小田光陽作うずしお

 
小田光陽作渦潮(黒)


故・小田光陽氏は大阪の指物師であった三好弥次兵衛という方に師事して指物大工をしていましたが、50歳を過ぎてから竹工芸の世界に入ったという変わった経歴を持たれています。竹が豊富で、竹細工の盛んだった大分県の生まれですので、ずっと竹に親しみは感じてこられていたと思います。そして、ついに木工技術を生かした竹と木の組み合わせによる独特の作品を手掛けられるようになったのです。


小田光陽作渦潮(黒)


海外での展示会にも出品されていた小田光陽作「渦潮」は、そんな作品の中でも最高峰と言えるのではないでしょうか。渦巻く波を見事に竹と木を使って表現されています。


小田光陽作渦潮(黒)


小田光陽作渦潮(黒)


小田光陽作渦潮(黒)


小田光陽作渦潮(茶)、竹虎四代目(山岸義浩)


ご縁あってやって来た渦潮ですが、実は昨日の「波」同様に竹虎本店には同じ作風の作品が飾られていた事がありますので自分にとりましては、とても馴染みがあります。


小田光陽作渦潮(茶)


小田光陽作渦潮(茶)


古い作品なので全く完璧な保存状態ではないものの、せっかくの大作です。出来るだけ多くの方の目に触れて、ご覧いただける機会を作りたいと思っています。


小田光陽さんの波

 
小田光陽さんの波


小田光陽さんの作品を多数拝見する機会があって、長い時間竹と木で創作された独特の世界に浸ることができました。そんな中で、とても馴染みのある一点がこの。竹虎本社には前から同じような形の作品が飾られていたのでした。


小田光陽さんの波


比べてみますと漆仕上げをしているか、いないかの違いで同じ型で作られている事が分かりました。


小田光陽さんの波


小田光陽さんの波


小田光陽さんの波、竹虎四代目(山岸義浩)


それにしても、この方の作品には水をテーマにしたものが多いようです。昨日の流紋様花台だけでなく、花器、水盆などにも、又本日の波、そして明日ご紹介予定の渦潮...強い思いを感じます。


小田光陽作の白竹流紋様花台

 
小田光陽作 白竹流紋様花台


まるで川面を見るような白竹花台があります。木製の足部分の上に、割幅を違えた竹を並べる事によって動きのある水の流れを見るようです。


小田光陽作 白竹流紋様花台


綺麗に曲げられたUの字型、この角度から見ると滝に向かって流れ落ちているようにしか見えません(笑)。


小田光陽作 白竹流紋様花台


20数年以上前に創作された故・小田光陽氏の作品です。専用の箱は古くなっていましたものの、作品自体はそこまで時代を感じさせる事がありません。


小田光陽作 白竹流紋様花台


竹虎四代目(山岸義浩)、白竹流紋様花台


元々木工をされていた方だけあって、竹と木を組み合わせるという独特の技法で他にはない竹の世界を切り拓かれた方なのです。


瑞竹軒山際作の鳳尾竹だるま

 
瑞竹軒山際作煤竹だるま


そもそも真っ直ぐな竹など無いので油抜きという加工をする際に、その熱を利用して「矯め直し」と言って一本一本曲りを矯正して製竹していく。だらか、竹を真っ直ぐにするという職人はいるのだが曲げるとなると難しい。以前、階段の手すりに使う大きく湾曲した竹を用意する時に随分と時間がかかった覚えがある。竹虎本店に置かれている大小ふたつの曲げ細工による鳳尾竹だるまは瑞竹軒山際さんという竹芸家の古い作品だ。細い丸竹を、こけだけ見事な曲線にされた竹細工はあまり他では見る事がない。


鳳尾竹は古い民家で使われていた根曲竹が煤竹になったものを言うが、近年は竹材が少なくなり人工的に作られるものもある。しかし、これは本物の煤竹で製作されているので更に高度の技術が必要だったと思う。現代でも煤竹と名前の付いている竹編みでも炭化窯で短時間で作られた竹があり、それでも通常の竹に比べると扱いが難しく製作に時間がかかっている。100年、150年と実際に時を経た煤竹は竹によって枯れ具合が違い製作は格段に困難なのだ。


瑞竹軒山際作丸窓


普通に見ていたので価値に気づかない竹が竹虎本店には多い。ようやく、ほんの少し竹の事が分かるようになり見る目が変わってくる、祖父の思い通りだろうと今週に入っても降りやまない雨空を見上げている。




宮崎珠太郎先生の根曲竹花籠とぼた餅

 
宮崎珠太郎作花籠


以前から竹虎本店に置かれていて馴染みのある作品のひとつに宮崎珠太郎先生のオブジェになりそうな存在感のある創作花籠があります。根曲竹で編み目を強調するようなネジリ編みした独特の作風ですが、まるで蟻塚のようだと思っていつも見ていました。


宮崎珠太郎作オブジェ


宮崎珠太郎作


宮崎珠太郎氏、竹虎四代目(山岸義浩)


しかし、つくづく竹は人です。籠に触れると心は熊本の工房にいます。


宮崎珠太郎氏


宮崎先生は別府産業工業試験所の所長を務められていた時代もあり、温和な人柄から訪ねて来られる竹人も多いと聞きます。だから、もしかしたら奥様の手料理は有名なのでしょうか。


宮崎先生奥様のぼた餅


甘いものには少しうるさい自分が今までで一番美味しいぼた餅は?と聞かれたら即答するのが宮崎先生の奥様お手製のそれ。一皿全部食べられると思ったほどの絶品です。先生の作品の魅力もさることながら、毎回お出しいただく手料理は舌が忘れてくれません。




ところで皆様は根曲竹の伐採がどれだけ大変かご存じでしょうか?虎竹を伐るのにも特別な技術が必要な上に急斜面での重労働なのですが、根曲竹はクマ除けの笛や大音響のラジオ、爆竹といった又自分達とは違う苦労をされながらの山仕事です。あまり見られる事のない根曲竹の伐採をYouTube動画にしていますので、よろしければご覧ください。


竹芸家・白石白雲斎氏のレアな竹アート作品「春籠」

 
白石白雲斎「春籠」


竹虎二代目義治と懇意にして頂いていた竹工芸家・白石白雲斎さん、若い頃の写真が昭和45年(1970年)の竹虎本店がオープンした当時からパネルになって飾られていました。竹の世界では非常に高名な作家のお一人で数々の作品を遺されていますけれど、この「春籠(shunro)」のように幾重にも重ねた竹ヒゴで創作された作品は、専門の方でもあまりご覧になった事がないのではないかも知れません。


白石白雲斎「春籠」、竹虎四代目(山岸義浩)


美術館ではこうして気安くは触れないので思えば贅沢ですが、他の作品たちと同様に自分にとってはこの虎竹の里の地にあるからこそ意味のある「竹」です。


白石白雲斎「春籠」


白石白雲斎「春籠」




宮川征甫氏と虎斑竹

 
宮川征甫氏作品


竹虎二代目義治と懇意にしてもらっていた竹作家のお一人に宮川征甫先生がおられます。若い頃から何度かお会いさせて頂く機会のあった先生は物静かでとても品のある方でした。ところが初めて拝見した作品が見上げるような太い孟宗竹に巻き付くように彫り出してある迫力満点の昇り龍だったので、そのギャップに驚いたことを覚えています。


宮川征甫氏、竹虎四代目(山岸義浩)


現在、竹虎本店に展示している最大の作品はこのような大きさで虎竹の竹林で鶏が遊んでいます。美しい竹林も鶏たちも全て日本唯一の虎竹を使って創作されていて背景そのものも竹で出来た言わば竹のキャンパス、そこに象嵌細工で見事な竹の世界を表現されているのです。


宮川征甫氏作品


祖父の注文で製作されたと思いますが、この作品自体が虎竹の里です。朝を告げる鶏は縁起の良い鳥で伊勢神宮でも神の使いともされています、どんな苦しい時にも「朝の来ない夜はない」そんな教えを自分たちに遺してくれている気がずっとしていました。


宮川征甫氏、竹虎本店


また、鶏は商売繁盛につながると昔から言われており、特に尾長鶏は新年にその置物を飾ると良いそうです。尾長鶏と言えば高知県原産で国の特別天然記念物に指定されていますので、その辺りも熟慮されたのではないかと思っています。


宮川征甫氏衝立


宮川先生独特の作品は数点あって、久しぶりに大きな衝立を出してみました。以前は分からなかった気づきや感動があり、やはり大きな作品も展示しておかねばと思っています。




塩月寿籃氏の虎竹

 
塩月寿籃作


塩月寿籃作 虎竹花器 睦月さんという竹の達人が遺した作品が竹虎にはあります。本店のガラスケースに大切に陳列されているものもあれば、実は自宅に普通に飾っていたり使っている物まであるので正確に何点あるのか数えてみないと分かりません。


塩月寿籃氏


この方は銘に製作年を入れられているので、この作品は1985年のものです。


塩月寿籃氏、竹虎四代目(山岸義浩)


渡辺竹清氏


まだ作品が売れない頃の塩月寿籃さんが、親しかった渡辺竹清先生の工房に遊びに来られた時に虎竹に出会ったといいます。当時、渡辺先生の所には祖父が厳選した最高の虎竹が揃っていました、そしてそこから素材を譲られて創作された寿籃さんの作品には当然ながら美しい虎竹が使われています。


塩月寿籃氏


塩月寿籃氏


虎竹の色づきは近年の温暖化の影響もあって変化しています、30数年前のいやもっと言えば初代宇三郎が出会った100年前の虎竹はどうだったのか?二代目義治が吟味した竹をみれば、そんな答えも微かに見えてきはしないか?僕にとって編またれ技や形もさることながら使われている竹ヒゴに自然と注目してしまっています。


小田光陽作、竹×木

 
小田光陽作


竹は木のようで木ではなく、草のようで草でなく竹は竹だと言われますが竹作家であられた故・小田光陽さんは似ているようで似ていない木と竹を組み合わせた作品を多く創作されています。いつも見るたびに高知城にある波の透彫欄間を思い出してしまうこの作品も、木彫と竹ヒゴでうねる荒波を表現されているかのようです。


小田光陽作花器


小田光陽作


小田光陽作


花器として作られた作品なので何度か花を活けてみましたが、個性が強いためでしょうか?どうもコレというものがありません。今回も写真だけは撮ったものの花を入れていない方が好みです(笑)。


見た事ない竹編みアタッシュケースで行く空の旅

 
竹編みアタッシュケース


昨年から、すっかり飛行機に乗ることもなくなりました。竹編みアタッシュケースを提げて日帰り出張したのは一体いつだったかと思うほどです。竹の手提げ籠バッグは丈夫と言いましても革製や防弾チョッキと同じ素材で作られている鞄に比べると取り扱いはデリケートになりますから、やはり出先も選びますし持つ人も自ずと選んでしまいます。


スズ竹


市場籠の素材と言えばご存知の方も多いと思いますが、このアタッシュケースはスズ竹で編まれています。このように細く繊細でしなりがあって籠編み用としては最高の素材のひとつです。




スズ竹は120年に一度の開花があって現在は素材不足から籠があまり作られなくなっています。花が咲くのが120年に一度というのも神秘的な話で驚かれるお客様もいますけれど、それによって根で繋がった大きな家族のような竹林全体が枯れススキのようになってしまう寂しさは実際に見ると想像を超えています。


スズ竹市場籠


新しく編まれる事が少なくなったためか昨年あたりからスズ竹市場籠の修理依頼が多くなりました。この手提げ籠も持ち手と口巻部分の修理のために届いています。そこで先程のスズ竹アタッシュケースとの色合いがあまりにも違うので違和感を覚える方は多いはずです。


炭化釜


実はスズ竹アタッシュケースは燻蒸処理をしています。言わば人工煤竹と申し上げても良いかも知れません、しかし炭化竹を作るために高温と圧力で蒸し焼きにして短時間で製竹するのではりあません。昔の囲炉裏で100年、200年と燻された色合いに少しでも近づけるため本当の煙で毎日燻しつづけ12ヵ月以上かけて色づけしているのです。


スズ竹編みアタッシュケース


乾燥など含めて素材作りだけで24ヵ月以上かけたスズ竹です。竹職人によって緻密に編み込まれた後は革職人に内側のあしらいをお願いしてようやく完成します。ノートパソコンを入れるとあとは書類と一泊程度の下着類などはいれられます。この鞄が再び活躍する日が早く来るように祈るのみです。