四ツ目編の箕

虎竹箕型色紙掛け


箕は実用的な生活道具としての他に、言い伝えや風習に関わるものがあるが、商売繁盛や福を集める福箕としての縁起物でもあるために色々なデザインに取り入れられている。たとえば、この虎竹箕である。えらく粗い編み目だと感じる方もおられるかも知れない。


虎竹箕型色紙掛け


実は、これは虎竹箕の形をした色紙掛けである。最近では色紙を飾る事も少ないので「色紙掛け」と言ってもピンと来られない方がいるだろうか。この竹の小枝で色紙を留めて飾るようにできている。


四ツ目編箕


さて、このような色紙掛けのような飾りなら粗い編み目も納得でるのだが、この四ツ目編の箕はどうだ。


土佐箕


高知で昔から編まれてきた伝統の土佐箕は、網代編みでしっかりと目が詰まり、穀物でも何でも落とさないように作られている。


エビトヨブ


では、このような四ツ目編の箕は何使うのかと言うと実は炭の選別に使われてきた。編み目が大きいので、細かい炭や不要なものを選り分ける事ができるのだ。


竹炭粒


炭は燃料として長く人々の暮らしを支えてきた生活必需品なので、対馬で「エビトヨブ」と呼ばれる箕も当時は大活躍していたに違いないのである。


白竹八ツ目バスケットが編み上がる

白竹八ツ目バスケット職人底編み


白竹八ツ目バスケットは、誰でもご存知のスーパーのお買い物かごのような形と言えば分かりやすい。底を広く編んでおり、品物の出し入れが容易であり抜群の安定感のある手提げ籠なのだ。スーパーマーケットに置かれているカートにスッポリと収まるサイズなので、ご家族の分まで沢山買い物される方などにはマイバックとして特に重宝されると思う。


白竹八ツ目バスケット職人籠編み


ところが、竹籠や手提げ籠バッグは完成された物を目にする機会はあるけれど、一体どのように作られはじめて一つの製品となるのかは、ほとんど知られていないのではないだろうか?


白竹八ツ目バスケット職人


そこで、竹虎では竹職人の手仕事を出来るだけ動画でもご覧いただけるようにしているが、今回の白竹八ツ目バスケットでも竹籠の底編みから立ち上げ、木枠をはめ込んでの編み込み、口巻、持ち手を藤巻きして仕上げて完成するまで、しっかりとご紹介している。


白竹八ツ目バスケット職人


白竹八ツ目バスケット型枠


ここまで編み上がれはのもう少し、後は木枠を外して口巻に取り掛かる。


白竹八ツ目バスケット制作


角い形は口部分の当て縁で決まる、楕円形に見えていた籠が一気に四角のバスケットの形となる。角籠の代表格のように昔から作られてきた御用籠も本体編みまでの工程では、同じように楕円の籠にしか見えない。


白竹八ツ目バスケット口巻


これで、皆様の知っている白竹八ツ目バスケットの形が出来上がった。


白竹八ツ目バスケット籐巻持ち手


白竹八ツ目バスケット籐巻


後は太い籐を芯に入れてしっかりと巻き込み、大容量の籠に入る重みを支える丈夫な持ち手にしていく。製作の様子は、1時間26分とかなり長い動画となったが分かりやすくまとめているので是非ご覧いただき、竹職人の手仕事を堪能していただきたい。




生まれ変わった手付き田舎籠

 
手付き田舎籠


堅牢さが自慢の手付き田舎籠は飾ってながめていても素敵なのだが、やはり使ってみて初めて本領を発揮する。そこでお客様には、どんどんご愛用いただきたいと思っている、使う事によって新しい竹編みでは見られなかったような味わい深い魅力が発見できるのも竹籠の素晴らしいところだ。


手付き田舎籠修理


そうやって長くお使いいただくと傷んでいる箇所も出てくる。今回は持ち手や口巻、さらに底のタガ足も交換するようになった。それでも加工性の高い竹は、手直しがいくらでも効くいて、いとも簡単に元通りの姿に生まれ変わる。


手付き田舎籠手直し


修理した持ち手はまだ青さが残っている。


手付き田舎籠製造


口巻や底の竹も本体部分の編み込みとは色合いが全く違っている。しかし、元々は白っぽく見えるゴザ目編みもこのような青々とした真竹の表皮に覆われていたのだ。手元に置いて大事に長く使う竹籠は、経年変色を楽しんでもらいたい。持ち手、口巻、タガ足が本体編みと違和感なくなる頃には、この籠への愛着はもっともっと深くなっていると思う。


青空に鯉のぼりの竿、そしてバレン

 
バレン、鯉のぼり


少し季節外れだが、秋の気持ちのよい青空を見ていると思い出したのが熊本式鯉のぼりである。吹流しや鯉は普通にあって、その上に風車、一番上にお子様の名前が書かれた小籏(名旗)が付くのであるが、恐らくこの地域限定の装飾が真竹で編まれるバレンと呼ばれる飾りだ。工房で見るとくす玉のようにも思えるが、実際に設えられた鯉のぼりを下から見上げると玉入れ籠のようでもある。ただ、特徴的なのが長く垂らしている竹ヒゴで、風にたなびくように工夫されている。


竹トラッカー、竹虎四代目(山岸義浩)


先日の「チャレンジラン山口」で、たまたま竹虎で働いてくれていた社員の自宅が経路にあって、充電させてもらっている間に大きくなった息子さんにもお会いできた。男の子の健やかな成長を願って高知でも鯉のぼりは立てる、しかしさすがにバレンなどは誰も知らない。地域特有の風習はどこにでもあるものだけれど、驚くのはその製造数だ、少子化になった現在でも一人で年間400個は編み上げると言う。


輪弧編み


ところが竹籠編みの数の話になると、まるで伝説のような数字が次々に話題にのぼる。たとえば、この輪弧編みという技法で作られる盛り籠だ、鉄鉢と呼ばれて昭和の時代には何処の家庭に行ってもコタツの上にミカンを入れて置かれていたのではないだろうか?それくらい普及していた竹籠の一つだ。


盛りかご(鉄鉢)


この鉄鉢など内職さんに部材の加工などお願いしていたとは言え、早朝から編み始めて夜遅くまで、ご夫婦で製作するのが200個とも300個とも聞いている(笑)。それだけ需要があった当時の話なので、少しでも工程を簡略化してスピード化を求めていた夢のような時代だったろうと思う。


野菜籠


そうそう、忘れていけない梨籠は段ボールなどが普及するまでは果物や野菜を入れて運ぶ物流の欠かせない竹籠だった。この籠は昔の職人さんに復刻して編んでもらったもので綺麗な状態だけれど、実際の籠は使い捨てのような感覚だったから、ほとんど残ってはいない。この籠は大きな竹工場で確か70人の職人さんが作られていて、手の早い方で一日に100個の籠を作っていたと言われる。


最初のバレンに戻るけれど、あの竹細工にしても最盛期には11月から3月のシーズンに2000~2500個を6名の職人と一緒に製作していたそうだ。かさ張って工場に置ききれないので毎月トラックで500個づつ運ばれて行ったというが、それも凄い。こんな昔話をしていると必ず、ボクの敬愛するこの方の動画が登場する!




御用籠を作り続ける竹職人

 
御用籠、竹職人


竹職人が流れる汗をぬぐおうともせず一心不乱に編み続けているのが御用籠。編んでいる過程なので少し分かりづらいけれど、この籠に四角い竹枠をカチッとはめ込むと堅牢な角籠になる。段ボールやプラスチックコンテナが登場するまでは、日本全国の物流で多用されてきた籠で、配達来るトラックや国鉄(現JR)のホームなどでも良く見かけていた。皆様が一番覚えておられるのが、自転車やバイクの荷台に取り付けられて走る姿ではなかろうか。


御用籠


荷台に取り付けられるのは小さなサイズだか、大人が数人がかりで持たねばならない程の大きな籠まであった。竹虎の工場にもリヤカーサイズの籠があって、竹の端材から何から放り込んで運んでいた記憶がある。


御用籠縁部分


さて、実はこの御用籠の口部分に使われている幅広の枠竹には隠し包丁のような切れ込みが入れられている。丈夫な御用籠のために厚みのある竹材を背中合わせて使用されるのだが、この切れ込みが若干の寸法違いを微調整する役割がありピタリと仕上がるとの事だ。


御用籠、竹職人


竹職人道具


今ではあまり見ることはないが、昔ながらの強い竹籠作りには厚みのある竹ヒゴが欠かせず、このようなノミで身部分を削ることがあるけれど、この道具自体にも味がある。


御用籠、竹虎四代目(山岸義浩)


こうして昔ながらの御用籠は作られている。難しい籠を手際良く完成させていく熟練職人の技をYouTube動画にした。簡単そうに見える竹の扱いは、この職人ならではだ。達人の域だと思ってご覧ください。




八月、あの竹職人さん

 
竹林


何処に行くにもカブに乗っている職人さんだった。田舎では公共交通機関が整っていない、虎竹の里でもJRもバスも一日に数本しかないから自分で運転できないと少し不便なのだ。だから、数台を乗りつぶすほど毎日の乗っていた。ここまでなら特別な話でもないが、実は時効だから言うけれど職人さんは無免許だった。この年齢でまさか免許を持っていないなんて誰も思っていない(自分もずっと知らなかった)、そのかわり交通ルールを守って一度も違反せず警察に止められた事もないから生涯一度も免許証とは無縁だった。


竹林


職人さんは高校野球が大好きで、春と夏は甲子園が始まると全く仕事をしない。とにかく朝から晩まで一日中野球放送を観ていた、仕事もあるのだれどこれほど好きなら何も言うまいと思った記憶がある。お盆だからか、今日は色々な職人の姿が思い出されては消えていく、ほんの短い時間でも両手の指で足らなくなった。熱戦の方は日程が進み、勝ち残った球児たちが日本一を決める日が近づいてくる、あの竹職人さんならテレビの前から一歩も動かないに違いない。


アダン手提げ籠バッグの作り方

 
アダン手提げ籠バッグ


竹富島にヤミカゴと呼ばれていた買い物籠があった、戦後の小さな島には農地が少なく食料不足なので近くの石垣島から食材を買ってきたのだそうだ。その時に使われていのが今回のアダン手提げ籠バッグの元となった竹富島に自生していたンーマニという植物の皮で編まれた手提げ籠だった。


ンーマニとはクロツグの事で南西諸島に自生するヤシ科の植物とある。石垣のジャングルのような山中で蓬莱竹を見せてもらった事があるが、亜熱帯気候では植物のパワーも質も凄いが種類も豊富なのだ、全国各地にあったヤミカゴをこちらの島ではンーマニで編まれていた。その復刻したのが現在のアダン手提げ籠バッグなのだ。


アダン手提げ籠バッグ作り方


アダンの手提げ籠バッグと呼んでいるが、現在編んでいるものはアダンと同じタコノキ科の近縁種であるタコノキの葉で作られているバッグだと言う。アダンとタコノキは似ているようで違う、しかし、確か一番最初はアダンだったように記憶していてそのままになっているのだ、もしかしたら別の職人さんの話だったかも知れないし、違う籠だったかも知れない。


アダン手提げ籠バッグ職人


とにかく竹富島をルーツにする民具には稲ワラ、クバ(ビロウ)、クージ(トウツルモドキ)、アダン、月桃、ンーマニ(クロツグ)、ブー(苧麻)、バシャ(芭蕉)、シーチ(ソテツ)、ユッキ(ススキ)、茅、タコノキ、蓬莱竹など豊かな自然を表すかのように色々な素材があって楽しい。


アダン手提げ籠バッグ製造


アダン手提げ籠バッグ持ち手


天然素材をあますところなく活かし、型を使って丈夫で美しい手提げ籠にしていくのだ。この籠の最大の特徴は持ち手にあって、一本のループ状になった編み込みを本体底から固定して仕上げられているので本当にしっかりしている。使い手の事を十二分に考え抜いた創意に頭が下がる。




蓬莱竹とクバ笠

 
クバ笠職人


クバ笠を初めて見たのは石垣島照り付けるような太陽の下だったので、なるほど土地では欠かせない生活道具だと感じた。当たり前のように被って畑仕事されている方が格好良く、何と笑った時の歯が白くイキイキとしているのだろうと印象深く覚えている。


クバ笠の蓬莱竹骨


その後だ、職人さんの自宅兼工房で真っ先に目に付いたのが蓬莱竹(ホウライチク)で作られた竹骨。すぐに、あのクバ笠のものだと分かって胸が高鳴った。沖縄県では意外と真竹や孟宗竹のような大きな竹は見当たらない、その代わり竹細工には株立ちになったバンブー系の蓬莱竹が使われているのだ。




蓬莱竹は、高知ではシンニョウチクとも呼ばれ実は昔からの職人は良く知っている竹だ。とにかく節間がながく、しなやかで使い良いのだが、雨の多い西日本各地では護岸竹としても多用されてきた。関心のある方は、少しクセのがあるけれど竹虎四代目の動画で勉強してください(笑)。


クバの葉


さてクバ笠だが、石垣島を車で走れば何処でも見られるビロウとも呼ばれるクバの葉を使う。裂けておらず、虫にも喰われていない柔らかい葉を選んで採ってきて陰干しするそうだ。編み出す前には、他の自然素材と同じように水に浸しておく。


クバ笠職人


それにしても、あの青々とした葉を本当に上手く使うものだと感心する。幅が広くより日よけになる畑用と、漁の最中に海風に飛ばれないように少し幅を狭くした海人笠があるけれど構造は同じだ。蓬莱竹の骨に被せて作られていく、仕上げの留めに蓬莱竹の丸ヒゴを縫い付けていくから、まさに蓬莱竹とクバの笠だと思う。


クバ笠


本来の伝統的なクバ笠には内側にも丸ヒゴを入れるらしいが、軽量化をしたい職人さんが糸を使う編み方を考案して約30年来この技法で作られている。




黒竹筒入り虎竹耳かき

 
黒竹筒


もちろん、ただの黒竹筒ではない。節のところに切れ目が見えているけど蓋になっていて中には虎竹耳かきを入れている。欧米では耳かきの習慣がないようなので、この気持ちよさを知らないのは損のような気もしているが、そんな呑気な事も言っていられない。実は大量に作って置いてあったつもりの在庫が知らないうちに売り切れてしまっていた。


黒竹筒入り耳かき


虎竹耳かき


虎竹耳かきは何とか間にあったものの、黒竹筒が出来あがらない。竹屋は「夏痩せ」ではなく、冬場が竹の伐採や仕入れで忙しいから「冬痩せ」と言われてきたのだが、暑い季節はそれなりに竹の需要が高まるので、やはり忙しく「夏痩せ」もするのだ(笑)。


黒竹筒入り耳かき


手仕事は手際の良い事が大事だが、急がない、急がせない事がもっと大事だ。黒竹筒の材料となる竹材を矯めるベテラン職人の技でもご覧いただきながら気長にお待ちいただきたい。




塩取り籠と竹コーヒードリッパー

 
塩取り籠


この竹籠を見て一体何なのか分かる方は本当に少ないと思う。ガーデニングが人気なので、持ち手も付いているから吊り下げプランターかと言われた事もある。確かに吊り下げて観葉植物など入れると雰囲気は最高にも思う。水やりしても竹編みから余分な水分は抜けるのでご使用には問題ない。


塩籠


しかし、実際には塩取り籠と言って、その昔海水から塩を取り出す為に編まれ竹籠なのだ。海水は完全に水気がなくなるまで煮沸していると塩が鍋について取れなくなってしまう。十分煮詰めていってシャーベット状の液体感が残る間に、この塩取り籠に入れて完全に水気を切り塩を取り出すのだ。もちろん今ではすっかり姿を消してしまっており、自分も職人の工房の軒先に吊るしてあるのを見た事があるだけで、実際に塩を取っているところは見た事がない。しかし、この塩取り籠は現代の虎竹コーヒードリッパーに姿を変えて愛用されている。