竹網代笠と竹皮笠

網代笠


ずっと復刻させてたいと思っていた網代編みの竹笠は、柾目の竹ヒゴを使い予想以上の美しさに仕上がった。自分が愛用している竹笠をモデルにしたけれど比べてくると圧倒的、特に職人がこだわり縁部分まで編み込んで作り込んでいるから、籐でかがるのとは高級感も全く異なる。


竹皮笠


同じ山形になった角笠でも、こちらは真竹の竹皮を編み込んだ竹皮笠。防水性の高い竹皮を何枚も重ねて、その上を長く取った竹ヒゴで留めている。屋外で使用されてきたものなので、良品はあまり残っておらず一般的にはご覧になられる機会は少ないかも知れないが、盛んに製作されていた竹細工のひとつ。


竹皮笠


竹皮笠


こちらも同じ竹皮を使った角笠、傷みやすい先端部分を六ツ目編みして補強されている。


アジアの竹笠


このように日本国内でも笠は生活必需品として、それぞれの地域で様々なものが生産されてきて、今に繋がっている。大阪万博記念公園にある、国立民族学博物館に展示されているアジアの笠にも竹を使い、日本と同じような作りをしているモノがあり面白い。


クバ笠、竹虎四代目(山岸義浩)


実際に笠を使って自然の中にいると案外と風を受けることが分かる。だから、石垣島で作られるクバ笠には畑用の他に、強い海風に飛ばされないよう幅を狭くした海用がある。アジアの笠の大きさ、形や素材、色合いにもきっとそれぞれの理由があるに違いない。



先人の知恵、どじょうど

どじょうど、竹虎四代目(山岸義浩)


やはり、温暖化など気候変化の影響だろうか?先日は、たまたま近くの漁港を通りがかったら、あまり見た事のないような魚が揚がっている。詳しくは知らないけれど、どうも沖縄などもっと温かな海にいるような魚のようだったから聞いてみたら、最近では珍しい事ではないらしい。


篠竹


変化は海だけでなくて、高知から遠く離れた寒い地域の竹林でも起こっている。今年も篠竹はあまり良くないから伐採していないと職人から聞いていた。それなら篠竹で編まれる、どじょうどは出来ないのかと心配になっていたが、どうやら何とか竹を選んで製作できているようで安心した。


どじょうど


鰻筌などと同様に、どじょうを捕まえるどじょうどにも魚が入る入り口があって、一度入るとなかなか外に出られない構造だ。少し異なっているのが、竹表皮が内側を向いておりドジョウを傷付けないように工夫されている。篠竹で編まれる魚籠には、こうした作りになっているものが多い。


どじょううけ


そして、最後にこのどじょうどのユニークな点は、魚を捕まえた後にある。お尻の部分は、竹の弾性でキュッと絞れているのだけれど、籠全体をねじるように力を入れたらパッと口を開けるのだ。これは、百聞は一見にしかずで、YouTube動画でご覧いただくと良くご理解いただけて、最高に面白いと思う。





驚愕の特大菅笠

特大菅笠、竹虎四代目(山岸義浩)


こんな大きな菅笠を製作するのは長年笠作りに携わってきた職人も初めての事で驚いたそうだ。それもそのはず、通常サイズの菅笠と比べたらこんなに違うのだ。しかし、ビッグサイズになったからと言って製作のこだわりは全く違ってはいない。そもそも、菅笠には笠骨に惚れ込んだ事からはじまった、近年は菅は本物だけれど中に使う骨はプラスチック製のものがある。ところが、菅笠の真骨頂は外からは見えない何種類もの形がある笠骨を仕上げる職人の技にある。


菅笠


そこで、普通サイズの菅笠はこの通りたけれど


特大菅笠


ドドーンと超特大!驚きのサイズでも芯にはしっかりと竹骨が入れられている。この特別サイズだから、苦労されて何とか製作いただいた。


特製五徳


別注菅笠のもうひとつの主役、これもあまり目立たないけれど頭に被る五徳。この出来栄えひとつで、笠を長い時間被っていられるかどうかが決まる。良い五徳だと本当に快適で、笠の重さも感じることなく一日中動いていられる。籐で丁寧に仕上げた五徳も、もちろん日本の職人が手作りしているから品格が漂いそうな気さえしてくる。


菅笠


笠の表面を良く良くご覧いただくと細かい縫い目が入ってる事がお分かり頂ける。この大きさだから何倍もの時間をかけて、ようやく仕上げられた逸品笠だ。





農家の倉庫で見つけた古い土佐箕

土佐箕


高知には、こんな立派な網代編みの土佐箕と呼ばれる特徴的な箕があった。箕先の幅が70センチ、奥行きは74センチ、深さは20センチもある大型の箕で、持ち手の部分に滑り止めの棕櫚皮が巻かれていた。そうそう、この棕櫚巻のために職人さんの仕事場には一本そのまま伐り倒して運ばれてきた棕櫚の木があったけれど、いつだったか置いている内に青々とした葉が伸びてきたと思ったら、扇状に開いた事があって、その生命力に驚いたものだ。


土佐箕


主に孟宗竹が使われる土佐箕には、他にメダケやカズラが必要だったが年々このような素材を集められなくなる。製作が難しい箕作りは、こうして作れなくなり現在は残念ながら復刻は難しい。


古い土佐箕


そんな箕を、農家さんの倉庫で見つけた。かなり使い込まれた古いものだが、竹が枯れた色合いになっているのに箕先部分に青い不自然色合いが混じっている。


PPバンドの箕


これは、荷造りなどに用いられているPPバンドだ。実はこのPPバンドは扱いやすく耐久性もあるので、簡単な手作りクラフトなどに多用される事もある。とっさに、いつか前に見て残念に感じた根曲竹と籐で編まれた伝統的な箕を思い出す。この時には青色ではなく、白いPPバンドが恐らく桜皮の代用として使われていた。


古い土佐箕


古い土佐箕


この土佐箕には、傷んでしまった竹ヒゴの代わりにPPバンドを編み込んで補強されている。土に還る自然素材と、いつまでも無くならないプラスチック素材と、まるで今の環境問題や竹の課題が皮肉にも合体して自分に迫ってくるように思えた。



別注の国産熊手作り

国産熊手


これから年末にかけて、熊手も活躍する場面が多くなる竹の道具のひとつだ。近くのお年寄りが手作りしてくれていた、熊手が作れなくなったとお問い合わせがあった。お客様は、2020年からアップしている熊手工場のYouTube動画をご覧になられたのかも知れない。お使いの熊手は、写真だけでは分かりづらいので現品をお送りいただく事にした。




届いた熊手を拝見すると、やはり細かい所で作りが異なっている。竹虎の近くにも、お年寄りが趣味半分で作る最高に丈夫な熊手があったけれど、それぞれの方が自分の流儀で手作りするから色々な物が出来あがるのだ。まあ、それはそれで面白いと思う、今回の熊手も先端が尖らせてある。これには何か理由があるのだろうか?


日本製竹箒


別注国産熊手の依頼主に訊ねてみたら、先端が尖っているのは毎日使っているうちに自然とそうなったとの事だ。最初から削る必要はないと言われていたが、先端を尖らせた熊手もあるので、実は加工可能だ。


竹虎四代目(山岸義浩)、国産箒


先日、山里の竹箒名人の作る箒を特別販売させていただくと、嬉しい事にすぐに完売した。考えみれば、竹箒にしろ、熊手にしろ、少し前までは近所で誰か作っている方が一人二人いたもなのだ。何故かと言えば、昔の小学校には自作の竹箒を持参しなければならない事も多く、器用なお年寄りは材料さえあれば作れてしまうのだ。


けれど、田舎でもそんな方は少なくなり、いざ国産の丈夫な竹箒や形の違う熊手を探すとなると困ってしまうのが現状だ。専門の自分たちが、出来る限り力を尽くして日本の竹箒を、日本の熊手を届けていきたい。今年の新竹で作る竹箒は、年内には一度ご紹介できる予定です。





竹虎ワークショップ「日本唯一の虎竹花籠づくり体験」

虎竹花かご(松田一輪).jpg


竹細工には沢山の種類の籠があり用途もあるけれど、その中でも花籠は人の暮らしに彩をそえ、豊かな気持ちにさせてくれる、まさに竹の真骨頂のひとつとも言える物ではないかと思う。今では死語となった、花嫁修業と呼ばれる時代の若い女性の皆様は、かならず数個の竹花籠を持っており活け花に取り組まれていたのではないだろうか。当時は、職人も驚くほど花籠は流通していて、それだけにサイズも形も竹の種類も本当に多かった。


花籠職人


竹虎の店頭に並んでいた花籠だけでも数百種類はあったのではと思う。そして、それぞれの籠に専門の職人がいて朝早くから夜遅くまで竹編みに勤しんでいたのだ。今回、ワークショップをする虎竹花籠・松田一輪も、そのネーミングの由来は職人さんの名前からである。


インターンシップ虎竹花かご(松田一輪)編み体験の様子


竹虎では、毎年夏に開催させて頂くインターンシップで必ず花籠作りの実習を入れるようにしている。自分達で実際に竹に触れ、竹の感触、しなりを体感し、難しさを知れば竹製品に対する見方も少しは変わってくるのではなないかと言う思いがある。


花籠作りワークショップ


もちろん、最初から上手く編める方はいないけれど、花籠づくり体験を通して出来あがった籠は世界に一つの逸品だ。きっと長くお手元に置いてもらって暑い夏の記憶を留めてもらえると思う。


日本工芸産地博覧会2023メインビジュアル


そんな、虎竹花籠づくりのワークショップを大阪の万博記念公園内お祭り広場(太陽の塔前)にて予定している。期間は来月11月3日(金) ~5日(日)までの3日間、日本工芸産地博覧会2023の竹虎ブース内だ。先着順で予約がいっぱいになり次第終了するので関心のある方は是非どうぞ!

虎竹花籠づくり体験お申込みはコチラから



山里の名人が作る、竹箒の動画を近日公開

名人の竹箒、竹虎四代目(山岸義浩)


先々月の事だったと思う、「秀逸な山里の竹箒」として、この30年ブログでご紹介した事がある。職人仲間の間で絶賛されていた竹箒は、確かに一目見た時から違っていると感じていたけれど、地域では誰もが知るような箒作りの名人の方が作らたものだった。


竹箒作り


まあ、それもそのはずだ。竹箒を作りだしたのは小学校の時、当時は自分の使う箒を持参せねばならなかったそうで、小さい頃から手先が器用で綺麗な竹箒を作ると評判だっのだ。作業場で作り始めると、一人また一人と近所の方々が感心しながら見つめている。


竹箒作り


ホームセンターで売られている安価な製品との違いは使えば更に分かるのだが、その一つが乾燥するほどに硬くなり手触りの良さから釣り竿や杖に多用している五三竹だ。独特のコブが出来るから持ち手に最適で、竹虎では遍路杖としても活用している竹、その竹枝を一本だけ残している。


竹箒


この竹に切り揃えた竹枝を巻き付けていくから抜ける事がない。毎日のように酷使している職人たちから絶対の信頼を得ているのは、このような細かいけれど丁寧な仕事をしているからに他ならない。


竹箒


竹箒は、特に筍の産地などでは竹枝の有効活用として製造量も多かった、ところが今では輸入の竹箒に押されてほとんど見る事はできなくなっている。


竹箒職人


しかし、日常で使う竹製品である。かつては全国どこででも作られていたので、基本的な作りは同じでも細かい所で仕様が異なる。以前もYouTube動画にした事のある竹箒だけれど、今回の箒名人の手によるものだし、改めて動画にする事にしている。近日公開予定なので是非お楽しみにしてください。



愛用竹笠の修理できました

国産竹笠


自分の愛用している竹網代笠は、当然だけれど腕の良い知己の職人が編んだ国産だ。色合いは、まるで先日復刻した竹笠のようだけれど柿渋や漆を塗布している訳ではなく、真竹の竹ヒゴが時間と共に風合いを増したものだ。そけだけに、やはり竹の傷みが出るべき箇所に、出るべくして出てしまう。


国産竹笠トップ


竹笠を脱いだ時、どうしても逆さに置くのが自然で便利だ。反対に置く場合だと、置く時も、取る時にも両手を使わねばならない。そこで笠のトップ部分が床面に当たる事になり、段々と弱ってきたかと思うと遂にはこのような穴が開くのだ。


日本製竹網代笠


新しく完成した国産竹笠は、この辺りはさすがにしっかり考えられていて、最初から硬く籐でかがって補強してあるから安心して使う事ができる。


竹笠修理


しかし、竹笠はお陰様で5か月待ちとなってしまっているし、そもそも竹笠などこの程度の穴で使わなくなったりは絶対にしない。籐で補強を入れると、かえって新品より値打ちが高まった感がある、またこれで20年、30年と強い日差しから守ってくれそうで頼もしい。



匠宿の静岡千筋細工

静岡千筋細工照明


実は、静岡県も昔からの竹どころであり、かつては竹虎とのお取引を頂く会社様も多かった。今でも旧知の職人さんが何人かおられて、前にお伺いした時には安倍川の土手を散歩しながらお話しを伺った事がある。江戸時代には、この大きな川にも橋をかける事が許されていなかったので、渡しのための駕籠や荷物を運ぶ籠を編むのに、川岸の良質な真竹を使っていたのだそうだ。


駿府の工房 匠宿


静岡の竹細工と言えば、千筋細工と言われる細い竹ヒゴを使った工芸がまず頭に浮かぶ。たまたま迷い込むようにしてお邪魔した、駿府の工房 匠宿には千筋の技法を巧みに取り入れた照明が吊るされている。逆風に負けないように、新しい道を模索しているのは全国の竹人に共通しているけれど、ここでは本当に美しい作品を次々に拝見できる。


静岡千筋細工


壁にしつらえた飾りは、黒いバックに竹の白さが際立つ。木材との組み合わせで、千筋の可能性はまだまだ広がりそうだと感じる。


静岡千筋細工カウンター


更に、これは素敵だった。懐かしさと共に新しくも思える千筋細工のカウンター、やはり竹は灯りが入ると断然輝きを増してくる。前面をガラスに覆われているのもいい。


花器 こだま、千筋細工


こちらの施設では、竹細工に触れ合ってもらえる教室が常設されている。今回、館内をご案内いただいた若い職人さんは、たまたまこの日が担当の方だったそうだが、連日誰かが交代でこちらで千筋の技を披露したり、教えたりしていると聞いて感心した。


静岡千筋細工


静岡千筋細工といえば、花器や菓子器にの丸ヒゴを使うのが定番だけれど、実は展示されている昔の作品を見て驚いた。何?何?丸ヒゴではない!竹の節がついた平ヒゴで、竹節を波のように見せてリズム感のある逸品に仕上げている。作りは伝統的な、まさに千筋細工の形なので、もしかしたら昔は丸ヒゴだけではなかったのかも知れない。竹は、本当に知らない事ばかりだ。



国産竹笠を編む、竹職人の技

国産網代笠、竹虎四代目(山岸義浩)


この竹笠が出来あがるのは、別誂えで托鉢笠を編んでもらった時から決まっていたのかも知れない。竹細工を扱う本人でさえ、国産か輸入品か見分けられないほど普通に流通している竹籠や竹ザルも、手頃な価格で一般ユーザーの裾野を広げてくれる事もあるし、決して悪いワケではない。ただ、竹に対して世界一の審美眼を持つのは日本人だと思う、日本の皆様に竹を手にして頂くのが一番難しい。だからこそ、本物を忘れないでもらいたいと常々考えている。


日本製竹笠六ツ目編み


柾の竹ヒゴを、緻密に網代編みした笠の裏側に補強に入れた、六ツ目編みの竹ヒゴとの対比はどうだ?ここにも、しっかりと柿渋が塗布されている。


国産竹笠天部分


笠で最初に傷むところは天部分だろう。自分もそうだが、笠を脱いで置く場合には必ず裏返すから天が床に当たってしまう。そうして長年使う内に、天の竹ヒゴに負荷がかかり折れて、穴が開いてしまう事も多い。しかし、初めからこうして籐でガッチリと留めて補強していれば心強い。


国産竹笠縁部分


今回の国産竹笠には、何か所が特筆すべき点があるけれど、その一つが縁かがりである。復刻のためのサンプルにした、自分が持っている竹笠は、もちろん日本製だけれど縁は回した竹ヒゴを籐で留めている。しかし、新しく編み上がった竹笠は、何と竹ヒゴで編み込んであるのだ。


国産竹網代笠


縁を編み込む技法は、別誂えで製作いただいた托鉢笠にも使われていた。随分前に復刻した流鏑馬笠、そして托鉢笠、竹網代笠の竹編み、伝統の技が細くてもいいので繋げていければいい。


国産五徳


五徳(ごとく)とは、笠を被る時に頭をのせる部分だ。笠は国産だけれど、五徳は輸入品という少し残念な製品を見かける事もある。ところが何とこの五徳まで匠の手作り、こだわりぬいている。


国産竹笠、竹虎四代目(山岸義浩)


さて、それでは、この圧巻の竹笠がどのように編まれているのか?竹編みは数あれど、柾の竹ヒゴを使用し、これだけ独特な形状の網代編みをする竹細工は見当たらない。ご関心のあられる方は、是非YouTube動画でご覧ください。