日本の竹が危ない!各地の竹林から異変の声

日本唯一の虎竹


自分達が虎竹の異変に気付き始めたのは、15年位前からだろうか?虎竹の色づきがどうも芳しくない、しかし急激な変化ではないので、どうやら言われ続けている温暖化の影響ではないかと気づくまでに時間がかかった。


竹炭化窯


自然界の変化は、虎竹でなく孟宗竹や真竹など日本三大有用竹と呼ばれ竹業界で多用される他のでも同じように感じられている。その一つが害虫被害の多さだ、竹林や製造現場に近い所ほど悲鳴を上げている。そこで、食害を少しでも防ぐために現在、最も効果的な方法として使われているのが炭化加工なのだ。


孟宗竹


伐採しただけの自然な孟宗竹を炭化加工すると...。


炭化孟宗竹


高温と圧力で蒸し上げるような形になるので、このような茶褐色に変色する。




竹は糖分が多く、デンプン質も含んでいるから炭化加工らよって食べても美味しくないように蒸し焼き状態にして、それらを取り除いている。


炭化竹、箸材料


こちらは炭化加工した竹箸の材料、良質でこのような厚みのある竹材は最近では少なくなって貴重品。しかし、チビタケナガシンクイムシやヒラタキクイムシなど竹が大好きな害虫からすれば絶好の食材なのだ。せっかくの材料をこうして置いておいて気が付くと虫が喰っている事があり、消費者の皆様には見えないけれど実は竹材が無駄になり、コスト高や製造量の減少はここ数年で急増している。


炭化箸製造


しかし、虎竹のように伐採時期をしっかり管理していても、高温で炭化加工しても防虫対策は万全ではない。竹林からの異変の声が全国各地から届いている、特に広大な竹林面積のある九州では顕著のようだ。一体何が起こっているのか?この目で確かめたい。





青竹酒器と山の職人と竹林と

青竹酒器


こんな日が来るのではないかと思っていた。夏の冷酒用としてファンも多かった青竹酒器を今年は確保できなくなったのだ。この30年ブログ「竹虎四代目がゆく!」では何度が申し上げているが、青竹とは真竹の事で瑞々しい色合いが気持ちいい、この青さは日本人に親しみがあり、大好きな色だと思う。


青竹酒器


同じ頃合いの太さの竹に淡竹(ハチク)があるが、竹表皮にロウ質の被膜があってこのような美しさはない。ところが、案外知られていないけれど、こうして真竹を酒器や料理の演出に使う場合には竹を生鮮野菜のように扱わねばならない。と言うのも、真竹の青さは抜けやすく切り口からみるみる変色して白くなってしまうからだ。


青竹酒器


切り口から見える身の部分の白さは、表皮の青さとのコントラストで素晴らしいのだが、竹肌の青さが白くなってしまうのは興ざめでしかない。だから、青竹酒器はお客様にお届けする日時合わせて伐採する。一本の真竹が無駄にならないように元の太い部分で酒器を、ウラ(先端)の細いところで盃を作っている。スピードとの勝負と言わんばかりに、出来るだけ乾燥に注意しながら素早く進めて配送せねばならない。


青竹盃


竹林を伐採する職人が高齢化し、良質の竹材が減っている中で思えば今までよく続けられたとも言える。本来、一回限りの使用しかできない贅沢な器であったけれど、これからは更に難しくレアな酒器となりそうだ。



竹刀の真竹

竹刀用真竹


子供の頃、虎竹の里ではチャンバラごっこと弓矢作りが盛んだった。山出しされる竹が大量にあって選別作業に追われていて、刈り取られてレンゲの花が一面に咲いていてる田んぼにまで虎竹が広げられていた。あちらこちらに竹の端材が落ちているので、刀や弓の材料に事欠かなかったからである。チャンバラなら、そのあたりの切れ端で良かったけれど、剣道の道を極める達人たちの道具となれば、そうはいかない。


竹刀用真竹


竹刀なども輸入品が多くなっていると聞いていた。学生時代に剣道部の友人から竹刀を借りた事もあるが、そう高価なものではなかったので、きっと海外からのものだと思っていた。けれど、実はこだわりの竹刀はやはり国産のものがいい。竹は身の厚さから孟宗竹だと思われる方もいるかも知れないが、実は真竹の元の部分だけが使われている。繊維が緻密でしなりもあり、割れやささくれが少ないからだが、こんな大きな真竹を揃えるだけでも本当に凄い事だ。


竹刀用真竹


そう言えば、別の竹屋さんで竹刀用の竹材をメーカーの方が来られて選別されているのに出くわした事がある。思い出せば確かに厳しい選りようだった。


竹刀用真竹


竹の厚みはもちろん節間の長さまで決まっている、良質の竹だと思って伐採しながらも使えない竹はかなり多いと思う。その上、竹刀には重さの測定があって軽い竹は使用できないから更に難しい。現在、真竹にはテング巣病が蔓延しているので、その影響も少なからずあるだろう。


竹刀用真竹


二階に大事に保管されている竹材を見上げてみる。通常なら竹の晒しには少量の苛性ソーダを使うが、それすら入れず湯抜きした、まさにこだわりの竹材だ。努力の結晶などと言えば、ありきたりに聞こえそうだが、この何倍もの竹からようやく出来あがった竹刀の材料たち、しっかり縛られて束になった状態で乾燥されながら竹刀になる日を待っている。



黒竹を使った国産竹箒

竹箒


竹箒も皆様に馴染のある竹製品のひとつだ。身近にあるので、普段はあまり考える事もない日用品でもあるが、海外からの輸入品ばかりで現在では国内で作る職人も本当に一握りしかいない。外国製に比べて国産箒は竹穂が強く耐久性もあって一部のお客様からは評価が高いものの、製造数は年々減っている。


孟宗竹


職人の高齢化はもちろんあるけれど、箒には今となっては貴重品である竹の穂が使われているから材料不足の側面も大きい。案外、考える事がないようなので説明すると、箒の先に使われている竹枝は箒用に伐採している訳ではない。孟宗竹を伐採して稈を山出しした後、枝打ちされて竹林に残った副産物の竹穂を有効活用して作られてきたのだ。


黒穂


この画像の竹枝は、黒穂と言って黒竹の枝なので高級品だ。黒竹を大量に伐採するからこそ多くの枝が集まっていた。当時は10トン車に山積みして運んでいたのだが、かさ張る竹枝を専用の型にはめて5貫(約18.75キロ)束にするのに職人4人がかりで何日もかかっていた事を思い出す。


孟宗竹枝


箒に使う竹穂は、このような孟宗竹の竹枝だ。何となく知っているようで、このような素材が箒になると言うのは実際にご覧いただくと良くご理解いただけると思う。先の黒竹のように孟宗竹の枝も同じ理屈で、竹を伐らないから材料は集められない。


箒の柄


竹穂が少なくなり、日本製箒に希少価値が付いてきたので柄も昔のようにB級品の虎竹を油抜きもせずに使うような事はしなくなった。しっかり持ちやすい頃合いの黒竹を使う、思えば少し前なら考える事もなかった変化ではある。





孟宗竹のシミ、竹林の荒廃、竹の開花、そしてテング巣病

建仁寺垣


模様が入っているように見えるこの竹は虎竹ではない。孟宗竹を湯抜きして天日干した建仁寺垣と言う伝統的な竹垣の材料となる竹材だ。本来なら真っ白い竹肌なはずなのに、ご覧のようなシミができてしまっている。以前の竹ならほとんど見られなかった、このような症状には理由がある。


竹林の荒廃


多くの方が誤解している事をまずお話ししたいが、日本の森林に占める竹林割合は皆様が思われているよりもずっと少ない。約16万haと言うから日本の森林面積の0.6%程度なのだ。それなのに竹林の荒廃がこれだけ言われるのは、里山をはじめ人の暮らしの近くに竹林が作られてきたからに他ならない、つまり目立っているのだ。


竹の開花


古くからは軽く、丈夫で加工性も高い事から身近に植えられて人の生活に欠かせないものだった。ところが、竹が使われなくなった事で手入れされない竹林は竹藪へと変わった。


竹の花


これは、虎竹の里からも近い土佐市の孟宗竹の花である、イネ科らしく竹の花はまるで稲穂のようだ。しかし、現在120年に一度の竹の開花の時期を迎えているのは淡竹(ハチク)だ。数年前から日本各地で見られるようになっている、皆さんの近くの竹林でもそのような場所があるのではないかと思う。竹林全体、あるいは一部が白く立ち枯れしているように見えたら竹が開花した後の可能性が高い。


テングス病


淡竹の開花に合わせるかのように真竹にはテングス病という病気が広がっている。竹の花と似ているので間違える方もおられるように竹の覇気がなくなり異様な光景でもある。


テング巣病


古老に聞くとテング巣病になった竹はすぐに伐採して焼き捨てていたと言うが、この病は日本中の真竹に広がっていて、テングス病でない竹林を見るのが珍しいくらいとなってしまい手が付けられない状態だ。


巨大な孟宗竹


気候変動が竹に与える影響も15年くらい前から感じてきた。30年来、孟宗竹を多く扱う職人さんに会うと、何と孟宗竹は温暖化によって段々と大きくなっているとも言う。大きい事は良いことにも思えるけれど、竹質が変わってきているのではないだろうか?近年の害虫による被害の多さを考えて妙に納得する。


虎竹の竹林


このように竹は大きな節目を迎えている。それなのに、竹林の異変はあまり認知されてはいない。日本全国で各地の竹林に足を運び、山の職人から、竹材を扱う職人、竹籠を編む職人と会ってきた、竹を毎日触っているのに竹林の変化にあまりに無関心なのに驚く事もある。これから良質の竹材が少なくなれば、価値が見直され、竹林にも光が当たってくるのではないかと期待している。


竹の様々な呼び名について



本日はまず、こちらのYouTube動画をご覧いただきと笹の違いについて大まかに知ってもらえたらと思っている。違いと言っても日本に600種類もあると言われる竹と笹、実は明確に区別をつけるのが難しい。


メゴ笹


区別を複雑にさせている理由のひとつに呼び名の多さがある。例えばこの高知ではメゴ笹と言う洗濯籠などに多用してきた竹はオカメ笹や神楽笹など良く聞く別名ではあるが、他にもイッサイザサ、イナリザサ、イヨザサ、オサンダケ、カンノンザサ、チクサクザサ、ソロバンザサ等多数の名前があるようだ。


篠竹


篠竹とスズ竹も混同されている職人さんがいる、しかしこれには理由がある。分業制で仕事を進めてきた竹細工の場合、竹材を割って持ち運びしやすい竹ヒゴの状態で編み子さんに届ける事も多かった。篠竹とスズ竹は、性質の似た竹なので細く割ってしまうと、どちらか区別はつかなくなるのだ。


マダケ(矢竹)


ただ、似かよった竹だけでなく全く異なっているはずの竹の名前で呼んでいる事もあるから竹の世界は深い。対馬のタカゲを編む素材は矢竹なのだが、職人さんたちは、この竹をマダケだと言う。


真竹


真竹と淡竹(ハチク)も一般の方には区別はつかないかも知れないが、これらの竹を使って籠にするとなると竹質や見た目はかなり違う。だから、さすがに真竹と淡竹は無いだろうと考えていたが、まだまだ甘かった。真竹をハチクと呼び伝統の青物籠を編む職人さんに出会った。だから竹は面白くてやめられない。


竹も温泉好き?

竹材湯抜き


湯気のモウモウと立ち込める温泉に気持ち良さそうに竹が浸かってる訳ではない。実はこれは「湯抜き」と言って竹の油成分を除去する製竹ではとても大切な行程だ。こうすうる事によって竹は美しさを増して、耐久性も高まる、お湯で油抜きする事を湿式、虎竹のようにガスバーナーや炭火でする事を乾式と呼ぶ。


湯抜き釜


湿式は大量に製竹できるのだが、長い竹材を入れるための大きな釜が必要で比較的大がかりな設備が必要であるし、燃料を焚いて煙も出る事から工場は年々減っていて今ではこれだけの大がかりな工場は数えるくらいしか残っていない。


真竹の原竹


竹林から伐り出された真竹が積み上げられている。もちろん、このまま青竹細工として使う場合もあって、青竹そのままの籠というのも清々しい雰囲気もあり、経年変色も美しい。


晒し竹


竹虎でも少し前までは白竹も沢山使っていたので自社で湯抜きをしていた。このように天日干しされた竹を見ると、寒風にたなびく煙突の煙は、冬の風物詩のひとつともなっていた事を思い出す。


白竹八ツ目角籠バッグ


天日に晒しているうちに白く変色して白竹は出来あがる、天日に晒すから晒し竹とも呼ぶ。白竹も晒し竹も呼び名が違うだけで同じ竹の事であり、その竹を使って編まれるのが白竹角籠バッグのような竹製品だ。ただ、白竹でも湿式と乾式があると話た、実は乾式の方が経年変色がより綺麗で、丸竹のまま使う場合の耐久性にも差異があるが、それは又の機会にしたい。




真っ直ぐな根曲竹

根曲竹、竹虎四代目(山岸義浩)


根曲竹という竹がある、竹と名前が付いているものの笹の仲間で直径にすると2センチもないような細い竹だ。しかし、小さいとは言え名前の由来通り、根元が曲がるほどの雪の重みを耐え忍び鍛えられた竹だけあって、非常に堅牢な竹材だ。曲がっていると聞くけれど真っ直ぐだと思われかた方、実はこの竹は火を入れて曲がりを矯正している。


竹根


「根曲竹」と小さい頃に聞いた時には、このような竹根を連想もしていた。もちろん、竹根とは全く関係ないけれど共通点は、どちらもかってはステッキや竹杖などに使われていた素材だと言うことだ。日本の竹根ステッキを喜劇王チャップリンが愛用していたのは有名な話、竹根のゴツゴツした見た目も格好イイけれど根曲竹の杖のシャープさも素晴らしい。


根曲竹伐採


根曲竹の竹林に入ると横倒しになったような竹がいっぱいだ。なるほど、これほど厳しい自然の中で逞しく育つ竹は珍しいと思う。


根曲竹製竹


根曲竹の根元部分の曲がりを除けば、他の篠竹や矢竹などと同じく真っ直ぐに伸びている竹だ。


根曲竹、竹虎四代目(山岸義浩)


しかし、それでも当然曲がりはあるので矯め直し根曲竹。軽さと丈夫さを兼ね備えた特性を活かした新しい製品にできないかと模索している。





輸出用の黒竹の釣竿

黒竹玄関すのこ


先週の30年ブログ「竹虎四代目がゆく!」で黒竹のお話をさせて頂いた。竹の事については、ほとんどの方があまりご存じないので実はお問い合わせは少ないのだが、やはり黒竹は少しだけ知られているのだろうか?高知特産の竹とは知らなかったとお便りをいただいた。


日本唯一の虎竹の陰に隠れて目立たないけれど、実は黒竹も地元特産として60年前にはフランスやオランダなどヨーロッパ諸国に釣り竿として輸出されて外貨の稼ぎ頭だった。意外に思われるかも知れない、しかし当時の取引先は国内よりもむしろ海外が多かった。


黒竹伐採


昔の事を思い出したのも、「須崎市 昔の記録」として公開されているYouTube動画で黒竹釣竿の製造を観たからだ。昭和39年にテレビ放映された動画なのだが、そこには当時の山岸竹材店が写しだされていて、忙しく働く社員の皆さんがいる。竹を満載にした三輪車が、曲がりくねった山道のような国道を走る。輸送の花形だったのは、国鉄の貨物列車だ。時間通りに走る汽車に間に合わせるため24時間操業で3交代制だったと言うので凄まじい時代だ。


300haだから東京ドーム約64個分と言われる竹林は今でも変わりないが、年間5万束もの生産量は圧倒的。今の自分たちとは全く比べものにならない。




再発見!孟宗竹の魅力

 
孟宗竹


師走のニュースを見ると門松を作っている様子が映っていたりする。年々、正月らしい特別な気分も薄れつつあるが、このようにが主役となり登場する季節はやはり新しい年を迎えるのだという少し気が引き締まる思いがする。門松に使われている竹は青々として画面を通してさえ気持ちがいい。使われている竹は立派な真竹である、あの青さ、ハス切りされた身部分の白さは誰もが心地良く感じられる色の取り合わせだろう。


孟宗竹


全国的にみれば竹林面積の中では真竹が6割を占めていて圧倒的に多いのだが、自分たちの虎竹の里は当然ながら虎竹(淡竹の仲間)ばかりで真竹はほとんど皆無に近い。そこで、かつて門松を大量に製造していた時には真竹ではなく孟宗竹を使っていた。袖垣の芯に孟宗竹を使うので、県下より伐採された竹材が連日トラックに満載されて運ばれて来ていたから、それこそ孟宗竹なら太いものから細目のものまで何でも豊富にあったのだ。


孟宗竹


こうして何度も孟宗竹と言っているけれど、どんな竹か分からない方もいるかも知れない。一般的に「竹」と言えば真っ先に思い浮かべられるのは、真竹か孟宗竹だが孟宗竹は日本最大級に太く、とにかく大きい。京都嵐山等にある手入れの行き届いた竹林は主に孟宗竹だ、サイズだけでなく良くご覧になればなるほど美しく魅力的な竹である。


孟宗竹


大陸から日本に渡ってきた江戸時代には、武家の庭でステイタスシンボルとして競って植えられたように風格と共に品性まで感じる竹だから手入れされた竹林では半日過ごしていても飽きることがないくらいだ。


竹葉


美味しい筍のために広げられた竹林が多いものの現在では誰も管理する事かできなくなり、放置竹林などと不名誉な呼び方をされる悲劇のヒロインでもある。しかし、大きい竹だけにしっかりと管理すれば、これほど人の心を動かす美しい竹林となる。