油抜きで生まれる虎竹の輝き

 
日本唯一の虎竹


虎竹茶を飲まれた方は自然な甘い香りに驚かれるけれど、竹虎の工場に来ると更に同じ甘い香りに気づかれると思う。ガスバーナーで油抜きの加工をしていると仕事場の入り口に入った瞬間に香ってくる。いつだったか、初めての場所で車から降りたら竹の香りがして、高い塀の向こうに竹屋があると確信した事があった。それくらい特徴的な香りなのだ。


虎竹油抜き


虎竹


炎によって磨かれた虎竹の輝きは、元々の竹が持っていた油分。竹林に生えている時には表皮部分を淡竹ならではのロウ質が覆って白っぽく見える虎竹が、まさに本来の自分らしさで光だした瞬間だ。


虎竹、tigerbamboo




牧野富太郎博士「植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう。」

 
牧野富太郎博士生誕160周年の高知新聞


「植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう。」先日の4月24日に生誕160年を迎えられた高知出身の世界的植物学者、牧野富太郎博士の言葉です。この日の地元高知新聞は、牧野博士の大好きだったという桜の花が印刷された新聞カバーとでも呼ぶべきでしょうか?初めて見るような特別バージョンで誕生日をお祝いされていました。


虎竹の里


実は土佐虎斑竹の名前を命名されたのは牧野博士でした。それが1916年(大正5年)の事で、当社初代宇三郎が大阪天王寺の工場にてヨーロッパへの輸出材として虎竹製造を開始したのが、その前年の1915年です。二人は当時何もなかった虎竹の里に、竹という目的を持って他の土地から出入りしていた数少ない人間でしたので何処かで出会っているのではないかと思っています。


虎竹の竹林


土佐藩政時代には「憐れむべき浦にて候」と時の代官が書き残しているくらい当時の安和(あわ)地区は漁業に適した港を持たず、農地も少ない貧しいドン底の集落でした。若い頃、土地の名前の由来に興味を持って調べていたら須崎と久礼という大きな町の間という意味だと書かれていましたけれど、本当は「憐れむべき」の「アワ」から来ているのではないか?と土地のお年寄り達は笑います。


唯一の珍しい模様の浮かびあがる虎竹を年貢の代わりに献上して何とか苦難を乗り越えていた諸先輩にとって、山や竹林の価値は今では考えられないほど高く部外者が立ち入れる場所ではありませんでした。自分の小さい頃には山に向かう人や車は沿道の民家によってチェックされていて、見慣れない場合には追いかけて声をかけるような光景が見られていました。


日本唯一の虎竹


牧野博士も長い年月に渡り何度か虎竹の里を訪れられているようですし、竹虎初代宇三郎は竹伐採シーズンには長期滞在していましたので、閉鎖的な地域で同じ虎竹に引き寄せられた者同士の交流があったのは自然な事のように思います。


土佐虎斑竹


いずれにせよ牧野博士の100年も前の言葉が、今を生きる自分達に大きな教訓として胸に突き刺さります。「植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう。」




霜が下りると虎竹が色づく

虎竹


「霜が下りると虎竹が色づく」、虎竹の里では昔から古老や山の職人が、こう話していました。実はあまり深く考える事もなく毎年の虎竹伐採を迎えていたのが特にこの数年の気温の変化で、土地の言い伝えのような言葉に真実味を感じています。


竹林の虎竹


虎竹は淡竹(はちく)の仲間で白い蝋質部分の下に虎模様が隠れています。そこで美しく耐久性の高い虎竹に加工するために熱を入れて、竹自身の余分な油分を炙り出し竹表皮を磨いて艶をだすのです。


虎竹油抜き加工のガスバーナの炎


虎竹は高温の窯に入れた瞬間に色付が変わります。それぞれの竹の太さ、性質、乾燥具合により調整しながら油抜きしたばかり竹は生まれたけの赤ちゃんと言えます。


竹虎工場


まだ湯気が立ち上っている虎竹です。


虎竹油抜き作業


竹は意外に曲っていますから竹の矯正作業をして矯め直す事があります。その場合も、この熱が非常に大事になって、熱いうちに曲げを矯正していきます。


竹虎四代目(山岸義浩)


竹は南方系の植物なので暖かい方が良さそうに思われるかも知れません。しかし、同じイネ科のお米も寒暖の差で美味しくなりますし、昔から品質が良いと職人に好まれる竹は実は冬の寒さが厳しい地方のものです。


加工したばかりの虎竹


今年は比較的寒さが続きましたので、有難いことに色付が良い竹が見られます。それでも、この中央に立てられた竹の右左で色づきが違うのがお分かりでしょうか?虎竹を土場で一本づつ選別し、工場に運ばれた竹の中でも色づきはこのように随分違うものなのです。




虎竹の里の竹、2022年

 
虎竹、tiger bamboo


1月末までしか期間のない虎竹の伐採シーズンが終わり、静けさを取り戻した山道を行くとついこの間まで伐り出された竹が立てかけられていた事を思い出します。虎竹の色付は、大学の研究者の方によると土中にある特殊な細菌の作用と言われているものの実はハッキリした事は解明されていません。日当たりや潮風など複雑な自然環境が絡み合って生まれる奇跡の竹だと思いますが、気温が虎模様に関係しているのは間違いないようです。


虎竹、tiger bamboo


山の職人は年をとって引退された後も竹林が恋しいのでしょう、積み込みの現場で座っていたり、土場の選別作業の仕事をしている所に自転車でやって来たりしていました。そんなお年寄りが口々に「虎竹は霜が下りると色が来る」と話していたのです。


虎竹、tiger bamboo


昔は根拠のない土地の言い伝えだと思っていたところ、近年の温暖化がはじまると同時に虎竹の色付の変化が現れはじめ古老の言葉が真実であったのだと知ります。竹はイネ科だといつもお話させて頂いています、お米は寒暖の差で美味しくなりますから同じイネ科の竹の品質や色付にも気温は密接に関係しているはずです。


虎竹、tiger bamboo


3月に入り今日などは好天で日当たりの良い所で動いていますと暑いくらいです(笑)。けれど昨年からの大型寒波で凍霜害が報じられるくらいの寒さがあり、この冬も気温が低く虎竹の色付は例年比べて良い竹林が多く嬉しくなりました。


虎竹、tiger bamboo


先程の画像の切り口や立てかけている竹をご覧いただくとお分かりいただけるように虎竹は皆様が良く目にしている孟宗竹のように太い竹ではありません。しかも同じくらいの太さである真竹と比べると節間が短いので竹細工に使う場合には結構な苦労があります。


虎竹、tiger bamboo


それでも多くの人を魅了しつづけているのは、この色合い。100年前に遥々と大阪天王寺からやって来た初代宇三郎が惚れ込んだ竹です。




火抜きと湯抜きの白竹について

 
真竹、白竹


お客様からお問合せを頂きましたので、竹の油抜きについて改めてお話ししたいと思っています。そもそも竹は、青竹のまま使用すると表皮の退色もさる事ながら耐久性が高くありません。青物細工の竹籠や竹ざるが長く使えるのは、竹の一番丈夫な竹表皮部分か、それに近い部分を薄く剥いで竹ヒゴにして編み上げているから強度が保たれているのです。丸竹そのままですと、いくら旬の良い時期に伐採していてもカビや虫の原因となります。そこで、丸竹のまま使える竹材にするために竹に含まれる余分な油成分を取り除く「油抜き」という加工をするのです。


火抜き加工


油抜きの方法には乾式と湿式、つまり火を使って直接に竹を炙る方法と、熱湯に竹を入れて熱を加える方法があります。火抜きにも其々やり方があって、昔は炭火で加熱して油抜きをしていた銘竹店では一本一本丁寧に火を入れ竹から浮き上がってくる油分を丁寧に拭き取り磨いています。こうして竹は強さと美しさを兼ね備えた素材となるのです。


真竹の湯抜き加工


一方、沢山の竹を束ねて熱湯に入れ一気に油を抜いていく方法もあります。竹虎でも、このような真竹の湯抜き作業は冬の風物詩のひとつでした。白竹の需要減少と共に製造は続けられなくなりましたが、今でも湯気と竹の香りの混ざる湯抜きの仕事は目に焼き付いています。白竹を晒竹(さらしだけ)とも呼びます。湯抜き直後の竹は黄色みを帯びた色合いなので、寒空の天日に当てて白竹特有の色合いにしていきますが太陽の光に晒すので晒竹です。


白竹花器、花入れ


白竹ピクニックバスケット


火抜きも湯抜きの竹材も同じように白竹と呼ばれています、ところが同じ白竹とは言え、経年変色が全く違ってくるのです。少し分かりやすい極端な二つを用意しました(笑)、上の丸竹一輪差しが火抜きの白竹で、下のピクニックバスケットが湯抜きの白竹です。色合いで言うとこれだけの違いがありますから、人により好みはありますものの自分などは、改めて火抜きの良さを思ってしまいます。自分たちの虎竹も当然油抜きをしています、そうする事により独特の虎模様が竹表皮に浮かびあがるのです。油抜きは火抜きですがガスバーナーで豪快に釜の中で火を回して一気に熱を入れていくのが、いかにも高知らしいやり方です。




母と虎彦さん「虎の子」

 
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「雲龍風虎」とは、龍のいる所には雲が沸き起こり、虎のいる所には風が吹きすさぶという意味です。その昔、仙台藩城下では奥羽山脈から吹き降ろしてくる風によって大火事が度々あったそうで、この故事に習い火消組に火伏せの虎舞を舞わせると火事が治まり東北各地で伝わったと言われます。


この虎舞に感動して店のシンボルマークに使われているのが宮崎県延岡市の老舗和菓子屋「虎彦」さん。2022年の寅年の合わせて11年ぶりに復活させた、かるかん虎の子というお菓子には昨年末にお届けさせてもらった虎竹を写真撮りされて、そのまま専用箱に印刷いただいています。


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沢山のお客様の声にお応えして11年ぶりの再販売となった虎の子ですが、虎彦さんが外箱にまでも虎に関わるものを探し出し、使われるという凄いこだわりを感じます。そして、実は一番最初に竹虎から竹を送らせてもらったのは何と36年も前の事!虎の子を初めて世に出した時に使って頂いていたのでした。父や母も現役バリバリの頃の話、新春に届いたお菓子を一番喜んだのは両親でした。




虎彦さんの「虎の子」が届きました!

虎彦さん虎の子


昨年からずっと待ち続けていた虎彦さんの「虎の子」が届きました!なんと11年ぶりの復活との事ですが、寅年に虎彦さん(以前は虎屋という名前でした)が虎豆を使い作った虎の子。虎舞と当社の虎竹のデザインをパッケージに活かして、まさに虎づくし、虎が六つも揃った2022年寅年にバッチリのお菓子なのです。


虎彦さん虎舞


包装紙を開けて目に飛び込んでくる格好イイ虎舞の切り絵!昭和62年といいますから36年前の寅年正月2日に新発売されたそうです。その時にも虎竹の里から虎竹を送らせていただき、パッケージ用として写真撮りしてお使いいただいておりました。


虎彦さん虎の子パッケージ


ところが、この虎の子は製造に手間がかかり採算が合わなかったとの事です。その後、20年ほどは販売できずにいた所、お客様からのご要望が多く今年の寅年のあわせて製造再開となり、何と36年ぶりに虎竹をお届けさせてもらったという事なのでした。


虎の子だより


この平成9年に発行されました虎彦さん(当時は虎屋)の、かるかん「虎の子」誕生うら話を拝読した時には心が躍りました。和菓子という全く違う世界の店舗様ですけれど、こうして自分たちの同じように虎にこだわられていて、36年経った今でも忘れずいて下さり、再び同じように虎竹をご用命いただけるとは本当に感激だったのです。


日本唯一の虎竹


100年前に竹虎初代宇三郎を魅了した虎竹、ずっと繋がっています。




来る寅年に、虎竹に虎文字を一刀彫した御守り

 
さぬき竹一刀彫「虎竹御守り」


さて、今年もあと4日。やってくる2022年の寅年は何といっても「風は虎に従う」という故事にあるように、大きな変化の風で世界中を覆っているモヤモヤした雲を吹き飛ばしてらいたいと思います。そんな願いも込めて、さぬき竹一刀彫で黄綬褒章も受賞されている西村秋峯氏に日本唯一の虎竹に虎の文字を彫り込んだ御守りを作っていただきました。


西村秋峯氏


西村秋峯氏の竹一刀彫の技は以前にYouTube動画でもご紹介させてもらっていますので、ご存じない方は是非一度ご覧ください。彫刻刀一本で太い孟宗竹に描かれるがごとく刻まれていく様子はずっと観ていても飽きません。




さぬき竹一刀彫「虎竹御守り」


せっかくなので何人かに配って差し上げようと思いお願いすると、次々に虎文字を彫り入れた御守りが出来上がります。


西村秋峯氏


香川県指定伝統的工芸品のさぬき竹一刀彫の伝統や、西村秋峯氏の神業のような細かい彫などを知っていただきご関心を持つ方が増えればとも思いますので、御守りは少し多めに用意いただいて来春早々に何かの形でご紹介できる機会を持ちたいと考えています。


さぬき竹一刀彫の虎


虎が吠えています、まさに「虎嘯風生(こしょうふうせい)」虎うそぶけば、風生ずとは、優れた才能の人が機会を得て活躍するチャンスの事を言っているそうです。自分はもちろんの事、皆様一人一人にとって、そんな寅年になればと思います。


日本唯一の虎竹伐採2022

 
虎竹伐採


今年も虎竹の里では日本唯一の虎竹の伐採シーズンを迎えています。細く急な山道を竹の束を担いで下りてくるのはベテランの山の職人。キャタピラーのついた竹運搬機に一束づつ積んでいくのです。


日本唯一の虎竹


虎竹の成育している竹林は、どこも急峻な斜面地ばかりです。


日本唯一の虎竹


伐竹すると竹と竹の間をスルスルと山出しの道まで滑り落ちていきます。


虎竹運搬機


年期の入った運搬機も、久しぶりの出番に嬉しそうにも見えました。


虎斑竹


近年、色づきが芳しくない虎竹ですが今年はどうでしょうか?まだこれからではありますものの、昨年などと比べると寒いせいか色づきは少し良いようで楽しみにしています。




虎屋かるかん「虎の子」と虎竹

 
虎屋さんチラシ


平成9年と書かれていますから1997年、つまり24年も前のチラシをご覧いただいています。発行されたのは宮﨑県延岡市の老舗和菓子屋「虎屋」さん、店名にちなんで素材に虎豆を使い、東北伝承の虎舞のデザインれさた掛紙で、かるかん「虎の子」を製造されるに当たって、高知県の虎斑竹を思い出して頂き当社へご用命れさました。そして、お届けした虎竹を写真で撮られて、カラー印刷した虎竹柄の箱を作り、寅年に販売されたのでした。チラシに写るお菓子の箱を良く見てみますと、確かに虎竹が並べらた写真が刷り込まれていて嬉しくなります!


虎竹


寅年、虎屋、虎豆、虎舞、虎の子、虎竹と六つの虎が揃った虎づくしの和菓子、ところがチラシの見出しに書かれているように「もうすぐ十二歳かるかん虎の子誕生うら話」とあって、実は虎屋さんとの縁は何と36年もの前にさかのぼります。自社でも虎竹の美しい虎柄に惚れ込み、包装紙やチラシなど様々な用途に使っていますが、そんな昔から虎竹に着目されていた和菓子職人さんがいたとは感激です。


竹虎チラシ


創業70年の虎屋さんは令和元年に虎彦とお名前を変更されていますが、来年の寅年を迎えるにあたり再び「虎の子」を発売される事となり、改めて当社より虎竹をお届けさせていただきました。虎彦さんの経営理念は「必笑!」だそうです、笑うという文字には「竹」が含まれています(笑)。笑顔は幸福感の象徴なので「安全で美しくおいしいお菓子づくりを通して、お客様の幸福と社員の幸福を求め続け、社業を発展させて豊かな郷土づくりに貢献する」という素晴らしい経営姿勢の会社様から、2022年の寅年に一体どんな美味しいお菓子が誕生するのか今から楽しみで仕方ありません。