言いたいところだが台風の通り道になる西日本のでは各地でこのような竹林の姿が見られるようになっている。


テングス病


このような竹林は抵抗力が弱まり、テングス病が蔓延している。おおよそ、自分の訪ねた真竹の竹林では見かけない場所がないという程の広がりを見せている。これなら竹の品質そのものが低下するのも仕方ない、


真竹


伐採して並べられた竹ばかり見ていたら、このような竹が竹林に揃って生えているかのように思われる方がいるかも知れない。ところが、太さも曲がりもそれぞれ一ほんづつ違って性質まで異なるから、竹は大変と言うべきか面白いと言うべきかだ。





川原の竹林を思う

 
護岸竹を上空から見る


眼下に一本の川が流れている、緑のラインになっているので良く目立つ。けれど、多くの方は何気に見過ごしていて、これがの色だとは思われないのではないだろうか。竹だと、どうして分かるのか?さすが竹虎四代目さんは、田舎暮らしだけあって目がいいですね?いやいやそうではありません。日本の河川には護岸のために竹が植えられているのだ、小さい頃から「地震の時には竹林に逃げろ」と教わってきたが、竹の強靭な根が天然の鉄筋コンクリートとなって洪水から人々を守ってきた。


だから河川敷には竹が多い、竹の間隔が広くなりがちな大型の孟宗竹よりも真竹や淡竹が植えられている。日本の三大暴れ川のひとつ、四国の吉野川もずっと続く竹林は真竹だ。虎竹の里の近くの新荘川は面白くて真竹にまじって布袋竹などの小型の竹、メンチクやメゴササなど笹類などグリーンベルトとなった竹林には色々な種類が生えている。


真竹伐採


川辺に育つ竹は、水分が多すぎるて竹質が柔らかく竹細工に不向きな事が多い。ところが、砂地など地質の関係だろうか?河川敷であっても硬く品質の良い竹が伐採できる場所もある。


竹職人道具


この竹林もそんなひとつ、季節になり真竹の伐り出し作業が続いている。竹の質さえよければ平坦な場所が多く、道路にも近い竹林の仕事は比較的恵まれている。


真竹


ところが、強い風に倒れてしまった竹。風よけのために竹林の周りの竹を残しながら、中央部は手入れして日当たりも良く良質な竹に育つようしている努力が水の泡だ。


真竹


台風で傷んだ竹葉


強風で傷むのは竹根や稈、そして竹葉までこのように裂けてしまう。


虫害の竹


稈に穴がひとつだけ開けられた竹がポツリポツリと見られていた、タケノコ虫なるものだと言うけれど虎竹の竹林ではあまり見た覚えがない。そう言えば、先日行った竹林では山ヒルが大発生していた、石垣島のジャングルのような竹林でも山ヒルの事は何度も言われて、初めて見る大きな缶に入りの虫除けスプレーをしてもらった。ブラジルではもっとダイナミックな竹の害虫もいた事を思い出す、同じ竹林でもそれぞれの山なりの課題を抱えながら頑張っている。


サンジャク?竹林の異変

 
虎竹の里の秋


「キキキキキッーーーーー」澄み切った空に響くのモズの高鳴きを聞くと秋だと感じる。何処にいる?辺りが見渡せる高木や電柱の先の方にいるはすだ。モズはとても美しい鳥で敏捷性と力強さがあり、カエルなど小動物から他の小鳥まで襲ってしまう。ボクもメジロを飼っている時にはモズには随分と注意していた、コバン(鳥籠)の隙間からでも獲物を狙ってくる野生の逞しさに驚いたものだ。そして「敵ながら天晴れ」と言おうか、いつも一番高いところに陣取り凛として鳴いている姿がカッコイイと思っていた。


竹林の空


このように小さい頃から鳥の鳴き声がすっかり耳に馴染んでいるので、聞き慣れない鳥の声にはすぐに反応する。先日、竹林にいると今まで聞いた事もないような鳥が飛んできた、ちょうど通りかかった山の職人も初めてだと神妙な表情になる。姿は見えなかったが数羽いたようだ、すぐに思い当たったのはニュースで見たばかりのサンジャクという鳥。元々は中国中南部に生育するカラス科で、愛媛県の公園施設から逃げ出したものが野生化して高知県西部に生育域を広げているそうだ。高知の県鳥となっている、ヤイロチョウの生態を脅かす外来種として報じられているけれど、鳴き声の迫力からして日本の里山で見る山鳥とは全く違うと感じている。


虎竹林


自然はこのように常に移り変わっている。飼っていた鳥が野生化したにしても、温暖化などの影響で環境が適応しているからこそ新聞で報じられる程に繁殖しているのだろう。虎竹も変化し続けている、だからこそ、たとえ竹林で遊ぶメジロやウグイスがサンジャクに変わるとしても変わらないものを大切にしたい。


ハッピーバースデーだろうか?かぐや姫

 
孟宗竹若竹


笹の節句とも呼ばれる七夕には、葉をゆらす竹をそちこちで見られるようになる。一般の方にとっては笹もも区別がつきにくいと思うので、そういう意味でも今日は竹とは縁の深い日である。しかし、全日本竹産業連合会が昭和61年に「竹の日」と制定したのには他に理由があって、何とかぐや姫の誕生日ではないかと言われているからだそうだ。


孟宗竹筍


ご存知のように竹取物語は、日本最古の物語で作者は誰かも分かっていない。だから日本全国に「この地こそ、かぐや姫の里」と名乗りをあげている市や町が何か所もある。1000年以上も前から伝わるお話しなので生誕地に決着がつくことはないかも知れないが、ロマンを感じるし各地にそのような伝承がある事自体が日本人と竹との深い繋がりを思わせる。


孟宗竹若竹


かぐや姫生誕については確かな事は分かっていないけれど、ひとつ確実なのは竹取の翁が見たような光輝く竹は現代にもあるという事だ。筍が竹皮を脱ぎ棄てながらグイグイと大きく成長していく、竹になったばかりの孟宗の若竹には細かい産毛が生えていて竹林に入れば白く光って見える。


雨の孟宗竹


それが更にどうだ、雨模様の竹林では薄暗く鬱蒼とする中にあって、竹の内側から何かが照らしていても不思議でない程に輝いている。雨天で竹林に入る者は少ないので案外と知られていないが、雨の竹林も幻想的で美しい。


竹林と太陽


「なるほどこの光り輝く孟宗竹が、かぐや姫が生まれた竹なのですね」声が聞こえてきそうだ。いやいや、実はそうではない。いつも30年ブログをご覧の方はご存知の通りだが、関心のある人がおられたらYouTube動画をどうぞ(笑)。




「地震の時は竹林に逃げろ」竹は昔から竹であり、現在も竹である。

雨の虎竹の里、竹林


先日の大雨で、改めて自然の力の偉大さ災害の恐ろしさを思い知らされています。土砂崩れの起こる前、起こっている最中に現場におられた方々が話される「強烈な土のニオイ」と言うのが印象的でした。ニオイと記憶というのは密接に繋がっていて、長時間経っても薄れることがないと聞いたことがあります。自分なども強い潮の香りは台風と結びついてあまり良い感じを受けませんが、斜面の多い虎竹の里も「土のニオイ」には要注意だと思っています。


孟宗竹


前にもお話しさせていただきまたように、竹が里山に植えられたのは生活の道具として役立てるための目的が大きくある一方、食料として、防災林として人の暮らしと命を支える役割をずっと担ってきました。孟宗竹などまるで日本在来種のように全国津々浦々に生えていますが江戸時代に大陸から渡ってきたものがその太さと長さから珍重され広まったものです。武家のステータスになっていた時代もあり、その当時の庭には競って移植されたそうです。また、現在のように食料事情が良くない時代には、あの大きな筍などは多くの人命を飢えから救ったのではないかと思っています。


竹は、竹細工だけでなく、衣食住すべてに関わり、日本人の暮らしと共にあったのですが特に防災というのも大きな竹の役割でした。株立ちの蓬莱竹は高知ではシンニョウチクとも言われますが台風の雨風の強い土地柄ですので日頃は何といこ事もなく眺めている竹が、泥の洪水が荒れ狂うように流れる川の護岸をしっかり支えてくれる姿には頼もしさを感じた事だと思います。




蓬莱竹は南方系で温かな地域を好みます、高知県の西部の川辺にはこのような光景が広がりますし九州などにも広く分布し同じように護岸用として役立っています。ちなみに良質の竹材のとれる山口では孝行竹ともいいます、親竹から新しく生えた子供の竹が離れないのです。この力が土壌をしっかりホールドする防災力ともなっています。


吉野川の真竹


日本三大暴れ川といわれる四国三郎をご存じでしょうか?言わずと知れた吉野川です。高知県を源流として徳島県を縦断する一級河川ですが、この川沿いにも見事な真竹の竹林が続きます。幼い頃、あまりに川岸に竹が多いので竹は水が好きなのだとずっと思っていましたが、そうではありません。水害から尊い命や財産を守りたいという地域の人々が竹の地下茎で繋がる強さを知り、代々に渡り管理してきたものです。


篠崎ざる


東京にもかっては竹籠の一大竹産地がありました。現在は「篠崎」という地名にその名残があるだけですが、籠を編む竹材は江戸川の護岸用に植えられた篠竹を使ったものでした。最後に残った篠竹ざる職人、草薙さんにお話しを伺った事がありますが当時は200軒の竹細工職人さんがいて編まれた竹籠は船に満載に積まれて江戸川を運ばれて行ったといいます。江戸川に植えられた護岸用の竹材の量も分かるというものです。


このような例を挙げていきますと枚挙にいとまがありませんが、洪水だけではありません、台風銀座の高知には竹の生垣で防風対策をしているお家は結構見かけます。竹の生垣は先祖が植えて大切に守ってきたものですから100年、100数十年というものもあり、そのお宅の自慢ともなっています。


竹根


「地震の時は竹林に逃げろ」祖母から母から地域の古老からそう言われて育ちました。遊び場であった竹林で竹根が伸びているのを見つけ折ろうとしましたが、しなって強くて全く歯がたちません。仲間と掘ってみると、なるほどその強靭な根が張り巡らされ驚いた記憶があります。もちろん、手堀りでは深く掘るとなどできません。竹の仕事に就いてからは重機を使って竹林を掘り返した現場や写真も多数見てきましたが、本当に凄いです、あの根が幾重にも張り巡らされていれば少々の揺れや水にはビクともしないだろうと確信しています。


自分は昔話や言い伝えには何らかの真理が隠されてるいると思っています。そこには長い先人の経験や知恵が秘められていると考えているからです。科学も何も発達していない昔から、「霜が降りると虎の色がつく」虎竹の里の老人たちが言い伝えのように話していた事も温暖化が顕著になった今、本当の事だったと分かりました。来月、世界竹会議メキシコで登壇させていただき世界各国の竹専門家の皆様にお話しする内容はまさにこの事なのです。


荒廃した竹林


竹林が危険と言わたれり、放置竹林、竹害などと書かれているのを見ると、かなり違和感を覚えています。人間の役に立つから植えられたものが、安価な筍や竹製品が海外から入ってきて必要がなくなり、管理できなくなったら、まるで悪者のように言われています。しかし、竹は昔から竹であり、現在も竹であり続けているだけです。日本は国土の約7割り近くを森林が占める森林大国です。特に自分たちの暮らす高知県などは更に日本一の森林県なので県土の84%が森林です。そんな自然豊かな日本にあって竹林の占める割合はどれくらいかと言うと実はわずか0.6%しかありません。それなのに放置竹林などと言われるのは多くの竹林が身近にあるからで、それが前にもでましたがどれほど日本人の暮らしに役立ってきたかという事の証明だと思っています。


蓬莱竹、シンニョウチク


高知の高速道路は山の中を突っ切って走ります。なので山の中腹にポツリと株立ちの蓬莱竹が植えられている所があります。それらは山の所有者の目印で、山の境界線となっています。これなども自然災害に強い竹だからこその使われ方のひとつです。竹林が危険というならば、それは管理を放棄した竹林が密集して生えすぎて根が弱り、竹の勢いも衰えてしまった竹林の事ではないでしょうか。竹林と竹藪は、同じように思われる事が多いですが、実は全く違うのです。




※人と環境にやさしい驚くべき成長力の竹材有効活用を「バンブーロス解消へ、驚異の除湿力の竹炭活用」として2022年5月21日の30年ブログにも掲載しています。驚異の竹炭の除湿効果の動画も併せてご覧ください。