国産竹串は難しい。輸入串の品質が落ちたり、値段が上がったり、あるいは海外では製造されていない独自の竹串が必要となったりして日本製竹串を探される方がたまにおられるようだけれど「時すでに遅し」の感がある。手頃な輸入品が沢山ある中で国内での製造が少なくなり、多くの職人がいなくなった今になって国産と言われても、困る場合が多い。
大きな木材を、キャタピラーや太いタイヤで自走する大型機械で伐採して、枝打ちまでするYouTube動画を観た事がある。これは凄いなあと思っていたら、なんと同じような機械が竹材でもあるようだ。山の職人が少なくなっている昨今、機械化で竹伐採の問題が解決できればどれほど助かるか。けれど実際には全く簡単ではなく、野菜や果物でも畑の端から全て収穫できるものもあれば、出荷時を見極めながらひとつひとつ収穫するものもあって、竹は後者だ。そもそも狭い急斜面に機械を持ち込む事からできない。
同じように見える竹串だけれど、竹表皮が先端まで残っている、形もが違う。昔なら農閑期に人海戦術で手削りしていた竹串も、現代では加工機械でもないと、とても作れない。鉛筆削りのようにする機械、刃物のような形にする機械、それぞれ違う。
竹串と聞けば丸い竹串を想像される方が一般的かも知れないけれど、四角い串、カマボコ状の串、それぞれである。
前に国産竹串にこだわる飲食店に伺った事がある。店内は満席のお客様で人気店との事だった。しかし、そんな店舗でも竹串となると消耗品でもあるし、価格については意外にシビアに考えられている。
商売なので当然なのだが、それでも僅かな金額を言うのであれば国産にこだわる必要はないのではないか?できあがった竹串から竹林に思いを馳せるのは容易ではないだろう。ただし大袈裟に言うならば日本製竹串は「志」ある方とでないとダメな時代になっている。作る人も、使う人も心の指す方向が同じかどうかだ。
わらいずみをご存知だろうか?飯櫃入れ(めしびついれ)や飯つぐらと呼ばれる事もあるが、藁で編まれたお櫃の保温容器の事だ。現代では保温ジャーなどは何処にでもあるので、このような道具は民俗資料館のような所で見かける他は、お鮨屋さんくらいである。
高知のような田舎でも、若い世代だと藁と言えばカツオのタタキを焼き上げるのに使われている事くらいしか思い浮かばないかも知れない。ところが、自分の世代では「藁ぼっち」が昔から身近にあって、藁を保管しながら使っていたのだ。
藁は竹職人だと竹皮草履を編む時の縄や鼻緒の部分に使う、箕の持ち手にも使っていて実は用途は多々あった。ちなみに少し意外かも知れないけれど竹はイネ科、藁とは親戚のような関係で、やはり両方とも同じように衣食住様々な所で活躍する日本ではなくてはならない素材だったと言う事だ。
そんな藁をつかって分厚く編み込まれた飯つぐらだからこそ温もりを逃がさない。小さな別注品でも作りは全く変わらず手にするとズシリとくる質感が確かな品質を感じさせてくれる。
ここ数年、竹編みコーヒードリッパーを見かける事が多くなっている。竹虎なら虎斑竹のゴザ目編みや六ツ目編みのタイプがあるし、白竹、青竹、根曲竹、スズ竹などで作られたものがある。ご家庭や職場では一杯づつ入れられるドリップバッグが便利だけれど、こうしてハンドドリップで数人分を淹れていると少し豊かな気持ちになる。
色々と種類があるので、好みでお選びいただくと良いと思うけれど、ドリッパーの元々のヒントとなったのは今では見られなくなった塩取り籠だ。
ご存じない若い方も増えているようなので、一応お話させていただくと、実は現在のように塩がどこでも安価に手に入れられるようになる前は、塩は海水から取っていた。自分などは小さい頃の友達との遊びの中で、海水を沸騰させて塩を取るというような機会があったので違和感はない。
しかし、竹籠で塩を作るって本当?江戸時代の事ですか?そんな声も聞こえてきそうだ。いやいや自分が最後くらいの世代だと思うものの、竹職人さんの自宅で実際に吊り提げられているのを見た事があるから、それ程遠い昔の話ではない。虎竹の里でも、祖母の時代までは前の海水で塩を作っていたと聞いた事がある。
塩取り籠は、しっかりした網代編みだった。今はペーパーフィルターで使うからこのような六ツ目編みも作っている。
当時は、塩取り籠を使うと塩が籠に残って、水分の多い苦汁が下に落ちる。ポタポタと苦汁が落としていた竹籠が、時を経て今は美味しいコーヒーをサーバーに落としていると言う訳だ。
飲食店に入って食事をされる機会も増えてきたのではないかと思う。そんな楽しい食卓の上で、あまり目立たないけれど結構活躍しているのが炭化竹七味入れだ。うどん屋さん、鰻屋さんなど和食のお店で見かけた覚えのある方もいるのではないだろうか。実はこれが竹で出来ていて、高温と高圧で炭化加工した炭化竹が使われている。
店舗様からお求めいただく場合には「塩」「胡椒」「七味」「山椒」など、調味料の名前と共に店名やロゴマークをレーザー刻印させて頂く場合が多い。しかし、最近では個人のお宅でもご愛用いただく事が多くなり一個でも刻印させてもらっている。
今日のお昼のランチタイムに外食される方がおられたら、そして和食のお店に行かれたならテーブルの隅に少しだけ注目していただきたい。もしかしたら、そこに竹製七味入れが控えめに鎮座しているかも知れない。