黒染めの箕

竹職人


東北地方で編まれた物のような雰囲気が漂う(み)を見かけましたぞね。けんど、こじゃんと緻密に編まれちゃある。これは名人の方の作だろうと思いよりましたら、思いがけず作り手の職人さんにお会いする機会を頂いたがです。もともとはアケビのツルを細かく裂いて二本並べたところに、竹ヒゴを編み込んでいくという説明から始まり、詳しく箕の製作工程を教えて頂いて感激しますちや。


初めて見た時に東北の籠やろうか?と感じたのは中に編み込む桜皮のせいやったです。四国や高知にはカズラや蔓の細工はありますけんど、木の皮を使うた物づくりというのは少ないきに、余計に珍しく目を引きすまぞね。どこの地方でも同じですけんど、箕は細かい雑穀類の選別に使われてきた農具なのです。桜皮を使うのは編み込みに入ったり、下に落ちないようにとの工夫ながです。


箕


それと、この箕の一番の特徴は前半分の編み込みは竹表皮が上向きに使わちょり、後ろ半分は反対に底に竹表皮がくるように編まれている事ぜよ。時間がたてば色合いは区別できなくなりますけんど、出来たての時は鮮やかなツートンカラーのように見えますぞね。けんど、これはもちろん見栄えのためではなく、前半分の滑りをよくして効率よく雑穀の選別ができるようにするためちや。縁にはビワの木、桜皮を竹編みと補強に使うて持ち手の仕上げはカズラで巻いちょります。身近な自然素材を組み合わせて継承されてきた伝統の箕。


竹はチンチク(沈竹)、またはホウライチクとも呼ばれる事が多い竹で、地下茎ではなく株立ちで密集して生える南方系の竹ぞね。しなやかで粘りを持っちょりますので、昔は細く割った竹ヒゴで紐代わりに物を縛って使われたと言いますきに、さぞ、色々と使われて人々のお役に立ってきた竹やと思うがです。ビワの木は太さが一定で、柔らかい木質なのに丈夫な木だからとか、他の素材にも、それぞれに使われてきた理由があり、これ以上の組み合わせはないと思わせる完成度があるがです。さすが長い時間の中で鍛われてきた逸品ちや。


「これ持って帰り......」


奥からもってきた黒染めした一枚を、優しい笑顔で差し出してくれますぞね。これは人工的に色を付けちょりますが、きっと昔は囲炉裏端に置かれていたものが煤けて、こんな色合いになったりもしたがですろう。もう、そんな時代は無いがやにゃあと思うたら、頂いた箕を見つめながら少し寂しい気もする竹職人さんの工房ちや。


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