孟宗竹の炭化加工

孟宗竹割


割った孟宗竹が短くカットされて運ばれてきた。一体に何に使われるのかと思うけれど、新春用の竹飾りとして使われる竹材だ。そもそも竹は「松竹梅」と言われる縁起の良い植物なのだが、お正月には成長と強さの象徴として、家族の健康、繁栄のを願って多用されている。


孟宗竹割


孟宗竹、カビ


竹といえば青々とした美しい色合いの竹を思い浮かべる方も多いかも知れないが、あのような真竹は極一部で高知などではほとんど見かけない。虎竹の里の虎竹は淡竹で、表皮は白っぽく粉がふいたように見えるし、孟宗竹にも真竹のような竹表皮の美しい色合いはない。ただ、暖かい日もあったりしてカビが生えてしまう管理の大変さはどんな竹でも同じだ。


竹炭化釜


ところが、今回竹材は熱と圧力をかけた炭化加工で仕上げるので全く問題ない。


炭化加工


炭化加工


炭化加工すると竹材が蒸し焼き状態となり高い防虫効果や防カビ効果が期待できる竹材となる。近年は、竹の虫の食害が増えているので、鬼おろしや蕎麦せいろ、蕎麦皿、竹二段重箱、竹首枕など炭化加工した竹材を使う製品は多い。



五三竹の遍路杖

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昨日の30年ブログで青竹踏みの孟宗竹を湯抜きする事に触れた。熱湯を使うのが湯抜きなら、ガスバーナーの炎を使って油抜きするのを火抜きと言う、虎竹に浮かび上がる虎模様は、この工程で竹表皮に鮮やかに現れる。


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在庫が少なくなっていた五三竹も、ようやく旬がよくなってきた。大量に流通している竹材ではないので、昔から年に一度か二度の伐採しかしない貴重な竹でもある。こうして新竹が入ると、理由もなくワクワクするのは竹屋だからだろうか。


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布袋様のお腹のように膨らんでいる所があるので、布袋竹と言うほうが地元では通りがいい。水戸黄門様が持つ杖のように、デコボコした部分が手に馴染みやすいので遍路杖の他、釣り竿などにも使われる。


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油抜きしたばかりの竹の光沢をご覧いただきたい、何か塗装しているかのように輝いているけれど、これが天然の竹の油分なのだ。五三竹は乾燥するほどに硬く、丈夫になるという性質もあるから、まさに杖にはピッタリの素材。今度の加工の時には、油抜きの様子や曲がりを矯正する職人の技も動画でご覧いただけるようにしたいと思っています。





竹七変化

染め竹


綺麗な黒色の竹がある、少し竹に詳しい方だと、「煤竹か?太い黒竹か?」と思われるかも知れない。もしかすると、このような色合いの竹が自然にあるのか?と思われると困るので、ご説明させて頂くと、これは染めた竹だ。


虎竹、竹虎四代目(山岸義浩)


竹も使い道によって、色々な彩が必要だが、虎竹などは油抜き加工をすると自然そのままの色合いに仕上がる。


真竹晒し作業


真竹は、熱湯で湯抜き(油抜き)する事によって、いわゆる晒し竹とか白竹とか呼ばれる竹なる。


白竹箸


青竹塗箸


自然な色合いを活かした白竹箸もあれば、季節によって重宝される青竹箸は塗によって一年通して青々とした色合いを保っている。


炭化竹


炭化竹なんて言う竹もあり、これは熱と圧力によって蒸し焼き状態にして人工的に煤竹のような竹にする。


古民家の竹


煤竹とは、古民家の天井などに使われていた竹材が100年、200年と囲炉裏の煙に燻されるうちに、自然と独特の色合いに変化した竹の事だ。現在の暮らしの中では、出来ない非常に貴重な竹材だ。


煤竹


これは、本物の煤竹、やはり長い時間をかけて自然が生み出したものは深みが違う。


染め竹


改めて最初の染め竹に戻ってきたけれど、一本の竹が異なる色合いに七変化、それぞれに素晴らしい。



孟宗竹の細工

竹根灰皿


自分の小さい頃の大人たちは、ほとんど喫煙するのが当たり前のような感じだった。今では考えられないかも知れないけれど、乗用車はじめバスや汽車、確か飛行機にも灰皿があったと思う。そんな環境だから、当然ながら自分が連れて行かれる先々には、ちょうどこんな感じの竹で作られた灰皿があった。


実は、これは煙草を置いておくクボミ(タバコ休め)がないから花器として使われたものだけれど、デザインは当時の灰皿そのままだ。この様に持ち手の付いたタイプ、持ち手無しのタイプがあった、自分などは、この竹根を見ただけで子供の頃に嗅いだヤニの匂いを思い出す。


孟宗竹


竹根を活かした竹細工には孟宗竹が使われている、竹根に近い部分ほど節が詰んでいるから、竹根の面白味と節の格好良さを見事に表現した製品だったわけだ。


孟宗竹根


虎竹の里でも、竹根を掘る職人は随分前に仕事をやめている。全国的に見ても、現在は竹根細工は、ほとんど見られなくなっている。


竹根一輪差し


仕事場では、職人が鉛筆入れにしていた竹根を活かした花器作りは貴重なので、いずれYouTube動画でもご紹介したいと思っている。もちろん30年ブログでも皆様にお伝えしますので、よろしくお願いいたします。


ちなみに、孟宗竹は観賞用としても昔から珍重されてきた。日本に渡ってきた江戸時代には、武家屋敷の庭園用として人気だったと言うけれど、この逞しさ、荘厳ささえ感じさせる姿をを見れば納得できる。





竹虎創業祭

竹油抜き


の油抜きには、火を使うやり方(乾式)と熱湯を使うやり方(湿式)がある。どちらも同じように竹の余分な油を取り除き耐久性を高めると共に、美しい竹材に仕上げていく。この時の熱を利用して、曲がった竹を矯め直しして真っ直ぐな竹材に加工もする。しかし、やはり竹は火抜きの方が艶がある、何より経年変色がいいのが堪らない。


白竹


火入れした直後の色合いは、乾燥させると段々と落ち着いた乳白色となっていく。自分達が製竹する虎竹は、色合いが独特だから一目瞭然だが、真竹と孟宗竹は節でも見ない限り、微妙な竹肌のキメと艶の違いがあるものの一般の方には違いが分かりづらい。


白竹


油抜きした孟宗竹を半割にしてみた、こうして中身を見せると虎竹も真竹、孟宗竹も全て同じ、竹節が笑っている。今日は竹虎創業日、あっという間にこんな時間になってしまったけれど、明日からも「笑」=「竹」+「二人」でいきたい。



世界的喜劇俳優も愛した、日本の竹根ステッキ

竹根ステッキ


竹は一本で立っている植物ではなく、地下茎でそれぞれの竹同士が縦横無尽に繋がり竹林を形成している。だから強い、地滑りも起こりにくく、「地震の時には竹林に逃げろ」と言われる由縁である。そんな強靭な竹根を使ったステッキは、節が短く詰んでいて見るからに丈夫そうに思えないだろうか?実は本当に耐久性が高いのだが、さすがに竹だけあって、しなりがあるから体重をのせた時の、スッと身体を支えてくれるような優しさは単なる棒とは全く異なる。


竹根ステッキ、竹杖、竹虎四代目(山岸義浩)


かの有名な、世界的喜劇俳優チャップリンの愛用する竹根ステッキも日本製だった。まるで飾りかと感じてしまうような、かなり細身のステッキを持っていたが、あの杖も曲がる事はあっても折れたりはしない。


竹根


ところで、竹根、竹根と話しているけれど、竹林ではどんな風に見つけられるかと言うと地中だけでなくて、このように地上に出ていたり、切り立った地面から突き抜けて伸びていたりする。


竹根印鑑


今でも皆さんの周りで普通に見られるのは、このような小さな竹根印鑑だろう。細いものは海外からのモノを中心にあるのだが、やはりステッキ用にできるような大きな竹根は見当たらない。


竹根ステッキ、虎竹八ツ目編み傘立て


試しに昨日の30年ブログでもご紹介した、虎竹八ツ目編み傘立てに入れてみると、なかなか格好がよい(笑)。


竹根杖


数本ある竹根ステッキだけれど、実は一番気に入っているのは一本だけしかない根曲竹で作られた竹ステッキだ。普通は使う機会の少ない根曲竹を、わざわざ持ってきて杖に加工しようとした事があるが、全く上手くできない。持ち手の曲げの部分が、国内最高レベルの熟練職人でもお手上げだと言うので、これは今後の大きな課題として残ったままなのである。





時間職人が作る竹のダイヤモンド

煤竹


美しい煤竹に出会った、この光沢のある色艶にはドキリとしてしまう。一体こんな竹はどこに生えているのだろうか?そんな風に考える方がいてくれたら嬉しい(笑)。普通は、これほどまでに鬼気迫るような力強い竹材をご覧になられても何気に通りすぎる事が多い。


古民家天井


この竹が、どこに生えているのか?実は世界中の竹林を探してみても、この竹が成育している所はない。煤竹の生まれる場所は古民家の屋根裏なのだ、囲炉裏の煙に100年、150年、200年と長い時間をかけて燻されている内に、このようなえも言われない輝きを放つ竹になる。


虎竹油抜き


だから煤竹の良いものは、火を焚いている期間が長い寒い地方に多い。古い民家を解体する時に、大切に運びだされる煤竹は長い間の煤がこびりついて真っ黒になっている、それを丁寧に洗って注意深く火抜きをする。虎竹の油抜きをするガスバーナーでは火力が強すぎるので、もっと弱い火を使うのだが、そうすると人の手では作り出せないような色合いの竹肌が表れてくる。


煤竹


何か透明な塗料でも塗っているのですか?油抜きした竹を見て質問される事があるけれど、この輝きは竹の持つ自然の光だ。自分には竹のダイヤモンドのように見える。


渡辺竹清作パーティーバッグ


「時間職人」が丹精こめて仕上げたダイヤモンドに、更に匠の技が加わるとどうなるのか?たとえば渡辺竹清作の煤竹パーティーバック、年に一度自分が手にして初詣に行く自慢の逸品だ。



孟宗竹と真竹で作った鰻ひご

鰻ひご、竹虎四代目(山岸義浩)


夏が近づくと鰻が食べたくなる、県外でも色々と鰻を食してみたが自分の口にはパリッと表皮を焼き上げる高知の鰻屋さんが一番合っている。ところが、今でこそ鰻屋さんで頂くようになったけれど小さい頃には鰻を店で食べる事など一回なかった。前にも話したように思うけれど、祖父が出張に連れて行ってくれた時に大阪千日前「いずもや」で食べたのが初めて鰻だ。


竹ひご


なら、それまでは鰻を食べていなかったのか?いやいや皆様の数倍食べていた、何しろ自分で獲っていたからだ。小さい頃の常識では、鰻は買うものではなく、獲るものだった。今でも竹虎で製作している鰻筌にはミミズを入れて川底に仕掛けておく、早朝上げに行くのが毎日楽しみで仕方なかった。当時は川幅が40~50センチくらいの小さな用水路のような所でも鰻がいて面白いように獲れたものだ。それでも鰻筌を沈める場所によって釣果は全く違うので、やっているうちに川底に鰻の通り道が見えるようになる。


鰻ひご


鰻筌の他には石グロと言って、石をピラミッドのように積み重ねておき、そこに入り込んだ鰻を鰻バサミで捕まえる方法もあった。キャンプで川原に行った時などに、このような石グロは見かけないだろうか?今では、そうそうありはしないか...。


竹ヒゴ、竹虎四代目(山岸義浩)


あとハエナワといってエサの付いた針を複数たらしておく事もあったが、主にしていたのはヒゴ釣りだったのだ。確か120センチくらいの細い針金を、ビニールか何かでコーティングしたようなヒゴの先に釣り針が付いていて、鰻が潜んでいそうな穴に入れて釣りあげる。


恐らくその時にも竹製のヒゴはあったと思うけれど、子供だった自分達には少し高価ものであったかも知れない。今回はこだわりの漁師さんのご注文で、昔ながらの鰻ヒゴをご用意させていただいた。実はどちらが適材なのか知っている釣り人もおらず、孟宗竹と真竹と両方を使って製作させて頂いている。ひと夏試した感想を楽しみにしている。





エキゾチックなキンメイチク

キンメイチク


アジア太平洋ソーシャルイノベーションサミットは、水と緑に囲まれた庭園の中に会議場やホテルを備えた美しいリゾート地のような所だった。台湾は元々が多いので、到着した日から変わった竹があるのは気になっていた。亜熱帯らしいエキゾチックな株立ちの竹や、細い稈が糸のように見えている小型の竹があったけれど、中でも金色の竹肌に緑のラインが鮮やかな金明竹が目を引く。


金明竹


ところが、この竹は日本の竹と違って随分と個性的なのだ。まず節間が極端に短い、金明竹は伐採してしまうと、この色合いは無くなってしまうので細工用の竹材ではないものの、仮に竹ヒゴに取って籠でも編みたいと思っても無理だろう。


キンメイチク


そして、更に不思議なのは節の部分に筍のようなものが生えているのだ。そして、そこから同じ金名竹の模様が入る枝が伸びている。そう、まるで節の詰まった稈が竹根で、そこから筍が生えて成長しているかのようだ。だとしたら普通は地中にあるはずの地下茎が真っ直ぐ地上に生えている事になる(笑)。さすが世界に1300種もあると言われる竹は奥が深い。





パリで見た竹フローリング

竹フローリング


何年も前になるけれど、パリに行った時に案内いただいたお店の竹フローリングを思い出した。竹のフローリング材や壁材は中国などで大量に製造されていて、日本の住宅や商業施設でも広く見られる建材だ。しかし、普通のフローリング材は一定の幅に割った竹材を貼り合わせて作られる集成材なのに対して、ここの床に張り詰められているのは、丸い竹を平たく伸したものだった。


虎竹ひしぎ


細く割った竹を貼り合わせる集成材も良いが、竹により近い形でそのまま平らに加工すると更に面白味があるものだ。ふとパリの竹フローリングを思い出したのは、虎竹ヒシギ張りの壁面の写真を見たからだ。ヒシギは金槌のような専用の道具でタンタン、タンタンと叩いて竹を細かく割り伸ばしていく、竹虎で袖垣などに沢山使っていた当時は10名近くの内職さんがいて専用の別工場まであった。


竹フローリング


しかし、この床材は細く割っているのではなく丸い竹に切れ目を入れて押し開いたような形だ。同じような竹加工を拝見した事があるけれど、熱を加え強い力でプレスして板状にしてるのだと思う。


竹フローリング


階段まで竹だから楽しくなる。そう言えば竹フローリング材にはヒールの跡が無数についていたりするが、ここでは見られなかった。足に伝わる感触も硬く心地良かったが、竹で一番強度のある表皮部分を使っているのでキズへの耐久性も高かったのかも知れない。


竹フローリング


それにしても幅と高さを揃えられているので節も削られてはいるが、しっかりと竹節がデザインとして残っているから本当に竹が敷き詰められているようだ。つくづく変幻自在の竹と、その魅力は尽きないと思う。