片口ざる、カズラ箕、馬蹄型の竹細工

平口ざる


片口ざると呼ぶ竹細工は、最近ではめっきり珍しくなった。そもそも普通の丸い竹ざる自体でも、国産のモノは少なくなって、一般の方々の中には馴染がなくなっているのかも知れない。そんな中で、片口ざるは馬蹄型をしており片方には口が付いているから米研ぎザルとしても、他の穀物に使うとしても他の容器に移しやすい作りになっている。このような平口ざるもレアな竹細工のひとつだ。


片口当縁米揚げざる


大きな産地があって大量に作られていた片口当縁米揚げざるなどを見ると、当時の日本の人の暮らしでこの様な竹細工がどれだけ重宝されてきたかを知る事ができる。片口ざるの口部分には、横ヒゴが外れないようにL字型の竹栓が留めに差し込まれている。これがスズ竹や根曲竹のように、細く柔らかい素材だと片口部分は縁巻のように仕上げられていて面白い。


片口ざる(イダグチ)


古い職人と新しい職人のものを並べてみたが、どちらも腕の良さが伝わる美しい編み込みだ。独特の片口の形がイダ(ウグイ)あるいは高知ではハヤと言う、どこにでもいる川魚の口の形に似ているからイダグチとも聞く。大量生産されていた片口とは違って竹栓には節が付けられ、それが全体の雰囲気を盛り上げている。


カズラ箕


縁起が良い馬蹄型の竹細工でも、片口ざるに比べると大型になるカズラ箕。四万十川流域の山々のカズラで縁巻した実用的な逸品、つい最近まで年間数千枚、数百枚という単位で作られていたと信じられるだろうか?大量生産を極めた竹編みならではの、たたずまいがある。





網代編み竹ざる、ふたえばら人生始まる

ふたえばら


網代編みの竹ざるは、材質の硬い孟宗竹でしっかり編まれているので、直径が60センチという大きなサイズだけれど少しも弱さを感じない。更に、この「ふたえばら」と呼ぶ二重竹ざるは、裏側に補強のための六ツ目編みを入れるから最強なのだ。このような竹素材そのままに編まれる籠やザルを総称して「青物細工」と言う、竹林から伐採した竹をそのまま編んでいくから一年中素材に困る事はないように思われる方がいる。しかし、実は冬場の旬が良い時期にしか竹を伐らなくて、竹材がいつまでも使える訳ではないので今頃が一番心置きなく仕事ができる季節なのだ。


たまにお問合せをいただく、竹ざるの作り方は動画で紹介もしているので、ご関心のある方はご覧ください。


寿司バラ


網代編みを六ツ目編みで補強する竹編みは珍しく、この二重編み竹ざるの他には寿司バラくらいだと思う。寿司バラとは、かなりレアな竹ざるで何と寿司飯を、この細かい竹網代編みの竹ざるで作るのだ。九州でも鹿児島県、宮崎県だけに見られる伝統的な生活道具で乾燥を防ぐための蓋も付いていて、底編みも上蓋も同じように六ツ目編みで補強される。


網代編み二重竹ざる


寿司バラの素晴らしい所は、網代編み部分に蓬莱竹が使われているのだ。節間の長い竹を使用することによってフラットな編み目にして使いやすさを考えている。九州や四国など豪雨地帯の河川を守るためにも植えられてきた蓬莱竹だ、やはり他の土地で出来る竹製品ではない。いつだったか、お一人になってしまった寿司バラ職人さんが譲ってくれた最後の籠は、青さがすっかり色褪せて飴色に変わりつつある。ふたえばらも今の瑞々しさは無くなるが、むしろこれからが竹ざる人生の始まりだ。



ちょっと珍しい平口ざるには3種類の仕上げあり

平口ざる


竹虎の本店は昭和45年3月にオープンしたので、皆様のお陰で53年もの長い間に渡って営業させていただいている事になる。決して順調ではなかったか店舗運営が今まで続けられたのは、ひとえに先人の力の賜物なのだが、半世紀の歴史の中では竹細工、竹製品と一言では片づけられない様々な変化があった。当時、竹製品は今までよりもずっと日常的で人の暮らしに近いものだったから、手作りとはいえ大量生産されるものが多く、又それだけにヒット商品というものもあった。自分がたまにお話しさせてもらう、竹ビーズ製品などは竹ペンダントやネックレスと共に、ひとつの流行のようになったものの一つだ。


ところが現在では、竹細工を大量生産するような事はないし海外からの竹製品も多くなっている。そこで、少量多品種になってきたのだが、それでも店内には4000種の竹細工、竹工芸がある。しかし、そんな中でも今回の平口ざるは、かなり珍しく、恐らくYouTube特別販売させていただくのは最後だと思う。小さい頃には米上げザルなどとしても良く見かけていた馴染のざるだと思っていたら、いつの間にか世の中からは消えていた。口巻の仕上げに違いがあって籐巻、カズラ巻、銅線巻の3種類があるのでお求めいただく時にはご注意ください。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             



当り前ではない、菊底編みの竹ざる

青竹蕎麦ざる24cm


蕎麦ざるは、これからの季節は良く目にされる事の多い竹細工のひとつだと思う。日頃はあまり気にされる事もないのかも知れないので、この菊底編みの青竹ざるをご覧になられても特別に感じる事もないだろう。近年では、海外で製造された製品も品質が上がって日本製と遜色ない物があるから、販売する側でも間違えて国産記載しているザルを何度も見かけた事がある。


青竹蕎麦ざる24cm


この竹ざるも何気に見過ごしていたら当たり前の竹ざるでしかないのだが、実は全く当たり前でない匠の竹ざるだ。旬の良い時期に伐採した真竹を使い、竹編み数十年の職人が編み上げる。


青竹蕎麦ざる24cm


菊底編み青竹蕎麦ざる


軽く、しなりがあり、水切れがよく、水気に強いから扱いやすい。高知は昨日からやけに暖かい、竹林に入ると雨上がりの湿気で久ぶりにムシムシするような懐かしい感じを覚えた。今年の夏も暑くなりそうだ、そうなればまさに、ざる蕎麦の季節、竹ざるの季節だ。



どこにでもあるようで無い、熟練職人の米研ぎざる

竹ざる


竹ざると言えば皆様が思い浮かべるのが、このように少し深さがある丸いお椀型のモノではないだろうか。普通に生活しているだけでは、なかなか竹細工など見かけるシーンは少ないかも知れないが、気を付けていると案外近くにあったりする。


横編み竹ざる


秀逸な竹編みに出会う事は少ないけれど、この竹ざるは米研ぎざるとしても使える最高の品質だ。


米研ぎざる


細い竹ヒゴでしっかり編まれたざるからは、割れてしまった小さな米粒が落ちたり挟まったりする事もない。今回わすが2個しかご用意がなく、YouTube特別販売でご紹介する前に売り切れてしまった。動画をご覧いただいた皆様には申し訳ないので、しばらくお時間いただきますが改めて少しでも追加販売できるように準備しています。



フードロスに国産竹ざる

エビラ籠、竹虎四代目(山岸義浩)


近年、フードロス、食品ロスが言われている。自分は中学・高校と全寮制の明徳義塾だったので食事の食べ残し、好きキライなどについては比較的教育を受けてきた方だと思う。だから、元々キライな食べ物などなかったけれど更に何でも美味しく、残さず頂くという習慣がついて有難く思っている。しかし、どうしても家庭で残ってしまう事のある野菜類などには、現在少しづつ製造が進むエビラや竹ざるは、フードロスに役立ててもらえるのではないだろうか。


孟宗竹


工場の中で虎竹の横に、一回りも二回りも太さのある竹が立てかけられている、日本最大級の竹である孟宗竹だ。実はあまり竹編みに使われることのない竹材なのだけれど、高知県では伝統的に、この硬く扱いづらい孟宗竹で笊を編む。


竹ヒゴ


全国的にみて竹細工は真竹を使う事が圧倒的に多い、だからこのように孟宗竹の竹ヒゴも他ではあまり見られないかも知れない。


エビラ素地


国産竹ざる


エビラの素地にしても60センチの国産丸竹ざるにしても孟宗竹を網代編みにしっかりと編みこんでいる。同じような竹ざるはホームセンターに行けば安価なものが売られているが、食材を干す竹ざるは強く、そして職人の顔が見える日本製の竹ざるをお求めいただきたい。




通気性の良さが素晴らしい、篠竹底編み足付ざる

篠竹底編み足付ざる


「真竹より篠竹」と言われているが、東北の篠竹細工は強く素朴で味がある。特に竹の堅牢性を活かした足付きざるが素晴らしいと感心する。足付きとは、本当の足が付いている訳ではなくて、底編みから立ち上げていく過程の竹ヒゴで尖がりを作るのである。こうする事で底の四隅に足のような突起ができる、置いた時に接地面に付くことがないので通気性が良く、水きれのよい竹ざるとなるのだ。


篠竹底編み足付ざる


細く割った竹ヒゴを編みやすくするために水に浸けておくのだが、工房裏にある小さな用水路をせき止めて浸けてあった。小さな流れがあるのだろう、水が透き通っていて豊かな自然の中にいることを実感する。


篠竹底編み足付ざる竹職人


日本は狭い国だけれど実は竹の種類は多い、世界に1300種の竹があると言われる中の半分近い600種が成育しているのだ。そして、その地域ごとに育つそれぞれ特徴のある竹を使い竹細工の技が発展してきた。その一つを代表する篠竹細工の職人技は見惚れていると40分の動画時間などアッという間だ(笑)。




ちりめんじゃこと干しざる

 
ちりめんじゃこ、しらす


「どろめ」と呼ばれる珍味をご存知だろうか?豊漁祈願で行われるどろめ祭りでは、豪快に日本酒一升の早飲みが毎年開催されて大きなニュースになっていたので高知県では知名度が高いが、もしかしたら県外ではあまり知られていないのかも知れない。浜に水揚げされた生を、そのまま食す機会はさすがに少なくて一般的には「しらす干し」、「ちりめんじゃこ」だ。有名な産地は全国に何か所かあるようだが、九州の職人さんに毎年届けていただくちりめんは実に旨い。手先に摘まんで少しだけと思って口に入れたら最後、止まらなくなって大きな袋があれよあれよと言う間になくなる(笑)。


四ツ目竹ざる


モグモグと口を動かしながら確か以前にもご紹介した地元のしらす釜揚げ工場の事を思い出していた。こちらでは、昔ながらの四ツ目編の竹ざるをずっと使い続けている。もちろん田舎のホームセンターにも海外製造の竹製品は並んでいるが、やはり機能性と耐久性にうるさいプロの方は国産竹ざるるしか選ばない。


しらす釜揚げ用竹ざる


仕事場の竹ざるは迫力がある、湯気の中で戦っているように見えた覚えがある。次々に茹でられ運ばれて行くのが、目の前の太平洋からの産物だと思うと自然とは有り難いと感じた。


竹ざるに名前


海でも山まで畑でも、働く竹籠には名前が入れられていて少し誇らしげだ。


エビラ竹素材


今年はエビラをはじめとして干しざる製造のための竹材が不足してしまった。もしかしたら30年ブログをご購読いただく皆様の中にもご迷惑をお掛けしてしまった方がおられたら、この場でお詫び申し上げます、誠に申し訳ございませんでした。来年はもう少し竹材の確保を頑張らないといけないと考えています。




網代底平ざる で土用干し

 
土用干し、梅干しざる


自家製梅干しを作られる方には重宝する国産竹ざるだが、7月下旬から8月上旬の夏の土用の期間に梅を干すと、色付きも良く風味も増して美味しい梅干しが出来ると言われる。遠い記憶の中では、どこのお宅に遊びに行っても縁側でこのような竹ざるが使われていたような気がするが、もしかしたら同じように感じらている方がいるのではないだろうか?


竹ざる、竹虎四代目(山岸義浩)


高知県では網代編みされた竹ざるを「サツマ」と呼ぶ、今年は良質の竹材を思うように伐採できなかった事もあって、サツマが少ない代わりに網代底平ざるをお求めいただいている。


網代底竹ざる


使い勝手のよいのは50cmと40cmのサイズだが、直径にするとわすが10cmの違いが見た目の大きさがこれだけ異なる。初めて梅干しにチャレンジされる方は1キロ程度の梅を並べられる40cmがオススメだ。


梅干し


竹と食とは深いつながるがあるが見逃されている場合も多い。お弁当に入っている赤い梅干しづくりに、竹職人が関わっているなんて想像できない方々にも達人技とも言える竹編みの様子を知ってもらえると嬉しい。




米研ぎざるとして最高の素材、白いマタタビの木肌

 
マタタビ米研ぎざる


マタタビは米研ぎざるとしては最高の自然素材と言ってもいいかも知れない。もちろん自分の場合は竹が一番だが、機能的な部分を言うと軽くて強くて手触りも優しいマタタビは凄いと思う。そもそも目が細かい細工だが、米研ぎに使うと素材が水分を吸ってお米が編み込みに目詰まりする事も、外に落ちこぼれてしまう事もない。米粒の中には割れて小さくなってしまうものもあるので、これは使い勝手がよろしい。


またたび原木


更に面白いのがマタタビの原木である。こんなに黒く地味な色合いをした樹木なのだが、薄皮を履いてみると真っ白い木肌が表れるのだ。


またたびヒゴ


9月から11月の旬の良い時期に伐採されたマタタビ、生えている時には想像もできないような白いヒゴだ。


またたび細工


そのヒゴを使って編まれた米研ぎざるは純白で可憐な姿をしている。手に取ると意外なほど軽いモノのもあるけれど、使ってみると断然強い。


またたびざる経年変色


ほんの少しだけ飴色に近づいているのがお分かりだろうか?マタタビも竹と同じように経年変色していく。この色合いは徐々に深まっていけれど、茶褐色になってもマタタビは全く傷まない。