最初で最後の白竹三段弁当箱

 
白竹三段弁当箱


三段に編まれた竹ピクニックバスケットの中でもこの丸型の白竹三段弁当箱は、かなり異彩を放っている。まず、丸型というのは他にはないし、本体や蓋部分、三段になった底部分など網代編みで仕上げられているのもこの弁当箱ならではだ。一番最初に目を引いたのは最下段の四ツ目編だった、二段目、三段目に比べて高さがあって通気性もよいから果物やデザート入れにはピッタリだと思って作った職人の思いが伝わってきた。


最初の白竹三段弁当箱


この職人は師匠について学んだのは確か一年くらいで、後は元々のセンスと努力で竹細工に向き合ってきた。それこそ、この腕前になるのには並大抵の事ではなかったろうと思う、苦労の末に暫くして大手電機メーカーの照明器具を製作するようになったのが転機となる。電気メーカーと聞いて竹の仕事とは結び付かないと思われるかも知れないが、昭和のご家庭で使われていた照明機器の多くは竹だった。上から吊るすペンダントライトの笠、スタンドライトのカバーなど、自分が小学校の時に祖父の建てた自宅は一つ残らず竹で今もそのままな物もある。


竹照明カバー


照明の仕事をされていた時は毎年変わるデザイン、全国から舞い込む注文のため職人や内職も何人もいた忙しい時代だったと言う。今では竹照明の仕事の名残は、職人自ら取り付けた工房玄関の古い竹編み灯りだけだが、その後続けてきた三段弁当箱作りも遂に最後となってしまった。託された最初に試作した一個は、持ち手部分が弱い火でゆっくり手曲した緩やかなカーブになっていて、手間のかかるこの技法で作らた丸型弁当箱はこれしかない。手元で眺めながら少し寂しさも感じている。


根曲竹手付き丸籠の虫穴

 
根曲竹手付き丸籠


今日は根曲竹手付き丸籠だ。直径が約28センチで高さが15センチと手頃な大きさと持ち手の付いた便利さから色々な途にご愛用いただいている万能籠として人気がある。ところで、この根曲竹とは一体どんな竹なのか、ご存知だろうか?筍は確かに美味しいらしいが、当然だけれど竹虎では食べる事など考えた事もない。30年ブログのファンだという少し変わった方(笑)がおられたならば、実は何度かご紹介している竹なのでウンウンと頷かれているかも知れない。


根曲竹林


根曲竹は、皆様が普通に思い描く竹林の様子とも少し違うが、伐採の仕方も自分たちの虎竹とは全く異なっていて興味深い。竹と名前が付くが、別名は千島笹(チシマザサ)とも呼ばれるように笹の仲間だ、だから竹林も場所にもよるのだが意外と低木に感じる。しかし、だから竹切りの苦労がないかと言えば実は大有りで、このYouTube動画の出だしにあるように、職人がクマに用心しながら道なき道を竹林に分け入っている大変な姿をご覧いただきたい。




どうだろうか?竹は曲がりくねった山道を車で随分と登って来た場所にあって、山裾にあった民家からも遠く離れて辺りに人の気配は全くない。標高が高いためか震えるほど気温の低い中、爆竹を鳴らし笛を吹いて緊張しながらの伐採なのだ。この日はラジオを忘れている、いつもは大音量の音楽をかけながらの山仕事だと聞かされた。


根曲竹


根曲竹は寒い地方の竹なので、さすがの自分も南国育ちでこれだけ生々しい竹に触れる機会は多くない。ひと冬、雪の下で保管してあった竹とも違う、まさに伐採されたばかりの根曲竹は何とも青く、硬く、生命力にあふれていて触れただけでビリビリと感動する。


根曲竹職人


根曲竹は虎竹や真竹のように3年竹、4年竹だけを使うのではなく、1年物の若竹も上手に多用する。柔らかい1年竹は編み込みに、冒頭の手付き丸籠のように丸竹のまま持ち手に用いる時等には硬い3年竹と言うように使い別ける。


根曲竹の虫穴


ところが、その根曲竹もここ数年やはり少し異変があるように思っている。南北に長い日本列島に産地がいくつかあるので、気候も様々で条件も微妙に違うといえばだが、やはり以前の根曲とは違う。どうも虫に弱くなっているように思えて仕方がない。竹が本来持っている抵抗力の低下は真竹などにも見られるけれど、先日もまさに手付き丸籠の持ち手に小さな穴が見つかった。


根曲竹熱湯消毒


このような場合にはすぐに熱湯消毒をする。竹材の場合だと一晩中水に浸けておく事もあるのだが、籠に編んだものは形が崩れる事に注意しながら天日干し、陰干しなどして5~6回繰り返して様子をみる。


根曲竹を野菜籠に


社員が畑で育てた夏野菜をいれるのにも重宝する丈夫な万能籠が、こんな小さな穴で日の目を見られず倉庫で朽ちていくのだろうか。竹林から伐採、山だし、選別、加工、製造、販売からお客様までを全て知る竹虎に耐えられるはずもない。


飴色の根曲竹手付き籠、竹虎四代目(山岸義浩)


東北では、「真竹より篠竹、篠竹よりスズ竹、それより根曲竹」という言葉がある。根曲竹の何が魅力的なのか?奥が深いと言われてきたのか?それは使ってみた方ならば分かる艶だ。信じられますか?義母から譲り受けた根曲竹の色合いは、元は自分が右手に持つような白っぽい竹だったのだ。長く愛していくうちには、キズもつくし、虫も喰う、割れる事も管理が良くないとカビが生えるかも知れない。しかし、それが自然の竹です。


小さな虫穴のある籠も、若干であれば出来る限りお客様に届けていきたいと考えている。もちろん、虫が退治できている事を確認してからだし、本来の強度が担保されなかったり、見た目にも酷過ぎる籠は論外だけれど。それでお手元に届いた竹籠が、どうしてもお気に召されない場合はどうかお気軽に当社まで送料着払いで結構なのでご返送ください。竹の三悪と昔から言われている「カビ、割れ、ムシ」をご理解いただき、手間のかかる竹細工ではありますが日本の竹を愛でて頂きたいと思っています。


青竹水嚢(すいのう)

 
スイノウ


青竹で作られた水嚢(すいのう)と言われても、聞きなれない言葉に何の事なのかお分かりにならない方も多いのではないかと思う。実は食品をすくって水切りするための台所用品なのだが、一般的には金属製などが多くて竹製のものは近年あまり見かける事はなくなった。


水嚢各種


真竹の他にも木の小枝と根曲竹を使って作られた物がある、ラクロスというスポーツのラケットに似ている(笑)、見かければ面白いのでついつい手が伸びる。


すいのうタガ


今回の青竹水嚢で見逃してほしくない所は、このザル部分と持ち手の柄部分が一本の同じ竹で出来ているところだ。持ち手の竹の片方を細くわって縦ヒゴとして使っいて、根元には補強のタガが入れられている。


水嚢、竹虎四代目(山岸義浩)


こうして持ってみるとサイズ感が伝わるのではないかと思うけれど、結構大振りなものだ。


青竹水のう


水嚢竹ざる


少し前に、ラーメン屋さんの湯切りに使うステンレスザルの持ち手を竹で用意した事がある。仕事でプロが使う道具からすれば趣味性の高い青竹水嚢だが、こんな竹を自在に操るオープンキッチンで座ってみたくもある。




曲線美の竹籠、磯テゴに隠された口巻きの秘密

 
磯テゴ、ウニ籠、磯籠


「秘密」なんて言うと大げさであるけれど、職人や自分たちが当たり前にように思って何も言わないと、いつの間にやら似ているけれど何処か頼りない竹籠ばかりになってしまういそうだ。昔から長く日本人に愛されてて山で、海で、川で、畑で、家で使われてきた竹籠は美しく強いのである。


磯テゴ、ウニ籠、磯籠


これは地元では磯テゴと呼ばれている籠で、ウニが沢山獲れる地域でもあるのでウニ籠と呼ぶ人もいるが一般的には磯籠として名前が通る籠だ。


磯テゴ、ウニ籠、磯籠


丈夫さの秘密は肉厚にとった竹ヒゴで作る竹輪にある。この丈夫な竹輪を口巻にあてがって巻いていく。


磯テゴ、ウニ籠、磯籠


実は口巻に補強の竹をあてがっている籠は多い。素材自体が細い篠竹細工などでは、昔の職人の仕事を見ると丸竹をそのまま巻き込んでいて感動すらする。ところが篠竹の籠の場合には外側に口巻が飛び出してしまう(これには、篠竹籠の理由があるのだが)。


磯テゴ、ウニ籠、磯籠


それが磯テゴときたら内側に竹輪をあてがい巻き込んでいるから、底から立ち上がって口巻にいたる優しく綺麗な曲線がそのままなのだ。普通に使っていたら、どうしてこんなに強度があるのか不思議に思ってしまうかも知れない。


磯テゴ、ウニ籠、磯籠


さて、今回は磯テゴが完成した画像を用意し忘れてしまった。下のYouTube動画の最後に持ち手を付けた竹籠全体が登場するので是非ご覧ください、本当に口部分にゴツイ竹輪が入れられているなど外側からは分かりません。やはり「秘密」なのだ。




いつもの竹買い物籠

 
虎竹買い物籠(だ円)


量販店やコンビニでのレジ袋有料化で今まで以上に竹手提げ籠を持ち歩きやすくなっている。田舎は何といっても車移動なので常に社内に2~3個の竹籠が待機していて買い物の量により出動する状態だ(笑)。自分の世代だと、母親が籠を手にして買い物に行く姿を覚えておられる方も多いと思う。このだ円の形をした虎竹買い物かごには当時のノスタルジックな思いが詰まっていて少し特別な籠でもある。


スズ竹市場籠


やはり気を使わずにガンガン使えるスズ竹市場籠は便利だ、自分も愛犬にかまれた箇所を修理してもらって使っている。しかし、昭和の時代に市場籠を多用していたのは築地に買い出しに行く板前さんで、一般の方が日常的に大きな籠を持ち歩くことはあまりなかった。醤油やお酒は御用聞きの方が定期的にまわっていたし、今のように大型冷蔵庫はなかったから沢山買い込めなかったからだと思う。


真竹磨き手提げ籠


母も祖母も近くのおばちゃん達も手頃なサイズの籠ばかり使ってした。そもそも大きいと疲れてしまうのだろう、先日たまたま年配のご婦人がスーパーに買い物に行くのに出くわしたが、サザエさんが手にしている籠よりも小さめのカワイイ感じだった。


白竹八ツ目角籠バッグ


真竹三角バッグ


竹の経年変色はいつもお話しさせてもらう通りだ。特別なお手入れなどしなくとも、大切に使えば使うほど飴色になり表皮を薄く剥いだ「磨き」は磨きなりに、白竹は白竹なりに、青竹は青竹なりに美しく変わっていく。


根曲竹角八ツ目手提籠バッグ


根曲竹はツヤがでるのでオススメだ。八ツ目の籠は珍しいと思うが武骨な風合いは男性が持っても凄く似合う。




届けられるか?夏の快眠、虎竹抱き枕

 
虎竹抱き枕試作


抱き枕はエアコンの無かった時代から、夏を少しでも涼しく過ごしたいという先人の思いから生まれた竹籠で、日本だけでなく竹が身近にある東南アジア一帯に同じような製品が編まれてきた。台湾や韓国で沢山編まれているのを見た事があるので、恐らく竹の本場である中国や竹の豊富なベトナム等では、もっと多彩な籠があるのではないだろうか。


虎竹抱き枕


しかし、日本唯一の虎竹を使って編まれている抱き枕とはかなり珍しい、10数年前に作ったきりの試作品だと言うが一つ感じるのが時間の経過を思わせない竹の状態だ。大小ふたつのサイズがあり本当に素晴らしい出来栄えだが、不思議と竹の弾きや割れなどがない。


白竹抱き枕、竹虎四代目(山岸義浩)


実は近年の竹質の低下をずっと危惧している。蔓延しているテング巣病が、本来なら粘りもしなりももっとあるはずの真竹に影響しているのだと推測しているが、白竹製の抱き枕でも負荷のかかる先端曲がり部分では数年で竹ヒゴが耐えきれずにヒビ割れを起こしている。


白竹抱き枕


確かにこのような症状はほんの十年前まで見られなかったように思う。少しつづ変わり続けていく虎竹で、昔から変わらない抱き枕を試作中だ。




虎竹赤染革手提げ籠バッグが編み上がるまで

虎竹赤染革手提げ籠バッグ


革持ち手の赤染手提げ籠バッグは、じわりじわりと人気になってきた。革持ち手の色合いを最初は黒かコゲ茶などバッグ本体とは少し違った方がよいかと考えていたが、見慣れてきたせいか結構似合うように感じている。元々は持ち手に使っていた良質の太い籐素材が、全国的に品薄で手持ちがなくなったせいで苦肉の策ではあったものの「怪我の功名」だったかも知れない。


虎竹赤染革手提げ籠バッグ表皮


赤染めと言っても竹が自然素材でそれぞれに個性があるので、同じように染めても仕上がりは当然微妙に異なる。近年の温暖化など気候変化にて虎竹は色付きが芳しくなくなっているけれど、たとえ虎模様が若干控えめの竹だとしても染めると他の竹材と同じように使えるので、バンブーロスを防ぐのには有効な手段なのだ。


日本唯一の虎竹


これがガスバーナーで油抜きをしたばかりの虎竹なので染め籠と見比べれば違いは一目瞭然だと思う。


虎竹赤染革手提げ籠バッグ底編み


虎竹赤染革手提げ籠バッグ


底編みには幅広の竹材を差し込んで仕上げていく。


虎竹赤染革手提げ籠バッグ竹職人


虎竹赤染革手提げ籠バッグ竹職人縁巻き


竹虎四代目(山岸義浩)、虎竹赤染革手提げ籠バッグ


今回は、この虎竹赤染革手提げ籠バッグが編み上がるまでを時間をかけて追いかけて、熟練職人の技を皆様にご覧いただけるようにした。自分達では当たり前に思っている事も、竹細工をあまりご存知ない方々からすると驚きや感動が発見できるのではないか?そして、意外と手間のかかる仕事ぶりを知っていただく事で、国産竹籠バッグの価値を見直してもらえる機会となれば嬉しい。




ちりめんじゃこと干しざる

 
ちりめんじゃこ、しらす


「どろめ」と呼ばれる珍味をご存知だろうか?豊漁祈願で行われるどろめ祭りでは、豪快に日本酒一升の早飲みが毎年開催されて大きなニュースになっていたので高知県では知名度が高いが、もしかしたら県外ではあまり知られていないのかも知れない。浜に水揚げされた生を、そのまま食す機会はさすがに少なくて一般的には「しらす干し」、「ちりめんじゃこ」だ。有名な産地は全国に何か所かあるようだが、九州の職人さんに毎年届けていただくちりめんは実に旨い。手先に摘まんで少しだけと思って口に入れたら最後、止まらなくなって大きな袋があれよあれよと言う間になくなる(笑)。


四ツ目竹ざる


モグモグと口を動かしながら確か以前にもご紹介した地元のしらす釜揚げ工場の事を思い出していた。こちらでは、昔ながらの四ツ目編の竹ざるをずっと使い続けている。もちろん田舎のホームセンターにも海外製造の竹製品は並んでいるが、やはり機能性と耐久性にうるさいプロの方は国産竹ざるるしか選ばない。


しらす釜揚げ用竹ざる


仕事場の竹ざるは迫力がある、湯気の中で戦っているように見えた覚えがある。次々に茹でられ運ばれて行くのが、目の前の太平洋からの産物だと思うと自然とは有り難いと感じた。


竹ざるに名前


海でも山まで畑でも、働く竹籠には名前が入れられていて少し誇らしげだ。


エビラ竹素材


今年はエビラをはじめとして干しざる製造のための竹材が不足してしまった。もしかしたら30年ブログをご購読いただく皆様の中にもご迷惑をお掛けしてしまった方がおられたら、この場でお詫び申し上げます、誠に申し訳ございませんでした。来年はもう少し竹材の確保を頑張らないといけないと考えています。




試作機完成、虎竹空気清浄機

虎竹空気清浄機試作


随分と時間をかけてきたと思う。優秀なデザイナーの方に大いに助けていただきながら、地元のメーカーにこだわって製作を続けてきた日本唯一の虎竹を使った空気清浄機が、ようやく一つの形になった。前面にならべた虎竹から、竹集成材の細かいしつらいまで、まだまだ修正点は多いけれど第一段階をクリアした試作機だ。


日本唯一の虎竹林


虎竹の里に来られた方は、誰一人残らず皆様が心地よい竹林の事を口にされる。竹の葉が揺れる音、近くを流れる川のせせらぎ、小鳥たちの歌声に癒されると言う。観光のためではなく、少なくとも江戸時代から続く竹の生業のために手入れさてきた日本でも数少ない本物の竹林ならではの空気感。吹き抜けていく風をお届けしたくて「竹風(TAKEKAZE)」と名付けた。


虎竹空気清浄機吸入口

 
虎竹空気清浄機ファン


土窯作りの竹炭


下部の吸引口からファンを通して集められた室内の空気は、竹虎自慢の土窯作りで焼き上げられている最高級竹炭を小さな粒状にして詰め込んだ竹炭フィルターを通して噴出される。


虎竹空気清浄機内部


以前、製造していた空気清浄機竹風(ちくふう)には無かった強弱の切り替えスイッチも用意したが、機能もインテリアとしても、思いいれも全く違う異次元に昇華した一台になる。


虎竹空気清浄機試作


この秋、発売予定を目指して急ピッチで準備を進めている。完成を世界一待ち焦がれているのは、やはり自分だ(笑)。


二種類の古い竹枕

竹枕


久しぶりに古い竹枕を見た、二種類あるけれど両方とも丈夫で良くしなる竹の特性を活かしている。竹のヒンヤリする感触、通気性、エアコンのなかった時代に寝苦しい夜や、真夏のお昼寝を少しでも快適にしたいと願う先人の気持ちが形になっているような気がする。


竹枕


竹枕の竹節


この直線的なヒゴを使った竹枕の両端に竹節が入って格好いい。実は同じタイプを別の場所でも見た事があるので当時は大量に製造されていた枕に違いない。


竹枕


もう一つの竹枕も、小さめの木部から立ち上げた厚めのヒゴを綺麗に曲げて作られた秀逸なデザインだ。昭和の時代の竹細工は、つくづく感じいる作りばかり、学ぶべきところが多いと思う。


思いやりの修理、山ぶどう手提げ籠バッグ

 
山葡萄手提げ籠バッグ


山葡萄手提げ籠バッグに修理依頼が来ることは珍しい。自分も100年以上前と言われる籠を使っているが、ヒゴ自体はツヤが出て黒光りしている他はあまり傷んだ様子はない。それでもやはり自然素材だ、日常的に愛用していると手直しせねばならない場合もある、今回はどういう訳か持ち手部分の芯がポキリと折れてしまっていた。


山葡萄四ツ目弁当箱


この程度の修繕なら結構早いものだ、ところが職人からの籠バッグを見て「あれ?」と不思議に思った。山葡萄のヒゴは使い込んだら黒っぽく渋い光沢が出てくるのだが、新しい蔓はこの四ツ目弁当のような明るい色合いをしているものだ。


山ぶどう網代編み


もしかしたら修理をしていないのかも...と思ってしまうくらい前の状態そのままなのだ。そこで職人に訊ねてみたら、何と当然持ち手の芯はやり直しているのだけれど、巻き直すヒゴには良い色に変色している元の素材をそのまま使っていたのだった。


山葡萄籠、竹虎四代目(山岸義浩)


国産の山葡萄を愛する方々は、ひとつの籠を長く持たれる事が多い。親子二代に渡って使うことも多いと思う、実際に自分のセカンドバッグは母から譲られて30年以上が経つ。大切に持ち歩くお客様の気持ちを思った、熟練職人ならではの仕事のひとつだ。




長い長い青竹踏み

 
長い青竹踏み


孟宗竹を半分に切り割りしている、一体これは何に使うものだろうか?まず最初に思ったのが、野趣溢れる演出に使われる竹食器だ。ホテルの宴席で一度見たことがある、これよりもっと長い竹を使って色とりどりの料理を盛りつけられた物も思い出す。


ロング青竹踏み


ブッシュクラフトではないが、キャンプなどでも竹を使った容器を手作りして楽しむ方もおられるように、中が空洞で節もある竹は格好の素材なのだ。


青竹踏み天日干し


しかし、これは食器としてお使いいただくものではなく、やはり青竹踏みなのだ。同じように裏返して天日干ししている普通の青竹踏みと比べると、長さがよくお分かりいただけると思う。


ロング青竹踏み


こんなロングタイプをどうされるのか?気になるところだが、どうやら店舗のカウンター席でお客様の足元に置いて踏んでもらうらしい。


青竹踏み携帯用


長い竹踏みもあれば、携帯に便利な短いものも作っている。いづれにしても、こんな竹の自然なままの姿を活かして人様に喜んでいただけるものは他にあまりない。都会は交通機関が発達しているので、車に乗る機会は少ない代わりに結構歩くから恐らく地方の自分たちより足腰を酷使しているように思っている。電車の乗り降りの階段、バス停での立ったままの時間待ち、疲れた足を優しい竹の感触で癒してもらいたい。




月桃円座の職人

 
月桃円座、鍋敷き


は、あまり知られていないのだがイネ科である。竹林での部分開花は結構頻繁に見られるので昔から珍しい花が咲いたと職人さんが持って来てくれるのだが、まさにイネ科を裏付けるように竹の花は稲穂そのものなのだ。そんな訳で、世界的にも美味しいお米が実る日本は竹の生育にも最適の地であり、メリハリある四季が竹を向上させ最高の品質だと思っている。


月桃ヒゴ


しかし、小さいながらも南北に長く、美しい自然の残された日本には竹の他にも地域性のある素晴らしい素材が多彩で面白い。たとえば先日ご紹介した七島藺(しちとうい)円座、円座と言ってもイ草、菅、わら、ガマ、アダン、そして今日の動画でも皆様にご覧いただきたい月桃など何とバラエティーに富んでいる事か!この多様性が日本の豊かさなのかも知れない。


月桃農園


月桃には殺菌作用があり、香料として利用されるほど良い香りがするので円座の他にも生活道具に使われる素材だと知ったが、自分が元々関心を持ったのは炎天下で収穫される大きな葉を見てからだ。高知の郷土料理に出てるリュウキュウ(ハス芋)のように太い茎は刃物でサクッと簡単に伐り倒す事ができる。


月桃円座編み初め


ところが、その素材を乾燥させて編み込めば強く座り心地のよい円座になるのだから凄いのだ。つくづく自然素材と先人の知恵には感服するほかない。




ワンランク上の日本唯一虎竹温泉籠

 
虎竹温泉籠


湯気の立ち昇る温泉街を、浴衣姿などで歩く湯治客の方を見るとホッとした気持ちになって良いものだ。少しづつ回復して来たと言う観光が、コロナの急増によって又下火になってしまうのではないかと心配しているが、明日から三連休の皆様は感染に注意して楽しんでいただきたいと思っています。


虎竹温泉籠


温泉街で活躍する竹籠と言えば湯籠と呼ばれる手付きがある。石鹸やタオルなど入浴に必要な道具を入れて持ち歩く籠で、普通は真竹で編まれたものが一般的だが、これを日本唯一の虎竹で製作したのがコチラの虎竹スクエア手付き籠


虎竹スクエアバスケット


虎竹温泉籠


ワンランク上の湯籠としてご提案しているけれど、もちろんそれだけではもったいないので、ご愛用いただく方のアイデアで色々お使い頂ければと思っている。




網代底平ざる で土用干し

 
土用干し、梅干しざる


自家製梅干しを作られる方には重宝する国産竹ざるだが、7月下旬から8月上旬の夏の土用の期間に梅を干すと、色付きも良く風味も増して美味しい梅干しが出来ると言われる。遠い記憶の中では、どこのお宅に遊びに行っても縁側でこのような竹ざるが使われていたような気がするが、もしかしたら同じように感じらている方がいるのではないだろうか?


竹ざる、竹虎四代目(山岸義浩)


高知県では網代編みされた竹ざるを「サツマ」と呼ぶ、今年は良質の竹材を思うように伐採できなかった事もあって、サツマが少ない代わりに網代底平ざるをお求めいただいている。


網代底竹ざる


使い勝手のよいのは50cmと40cmのサイズだが、直径にするとわすが10cmの違いが見た目の大きさがこれだけ異なる。初めて梅干しにチャレンジされる方は1キロ程度の梅を並べられる40cmがオススメだ。


梅干し


竹と食とは深いつながるがあるが見逃されている場合も多い。お弁当に入っている赤い梅干しづくりに、竹職人が関わっているなんて想像できない方々にも達人技とも言える竹編みの様子を知ってもらえると嬉しい。




蓬莱竹とクバ笠

 
クバ笠職人


クバ笠を初めて見たのは石垣島照り付けるような太陽の下だったので、なるほど土地では欠かせない生活道具だと感じた。当たり前のように被って畑仕事されている方が格好良く、何と笑った時の歯が白くイキイキとしているのだろうと印象深く覚えている。


クバ笠の蓬莱竹骨


その後だ、職人さんの自宅兼工房で真っ先に目に付いたのが蓬莱竹(ホウライチク)で作られた竹骨。すぐに、あのクバ笠のものだと分かって胸が高鳴った。沖縄県では意外と真竹や孟宗竹のような大きな竹は見当たらない、その代わり竹細工には株立ちになったバンブー系の蓬莱竹が使われているのだ。




蓬莱竹は、高知ではシンニョウチクとも呼ばれ実は昔からの職人は良く知っている竹だ。とにかく節間がながく、しなやかで使い良いのだが、雨の多い西日本各地では護岸竹としても多用されてきた。関心のある方は、少しクセのがあるけれど竹虎四代目の動画で勉強してください(笑)。


クバの葉


さてクバ笠だが、石垣島を車で走れば何処でも見られるビロウとも呼ばれるクバの葉を使う。裂けておらず、虫にも喰われていない柔らかい葉を選んで採ってきて陰干しするそうだ。編み出す前には、他の自然素材と同じように水に浸しておく。


クバ笠職人


それにしても、あの青々とした葉を本当に上手く使うものだと感心する。幅が広くより日よけになる畑用と、漁の最中に海風に飛ばれないように少し幅を狭くした海人笠があるけれど構造は同じだ。蓬莱竹の骨に被せて作られていく、仕上げの留めに蓬莱竹の丸ヒゴを縫い付けていくから、まさに蓬莱竹とクバの笠だと思う。


クバ笠


本来の伝統的なクバ笠には内側にも丸ヒゴを入れるらしいが、軽量化をしたい職人さんが糸を使う編み方を考案して約30年来この技法で作られている。




マドラーにもなる最高級の竹炭スティック

 
マイボトルに竹炭


若い方でマイボトルを持ち歩く方が目につくようになった。この暑さなのでも便利なステンレス製で保冷出来る物から、ガラス製、あるいは軽量なプラスチックなど色々なタイプがある。環境意識の高い方を中心に、コンビニや自動販売機でペットボトルを容易に消費しなくて済む事と、節約にもなるのが支持されている理由のようだ。


竹炭マドラー


そこで注目していただきたいのが最高級竹炭スティックである。高温の土窯で焼き上げた竹炭で叩くと心地よい金属音がする、自分等は平炭をピッチャーに入れて使うのだが細長く加工したタイプはボトルにも入れやすい。


マイボトルに竹炭


ただ、最高級竹炭の原料となる孟宗竹は、日本最大級に大きな竹で身が厚く硬いので二枚の丸鋸を用意して切り割りして加工している。「切り割」と聞いても普通はイメージできないと思うので下のYouTube動画をご覧いただきたい。


孟宗竹


ご覧になって驚かれるのが竹の太さと身の厚みではないだろうか?ご存知ない方でも、なるほどこの厚みなら簡単に割る事が大変だとお分かりいただけると思う。しかし、焼き上がった竹炭スティック(マドラー)は、そこまで厚みがないけれど...?不思議に思われた方は素晴らしい。実はこの厚みのある竹材が竹炭に焼くとギュッと濃縮されるかのように縮んで、このサイズになるのだ。




夏痩せ?決算セール

 
虎竹の竹林、竹虎四代目(山岸義浩)


連日暑い日が続いている、まだ7月上旬だと言うのに本当に先が思いやられそうだ。気温の高さに体調を崩される方も多い、食欲も減退するので夏痩せなんて言葉もある。ダイエットせねばならない自分などは「痩せる」と聞くだけで少し嬉しくなるけれど、竹屋には結構大変な「痩せる」があって、それが冬痩せだ。日本唯一の虎竹は伐採が秋から翌年の1月末までと決められているので、竹林や竹の山出しなどの仕事が冬場に集中して痩せてしまう程なのだ。


日本唯一の虎竹山出し


今年で創業128年を迎えさせてもらっている竹虎だが、冬から春が忙しかったせいで会社の決算は年度末ではなく7月だった。数年前に今の年度末決算にしてからは何となくセールはしなかった。皆様に日頃の感謝の気持ちをお伝えするのは、やはり暑い7月、七夕のある7月という思いがあり止めていた。今回、ひょんな事からやってみようとなって、久しぶりに「帰ってきた決算セール」として開催します。本日7月11日(月)正午から14日(木)正午までの72時間限定、少しだけお得です(笑)。


帰ったきた決算セール


それぞれ違う煤竹菓子楊枝

 
煤竹宝石箱


網代編みの巨匠・渡辺竹清作の煤竹宝石箱という作品がある。渡辺先生は100年の風雪を耐えてきた竹に新しい100年の命を与えたいと言われて煤竹にこだわり創作活動を続けて来られた。しかし、初めての方からすると100年の風雪?と思われはしないだろうか。


煤竹結界


竹がそのまま置いておくと100年もの長い間、形を保っている事はできない。煤竹というのは昔の囲炉裏の生活をしていた民家の屋根部分に使われていた竹の事なのだ。煮炊きする煙は食事や暖を取るためだけでなく、茅葺き屋根の防虫にも効果があるため、そこに使われていた竹も月日を重ねるごとに色合いが煤色に変わり古いものでは200年も経過している竹があるのだ。


煤竹菓子楊枝


囲炉裏の生活がなくなった今、このような竹が自然にできる事はないので非常に高価な素材であると共に数は少なくなっていく一方である。ところが、このような煤竹菓子楊枝など小さな竹製品が案外お求めやすいのは、作品製作の上でどうしても出てくる端材などを上手く活用しているからだ。


煤竹菓子楊枝


煤竹菓子楊枝


煤竹菓子楊枝


煙の当たりによって違う色合いも面白味の一つ。人の倍もの時間を生きてきた竹で食するお菓子は又格別なものになりそうだ。




竹の虫退治、熱湯消毒のやり方について

 
竹ピクニックバスケット


虎竹や白竹のピクニックバスケット、ランチボックスは四角形あり、長角あり、特大サイズ、二段になったもの、三段になったものと、お使いいただく方の人数やシュチエーションに合わせて色々とお選び頂けるようになっていて見ているだけでも楽しい。


チビタケナガシンクイムシの穴


ただ、多くの竹細工に囲まれていて毎年時期がやってくると気にしているのが竹の食害である。これは同じ角型でも祝儀籠と言って、婚礼が決まると鯛の尾頭付きを入れて持参するための竹細工だが、持ち手に小さな穴が開いて粉が噴出している。これは一番良く目にするチビタケナガシンクイムシの仕業だ。


竹の虫粉


店頭に置いてある竹製品よりも、自分が個人で保管するサンプルや試作も兼ねた竹籠も注意が必要だ。資料館以外でこんなに様々な素性の分かる籠(いつ、誰が、何処で、どんな竹で編んだものか)が集まっている所はないのではないかと思うが、それだけに定期的に見回っていると、このような虫が喰った跡を発見する。


力竹に空いたチビタケナガシンクイムシの小さな穴


十文字に入れられた力竹から同じ形に虫の粉が落ちている。屋外で使う竹垣や袖垣、あるいは装飾用の竹材には薬剤が使用される場合もあるが、竹籠やざるにはもちろん使用しない。それでは、どうするのか?熱湯処理である、一度や二度ではダメな事も多いので様子を見ながら根気よくやらねばならない。




ハッピーバースデーだろうか?かぐや姫

 
孟宗竹若竹


笹の節句とも呼ばれる七夕には、葉をゆらす竹をそちこちで見られるようになる。一般の方にとっては笹もも区別がつきにくいと思うので、そういう意味でも今日は竹とは縁の深い日である。しかし、全日本竹産業連合会が昭和61年に「竹の日」と制定したのには他に理由があって、何とかぐや姫の誕生日ではないかと言われているからだそうだ。


孟宗竹筍


ご存知のように竹取物語は、日本最古の物語で作者は誰かも分かっていない。だから日本全国に「この地こそ、かぐや姫の里」と名乗りをあげている市や町が何か所もある。1000年以上も前から伝わるお話しなので生誕地に決着がつくことはないかも知れないが、ロマンを感じるし各地にそのような伝承がある事自体が日本人と竹との深い繋がりを思わせる。


孟宗竹若竹


かぐや姫生誕については確かな事は分かっていないけれど、ひとつ確実なのは竹取の翁が見たような光輝く竹は現代にもあるという事だ。筍が竹皮を脱ぎ棄てながらグイグイと大きく成長していく、竹になったばかりの孟宗の若竹には細かい産毛が生えていて竹林に入れば白く光って見える。


雨の孟宗竹


それが更にどうだ、雨模様の竹林では薄暗く鬱蒼とする中にあって、竹の内側から何かが照らしていても不思議でない程に輝いている。雨天で竹林に入る者は少ないので案外と知られていないが、雨の竹林も幻想的で美しい。


竹林と太陽


「なるほどこの光り輝く孟宗竹が、かぐや姫が生まれた竹なのですね」声が聞こえてきそうだ。いやいや、実はそうではない。いつも30年ブログをご覧の方はご存知の通りだが、関心のある人がおられたらYouTube動画をどうぞ(笑)。




山葡萄長財布を作る職人

 
山葡萄長財布


長く使えば使うほど風合いの増す山葡萄だから、毎日手にする頻度の多い財布は結構早くに渋い色合いになるので楽しみだ。丁寧に材料取りされた素材感は手にした感触も優しくスベスベなので、初めて持った方なら暫くの間手放すことができないのではと思ってしまう程だ。


野葡萄長財布職人


今回は、あまり見ることのない山葡萄長財布を製作する職人の仕事の一部をYouTube動画で紹介させてもらっている。元々強い素材ではあるが、それも少しづつ編み上げる手仕事があってこそ一つの役立つモノとしてあるのだと言うことが、良くお分かりいただけると思う。


山葡萄財布製作


編み方の違う山葡萄財布


左右の長財布は素材の色合いが濃淡あるけれど何処が違うかお分かりだろうか?その通り、編み目が異なっている、しかしそれだけで二つの財布から受ける印象は随分と変化するので面白い。




どうして半額?夏に似合う白籐手提げ丸輪持ち手買い物籠

 
白籐手提げ丸輪持ち手買い物籠試作


籐手提げ籠につきましては、先月に底編みから持ち手を取り付けるまでをYouTube動画にアップしている。時間のかかる手仕事の一端をご覧いただけたと思うが、実は現在販売させて頂いている染籐の籠を今後は少なくしていき白籐に切り変えていく予定だ。




そこで何個か試作して頂く中で、非常に出来栄えのよい買い物籠が出来たのでお気に召される方がおられれば安価にお分けしたいと考えている。


白籐手提げ丸輪持ち手買い物籠


またまた例によってYouTube動画でご紹介することにしたので是非ご覧いただきたい...と、30年ブログを書いている間に完売してしまったようだ。それぞれ1個づつしかなかったので申し訳ございません、次回から定番予定の白籐買い物籠の編み上がりにご期待いただきたい。




王様の渦巻円座の作り方

 
七島藺渦巻円座職人


七島藺(しちとうい)の事は夏前から何度かお話しさせて頂いてきた。とにかく350年の歴史があり、同じ畳表として使われるイグサの数倍の強さと耐火性がありながら、機械による大量生産に向かない事から衰退してきた素材なのだ。


七島藺渦巻円座製造


現在では10軒足らずの農家さんが栽培するだけで、多くは流通していない。しかし琉球畳と聞けば高級な畳として憧れている方は多いと思う、実はこの琉球畳の素材がかっては七島藺だったそうだ。


円座


だから初めて見て本当に驚いた七島藺で作られる渦巻円座が、どうやって作られているのかを見たいとずっと思っていた。縄編みの円座の仕事も素晴らしく、座った感じも絶妙のクッション性があり涼しくて大好きだったが、この渦巻円座は少し特別な印象を受ける。


七島藺渦巻円座


この角度から見ると一体何なのか?と思ってしまうが、さすが一畳分の材料を使うと言うだけあって貴重な七島藺が贅沢に使われている。


七島藺渦巻円座作り


七島藺渦巻円座、わろうだ


この七島藺渦巻円座の編まれていく様子をご覧いただくと、王様気分がさらに高まるようだ。湿気の多い夏場は製造していないので、あまり多くの方にお使いいただく事は叶わない逸品だ。




塩取り籠の思い出

 
安和川


先日の30年ブログで塩取り籠の事をお話しさせていただき、YouTube動画もご紹介させてもらっていた。動画を撮影するにあたって小さい頃に、虎竹の里の山や竹林、流れる谷川や海で遊んだ事を色々と懐かしく思い出した。そして、そう言えばほんの数十年の事なのに大きく変わった事のひとつに川の水量があると改めて考えている。どうした理由だろうか?山の保水力と言っても、当時から山の木材を沢山伐り出しているという事もない。


虎竹の里


しかし、自分の小さい頃には一年通して豊かな水の流れがあり、夏場は海よりも川で泳いだ記憶がある。ドラム缶を縦に沈めて足場にしていたので深さも結構あったはずだ、そうそう竹筏で川下りをして、そのまま海に出た事もあった。あまりに楽しくて、雨の日でも傘をさして海で遊んでいた。海で雨が降ると景色が全く違う、視界が悪くなる事もあったので今思えば少し危険だったかも知れない。筏だけではない、竹虎の工場に転がっていた2~3メートルの孟宗竹を股にはさんで一人筏で競争したこともある。


塩取り籠


海があり、山があり、川がある大自然の中、鮎やハヤ(ウグイ)、鰻が沢山いて、鰻については筌で毎朝捕っていた話を時々するけれど、小魚は手づかみした事もあるので、それだけ魚影が濃かったのだ。塩取り籠の動画で思い出しのがタンナ(ヤマトテナガエビ)だ。「チャン」をご存知だろうか?恐らく今でも使われているかと思うが鉄砲の形をした魚突きで、これを使って競うようにタンナを捕った。


焼いたら真っ赤になってアツアツが旨い。これに海水を煮詰めて塩を作って食べようと相談した事があったのだ。浜辺に転がっていた鍋で海水を沸かして水分がなくなってみたら確かに塩は残っているのだが、鍋にひっついてしまって想像とは随分と違っていた。こうならない為に竹編みの塩取り籠があるのである。まあ、その時は塩の結晶らしきものをこそげて何とか食べたが、その時の記憶はない。友人のお姉さんが台所のコンロで焼いて楊枝に刺してくれたタンナは味の素でも振りかけていたのか、とても美味だった。


若竹と古竹で編む根曲竹細工

根曲竹買い物籠


東北では「真竹より篠竹、篠竹よりスズ竹、スズ竹より根曲竹が奥が深い」と言われる事を先月の30年ブログでお話しした。おそらく根曲竹の堅牢さと丈夫さに加えて、何とも言えないツヤと輝きが出てくる事がその理由かと思われる。 


根曲竹細工


それともう一つが若竹と古竹を上手に使い別けている事もあるかも知れないと最近思っている。若竹は、その年に生えた新しい竹でまだ柔らかく、しなやかで使いやすい素材となる。古竹と言っても2年竹や3年竹の事だが、新竹のように柔軟性はなくなりつつある代わりに非常に堅牢なので芯や力竹、持ち手部分などに使うには持って来いなのである。


根曲竹籠


篠竹もスズ竹も新竹を使うけれど、いくら古竹でも根曲竹の強さには遠く及ばない。そうやって考えれば確かに根曲竹ほど秀逸な竹素材は他にないのかも知れない。